部員6人目
飛鳥が人狼部に入部してから1週間が経とうとしていた。
立川高校人狼部との合同練習の日まで残すところあと1週間程という状況である。
あれから翔太達はワンナイト人狼をメインに行い、元々人狼ゲーム慣れしていた翔太、香織、誠はもちろん、京子と飛鳥も人狼ゲームについて慣れ出していた。
初めての合同練習とはいえ、半端な知識と練習量で臨めば相手にとって失礼にあたることは重々承知である。
だからこそ、西住高校人狼部の生徒達は部室に残されていた本やDVDなども観て勉強していた。
「今日も白熱したゲームだったな!」
「たしかに。特に京子さんの活躍が目覚ましかったよね」
「えへへ。何か照れるなぁ」
はじめて後輩からの賛辞を受けるからか、素直に照れる京子。
すると、
「キャー!京子さんかわいいー!」
照れた京子の姿を見て、抱きつく飛鳥。
無理やり入部させられた飛鳥だが、すっかりと人狼部に馴染めているようだ。
香織(みんな馴染んできていい感じだな〜…ん?あれ?また?)
そんな和やかな人狼部の雰囲気に浸っていた香織は、以前見かけた人影に今日も気づいた。
香織はその人物に見つからないようにそろりと部室の扉に近づく。
「どうした?香織?」
急に動き出した香織に気づき翔太が声ををかける。
「静かに!誰か覗いてる!」
ガチャ!
??「わぁ!!」
突然開いた扉にびっくりする生徒。
「人狼部にご用ですか?!」
怪しい人物に対して睨むように問いかける。
??「す、すいません!気になって、つい見入ってしまいました!」
扉の先には、小柄で弱そうな男子生徒の慌てる姿があった。
「どうしたの?見学かな?とりあえず入りなよ」
優しく迎い入れる誠。
??「し、失礼します。あ、あの古川先輩いますか?」
恐る恐るといった様子で何かを言いたげな生徒。
部室の奥で腰掛けている京子が何事かと首を傾げながら、その男子生徒に向かって歩いていく。
すると、男子生徒が突然頭を下げた。
??「古川京子さん!あなたに惚れました!是非、人狼部に入部させてください!」
「………」
京子たち「えええぇぇぇぇぇ!!!!??」
ーーーーーーー
男子生徒の発言からしばらく経ち落ち着いた頃。
「いやぁー、びっくりしたな?」
「ほんとよね!いきなりだもん!」
「人狼ゲームのプレイスタイルに惚れたってことね。私告白かと思っちゃった…」
誠と京子が男子生徒と話している間、翔太・飛鳥・香織はとても驚いた様子でヒソヒソと語り合っていた。
??「先程はすいませんでした…あ!自己紹介が遅れました。1年Dクラスの近藤勇介です。よろしくお願いします!」
「ともあれ、入部希望なら断る理由はないよね?ようこそ人狼部へ」
部内の常識人である誠が丁寧な対応をする。
「部長の伊角翔太だ!よろしくな!」
「はい!よろしくお願いします!」
こうして新たな人狼部の部員が加入したのであった。
「じゃあ、そろそろ下校時間だし帰ろっか!近藤君は明日から練習に参加ってことで!」
部室を覗いていた怪しい人物の正体がやっとわかり、香織はスッキリした気持ちで帰り支度をしていた。
部室の鍵を閉め歩き出す翔太たち。
すると、廊下で1人の生徒とすれ違う。
「ん?あ!お前この前の!」
「詐欺師のこと知ってるんだろ!教えろよ!」
以前、詐欺師と呼ばれる生徒を探しに行った時に出会った1年Cクラスの五十嵐という生徒に遭遇した。
「んぁ?あぁ、あん時奴か。またお前かよ、お前とは会わねえって言ってるだろ?」
前に会った時と変わらずダルそうな態度で返事をする。
すると翔太の後ろから勇介が何か言いたげな雰囲気で話しかける。
「あ、あの…」
「近藤君どうしたの?」
近くにいた誠が小さい声で聞き返す。
「いや、この人が詐欺師って人ですよ。僕の友達が言ってました…」
「え?この人が詐欺師?」
勇介の言葉を拾った香織が少し大きな声で繰り返す。
「ちっ。知ってやがったか。そうだ、俺が詐欺師って呼ばれてる。まあそう呼ばれるのは不本意だがな」
仕方がないという仕草を取る。
「おい、お前騙してたのかよ!?」
そんな敦の態度に腹を立てる。
「あぁ?人聞きわりぃな。騙してねぇだろ。俺はあの時、確かによく知ってると言ったはずだ」
(たしかに、ウソはついてないか…)
誠はその時の発言を思い返す。
敦と翔太が睨み合っていると、翔太達の集団の1番後ろにいた飛鳥が何事かと顔を覗き込ませた。
「ん?あれ?あっくん?」
いきなり敦を指差すなり、そう言い放つ。
「やっぱり!あっくんじゃん!久しぶり!同じ高校だったんだね!」
「げっ、お前飛鳥か!?…まさか地元だからもしかしたらとは思ってたが…」
飛鳥の姿を見るなり焦る敦。
「あっくんどうしたの?翔太達と知り合いだったの?っていうか、あっくんが詐欺師って人だったの?」
「うるせぇ、飛鳥には関係ねぇだろ」
うるさい幼馴染と遭遇したかのような態度で接する敦。
そんな敦と翔太のやり取りを見て、何かを閃いたのか、横にいた翔太に何かを耳打ちする。
それを聞いてニヤつく翔太。
「ねぇあっくん、人狼部入ってくれないの?」
「入らねぇよ、めんどくせぇ」
「ふ〜ん、ならあの事をみんなに言いふらそっかな〜」
「あの事?何だよそれ?…っておい、まさかあれか!?」
「ニシシ〜。いいのかな?実はね、あっくんは小さい時に私と…」
「くっ!わかった、やめろ!やめろ!入ればいいんだろ?…くそ!」
敦にも晒されたくない過去があるのだろうか、幼馴染の飛鳥に重大な秘密を暴露されるわけにはいかず渋々人狼部に入ることを余儀なくされた。
「ってことだ。五十嵐!お前はもう人狼部の一員だ!明日から練習に来いよ!」
飛鳥を勧誘した時と同じ方法で敦を勧誘した形になったが、ともあれこれで翔太・誠・香織・京子・飛鳥・勇介・敦の7人が揃い、晴れて人狼部存続の規定人数を満たしたのである。
しかし、飛鳥の時とは違ってあからさまに入部を嫌がる敦を前に、誠や香織、京子といった他の部員はあまり素直に喜べずにいた。
誠(こんな調子で大丈夫なんだろうか…)
翔太からの呼びかけも無視して、1人帰宅へと向かう敦。
敦(っち、面倒な事になったな…。どうにかして回避しねぇと…)
その敦の背中を見て何かを感じたのか、翔太も心の中で呟いた。
(確かに始まりとしては良くないのはわかってる。けどあいつには詐欺師と呼ばれる程の実力があるってことだ。絶対人狼部に入って良かったと思わせねぇといけないな…)
7人の部員集めに必死になっていたのもあるが、ちゃんと人狼部の部員として今後も活動してくれるように努めないといけない。そう部長としての自覚を覚えた翔太であった。