Kill Monsters
「起立!」
ガタガタと椅子がなり、その部屋にいた全員がスクリーンの前に立つ指揮官に注目する。
「知っての通り、我が軍の第一、第二大隊が敵主力部隊と戦闘に入り、5時間が経った今でも膠着状態が続いている」
スクリーンに映し出されるのは、我々フェルブライト軍の主力第一、第二大隊の戦力と、敵主力の戦力差。ほぼ均衡している。敵の主力も二大隊程度らしい。
指揮官は続ける。
「諸君ら第三大隊には、これより輸送機で出撃。敵主力の後方に空挺降下後、挟撃、殲滅してほしい」
ガンルームがざわめきに包まれる。当然だ。敵地上空に輸送機で出撃する危険性は半端なものではない。
「質問、よろしいですか?」
手を挙げたのは俺の同期の男。愛称はスラッシュ。ナイフ戦が得意な今時の戦争には不向きなタイプだ。
「なんだ?」
「なぜ空挺降下なんです?トラック輸送でもいいでしょう」
指揮官のスロート大佐はパソコンを操作して、スクリーンに衛星写真を映し出した。
「敵の陣地に、援軍が集結しつつある。到着は今から…3時間後。諸君が今からトラックに搭乗して全速力で向かったところで、到着は5時間後だ。2時間もの間耐えるほど、我が軍の主力に余裕は無い」
つまり、敵主力を挟撃した後、味方主力と合流して敵援軍を撃破ないし陣地を攻撃するということか。
「敵主力の後方に空挺降下する理由としては、我が軍の損害を抑えるためだ。ランチェスターの法則では、損害は戦力の2条に比例するはずだ。大隊単位で考えるなら、今のところ2:2だが、第三大隊が加われば、3:2、これを2条すると、9:4で、我が軍が4の損害で勝つことになる。だが残りの5で敵の援軍が叩けるかは怪しい。挟撃することで、この法則を崩し、7または8の戦力を保ったまま敵の援軍を迎撃する」
「作戦はわかりましたが降下する機体は?第三大隊全員、1200人が乗るとなると相当数の輸送機が必要だと思いますが」
「4機だ。今回が初陣となる、SC-30Kを使用する。完全武装の歩兵300人を搭載できる代物だ」
現在我が軍は、とある独裁国家と戦争中だ。核兵器を大量に隠し持っているとして世界中から政府直属の施設を公開するよう求められていたが、つい先日我が国に宣戦布告をしてきた。窮鼠猫を噛むとはいかず、その敵軍も今や壊滅寸前、おそらくさっきのブリーフィングで出てきた主力と援軍で戦力としては全てだろう。
SC30K、実際に見てみると、相当な大きさだ。
全長は100mを超えるだろうか。全長以上に長さのある主翼に8発のエンジンをぶら下げている。
機体のケツに空いたカーゴドアから仲間が次々と乗り込んでいく。
「よう、スコープ。何番機だ?」
後ろから声をかけてきたのはさっきのスラッシュと同じ、同期のニップル。爆薬の扱いが得意で、仕掛けられたトラップをこれまで何度も突破してきた。
「3番機、スロート大佐と同じ機だよ」
「ははっ、目ぇ付けられんなよ。厄介だぞ」
スロート大佐は目をつけた部下を弄くり回すという。主に下ネタ中心に。先の大戦で歩兵として大戦果を挙げた彼は、味方から「殺戮者」のあだ名を付けられ、それをもじって名乗っている。
「気をつけるよ。お前は何番機だ?」
「俺ァ4番。スラッシュは2だとさ」
「みんなバラバラか、向こうで会おうぜ」
「墜されんなよ」
「俺に言うな」
最後に軽口を言って別れる。さて、3番機は…あっちか。流石にフル装備だと歩くのも並とはいかない。しかも炎天下だ。汗が垂れてくる。
「なんだスコープ、彼女とヤッてたか?」
どうやら3番機は俺が最後らしい。最後席に座っていたスロート大佐に大声で下ネタをぶつけられる。これは目をつけられたな…
機内が爆笑に包まれ、俺は苦笑いを返して最後の空席に座る。
席の配置は4列で1列目 2列目の間、3列目 4列目の間に通路がある。他の隊員が邪魔で通路に出られない、ということがない上に、スペースも活用できる配置だった。
通路を挟んで隣にいた奴が話しかけてくる。
「災難だな」
「全くだ。ニップルの野郎呼び止めやがって。おかげで最後だ。…ところでお前は?」
「クラッチって呼んでくれ。さっきスコープって呼ばれてたけど、あれ本名か?」
「ンなわけあるか。狙撃が得意な方だからな、そう呼ばれてんだ」
「なるほどね。スロート大佐もそのあだ名を知ってたわけか」
「らしいな。そこまで有名じゃないと思ってたんだが」
それから他愛もない話をクラッチとしながらフライトを楽しむ。1時間で敵地後方の上空だ。
「ん?そのポケットには何が?」
クラッチが目敏く見つけてくる。
「あぁ、彼女の写真だよ。6月に結婚するんだ」
「へぇ…生きて帰らないとな」
「当たり前だ。お前は、生きて帰るつもりか?」
「むしろ死ぬつもりの奴ァいないだろ。俺もワイフが臨月なんだ。さっさと終わらせて帰らないと出産に立ち会えない」
「そりゃめでたい。帰れればボーナスも出るし、子供になにか買ってやらんとな」
「あぁ」
「そういやスロート大佐の娘が結婚するんだとさ」
「へぇ、娘いたのか」
「らしいな、俺たちにゃ関係ないか」
「だな」
「なんだ俺の話か?」
「なんでもありますん」
焦って噛んだ…
「娘さんの結婚式には出席するんです?」
ナイスフォロークラッチ
「当たりめぇだ。死んだ妻も結婚式は見たがってたからな、俺だけでも出席してやんねぇとアイツに面目ねぇ」
「目的地到着。カーゴドア開きます」
機内の伝声管からパイロットの声が聞こえてくる。通信が何も入らないところを見ると、他の輸送機も攻撃は受けてないらしい。
俺達は最後尾に座っていたから、必然的に先頭で飛び降りることになる。
通路に前後に向けて張ってあるワイヤーにパラシュートの紐のフックをかける。こうすれば飛び降りるだけでパラシュートが勝手に開かれるということだ。
「また後でな」
クラッチに声をかけ、カーゴドアから飛び降りる。
軽い衝撃と共にパラシュートが引き出され、頭上に白い花が咲く。
周りを見てみると他の機から飛び降りた連中のパラシュートがそこらじゅうに舞っていた。
地上に降り、パラシュートを回収後、信号弾で示された合流地点に向かう。
「ようニップル、スラッシュ。無事だったか」
「大佐に目つけられたらしいな?」
「お前のせいだ、ニップル」
「引っかかったな馬鹿め」
「にしてもパラシュートは何回やっても慣れないな」
ニップルとスラッシュとも合流し、3人で談笑する。
「全員いるな。これより全軍で敵の背面を突く。ついてこれない奴は置いていくからな」
スロート大佐の怒鳴り声を合図に、俺達は敵主力の背後に襲いかかった。
結論から言うと、作戦は大成功に終わった。
スロート大佐の例えでは7か8ほど残るはずだったが、実際やってみると自軍の戦力の9ほぼ全て生き残った。
三大隊3600人のうち、死亡112人。前線を離れるほどの負傷52人だった。4%の消耗で敵の主力を撃破できたことにより士気も上がり、敵の増援部隊も楽に蹴散らすことが出来た。
これから敵の陣地に攻撃を仕掛ける。
誰もがそう思っていた時だった。
「敵襲!」
敵の軽爆撃機が1機、突っ込んできた。
やぶれかぶれか何か知らないが、歩兵の隊列に爆撃なんて食らったらひとたまりもない。
全員が伏せて爆発に備えたが、一向に衝撃が来ない。
顔を上げてみると、通信筒が落下傘付きでフワフワと降りてくるところだった。
スロート大佐が中身を確認する。
「我が軍の主力を撃ち破る戦術、戦略。誠に感服した。然しながらこちらも黙って敗北宣言をするつもりは無い。
諸君らの後方にあるアンヘル空港を解放する。その空港に離着陸する航空機をこの通信筒の投下より12時間、一切撃墜しない。直ちに輸送機を呼び、この地を離れられたし。12時間を経過し、まだ貴国の兵士が残っているようであれば、実験段階のものではあるが、生物兵器を解放する。我々もそれは本意ではない。貴君らの英断を祈る」
「B.C兵器は国際条約で禁止されているはずでは!?」
「奴ら、国際的な非難も厭わないつもりか!」
「ただの脅しじゃないのか?」
スロート大佐が読み上げるのを聞いていた周りの兵士が口々に騒ぎ立てる。
スロート大佐は無線機で連絡を取り合っている。他の大隊長や軍の上層部とだろう。
「第三大隊第一中隊第一小隊の12人、集合!」
大佐の一声で、俺、ニップル、スラッシュ、クラッチを含む12人が周りに集まる。
「これから三個大隊が引き上げる。我々は残って、敵の生物兵器とやらの実態を調査しろということだ」
「大佐もですか?」
「それは俺の意思だ。部下を置いて安全な場所に逃げれるか」
「とりあえず敵の本拠地に近づきますか?その方が実態がわかりやすいかも」
スラッシュの意見に大佐も同意し、俺達13人はガスマスクを着けてから移動を開始した。
しばらく歩いていても、なんの変化もなかった。
時々見かける野良犬も苦しむ素振りは見せない。毒ガスや細菌類ではないのかもしれない。
「止まれ」
イヤホン越しに大佐の囁きが聞こえてきた。
「全員伏せろ。何かいる」
指示通り伏せて、双眼鏡を大佐の指す方に向ける。1kmほど先だろうか。人型ではあるが緑の体に首のない頭部。双眼鏡についている測距儀を利用して測ってみると、身長はおよそ3mほど。長い腕には長い爪が生えているようだ。
「スコープ、撃てるか?」
「1kmなら余裕です。頭でいいですか?」
「あぁ、頼む」
「サイレンサーは?」
「付けてくれ。音でバレるとどう動くかわからん」
「弾速落ちるから嫌いなんですがね…」
「超音速の弾を1km先まで飛ばせる上にそれで仕留めれられるなら無しでもいいぞ」
「着けますよ…」
相手の弱点がどこにあるか分からない以上、変なリスクは抑えるべきだ。
背中に背負っていたスナイパーライフルを伏射で構え、スコープを調節する。ダムダム弾を装填し、撃鉄を起こす。ダムダム弾は着弾した相手の体内で炸裂する銃弾で、とある国では製造すら禁止されている凶悪な弾だ。
プシュッという軽い音とともに銃弾が奴に向かって飛ぶ。サイレンサーで弾速が落ちるとはいえ、5秒で目標まで到達する。
グチャッという音が聞こえそうな勢いで奴の顔が弾け飛ぶ。
「おみごと」
「それほどでも」
膝から崩れ落ちたソイツの死体を確認するために近寄ってみる。
20mほどまで近づいたところで、ニップルが手榴弾を構える。
「起き上がってやがる…」
スラッシュが呟く
頭を吹き飛ばされて起き上がるなんて、こいつはどんな体をしているんだ…
全員がサブマシンガンやアサルトライフルを構える。
「撃て!」
大佐の叫び声は、食い気味に始まった銃撃で半ばかき消されたように聞こえた。
鱗を纏った体に次々と穴が空いていく。
痛がる素振りも見せないソイツは、いきなり踵を返すと走って逃げて行った。
「アイツが生物兵器か…?」
「それ以外ないだろう」
「なんて生命力だ…」
「小火器で殺せるのか?」
大佐は無線で今の戦闘の報告をしているようだ。
「核を!?」
いきなり聞こえた大佐の大声で、持っていた銃を落としそうになった。
「やっぱり核使うのかな」
「戦車持ってきて無理だったら使うんじゃないか」
「その前にガンシップだろ、戦車を陸に上げるのはリスクが高すぎる」
「あの爪でも戦車の装甲は破れんと思うがね」
「アイツには常識が通用しないだろ」
12人の間でもあの兵器の対策についての話が広がっていった。
「よーし、おしゃべりはその辺で終わりだ。移動するぞ」
いつの間にか通信を終えた大佐が移動を指示する。
「どこに行くんです?」
「ここから3km東に街がある。まぁ戦闘がこんな近くで起こってるんだ。住民はみんな避難してるだろうが。食料やらの物資を調達する。規格が合うやつがあればだが、弾薬もな」
街に着けば飯が食えるとなって、俺たち13人の足取りは比較的軽かった。もちろんレーションはあるが、流石に飽きる。
街に着く頃には暗くなり始めていたが、大佐の予想通り全員逃げたのか、明かりはついていなかった。
食料品店から好きな食い物を取っていく。通貨が同じだったので、カウンターに代金は置いていく。略奪者ではないことの証拠だ。
空き地に集まり、焚き火を囲んで飯を食う。その間も警戒は怠らない。
「誰だ!」
立哨のニップルが叫ぶ。
「撃たないでくれ!ここの住人だ」
若い男が1人立っていた。
ニップルがポケットなどを調べ、爆薬などはないことを確認した。
「用件は?」
「圧政からの解放者に寝床の用意があります。是非、ついてきてください」
市民の間にも、この国の独裁政治に不満が募っていたらしい。解放者なんて呼ばれてむず痒かったが、悪い気はしなかった。
その男について行ってみると、着いた先は教会だった。たくさんの人が教会に避難しているらしい。祈りを捧げる人、椅子にうずくまって震えている人、聖書を読みふける人。様々だったが、俺達を見る目に悪意はなかった。軍人として様々な土地に赴き、現地の人と会ってきたから、目を見ただけで敵かそうじゃないか見分けられるようになっていた。
「こちらの部屋です。どうぞ、お寛ぎください」
教会の中にある大部屋に通された。ベッドもちゃんと用意されていて、本当に戦争中なのかと疑うほどだった。
「我々は雑魚寝で結構です。ベッドは街の人に」
「避難所はここだけじゃありません。ここに避難している人たち全員を賄うだけの部屋は確保してあります。お気になさらず」
若い男はそのまま去っていった。
とりあえず明日の予定を話し合い、またアイツに会うまで首都に向けて歩くことを決め、眠りについた。
夜中に起きたのは、悲鳴が聞こえたからだ。
廊下に飛び出してみても、どこからの悲鳴か分からなかった。
全員が服を着て部屋を出るまで、それから3分かからなかったが、その間にも何度か悲鳴が聞こえてきた。女。男。子供。大人。関係なく。
聖堂に降りるまで、同じく悲鳴で起きたのか、何人かの人に会ったが、部屋に戻って扉が開かないようにしておくように言っていた。
聖堂に降りた時、血の匂いでむせ返りそうだった。
窓から差し込む月明かりを反射する血溜まり。その中に黒く横たわる幾体もの死体。その死体には決まって刺し傷か大きな切り傷が付いていた。
「大佐…これって」
「あぁ、ヤツだろう。人間なら敵じゃなくてもいいってことか、クズどもめ。なんてものを放しやがった」
その時また、外から悲鳴が聞こえてきた。このままじゃこの街全員がヤツの餌食だ。
「トラックを1台使いたいんだが、あるか?」
部屋に戻り、若い男を一部屋に集めて惨状とこれから俺達がやることを説明する。
「あぁ、それなら俺のを使ってくれ。貴方ら全員乗れるはずだ。この教会の真横に止めてある赤いやつだ」
「ありがとう、返せないかもしれんが?」
「命があればそれでいいさ」
「すまんな」
鍵を受け取り、教会の横に止めてあるトラックに全員が乗り込む。
大佐がエンジンをふかし、大きな音を立てる。ついでに調達しておいた弾薬も少し使い、銃声でもヤツをおびき寄せる。
「来たぞ!三体いる!」
「一匹じゃなかったのかよ!」
大佐がトラックでヤツらを跳ね飛ばしながら全速力で走る。追いかけてくるヤツらを荷台から撃つのはあとの12人の仕事だ。
街中を走り回り、ヤツらを一通り集めたところで街を出て西に荒野をひた走る。
「何匹いる!?」
「15!!」
「1人1匹抱いて2余る!誰か2人が3Pでもしてやれ!!」
「「「「いやです!」」」」
こんな時でも下ネタをぶち込んでくるスロート大佐を俺は嫌いになれない。
追ってきていた15匹全部を振り切り、一息ついた頃。
ゴッ!!!
という轟音とともにトラックが急停止する。
かと思いきや、前方にひっくり返った。屋根がなかったら全員放り出されていただろう。
「何が…?」
「わからん」
ひとまず全員トラックの荷台から這い出す。
「うわ…」
そこにはトラックを右腕から生やしたヤツがいた。いや、右手の爪がトラックのエンジンルームに突き刺さっていた。
「地面に…潜ってたのか?」
「大佐!」
ヤツの死角になるトラックの左から運転席をのぞき込む。
「大佐!」
頭から血を流して目を閉じている大佐の姿があった。
「スコープ!危ない!」
いつの間にか爪を抜いたヤツに、トカゲのような黄色い目で睨みつけられる。
スラッシュの叫びとともに銃声が荒野に鳴り響く。
逃げられないように足を撃ち抜き、見えないように目を撃ち抜き、手を振られないように筋を撃ち切り、あとは体に全員で全弾叩き込む。
崩れ落ちたヤツの死骸も、いつ動き出すか分からないほど不気味だった。
通信がその時入る。
「第三大隊第一中隊第一小隊の誰か、聞こえていたら返事をしてくれ。」
「こちら第一小隊スコープ。どうぞ」
「核攻撃が開始される。24時間以内にアンヘル空港に帰投しろ」
「核攻撃なんてしても無駄だ!ヤツらはもう国中に散ってる!」
「関係ない。ヤツの写真データを貰ったが、島国であるそこから出られる体はしていない」
「……島ごと吹き飛ばすつもりか」
「俺に言うな、上層部の連中の決定事項だ」
「ふざけるな!ヤツらは普通の銃撃で殺せる!住民まで巻き込んで奴らを殲滅してみろ!ヤツらに住民を殺させた独裁国家と何ら変わりはなくなるぞ!」
「通常攻撃で殺せるのか!?上層部に伝える。ともかくアンヘル空港に戻ってこい。通常攻撃で殺すにしても軍の再編が必要になる」
「了解」
そこから俺達は、アンヘル空港に向けて歩き出した。スロート大佐のことは確認するまでもない。あれじゃ助からない。
途中はぐれのヤツらに2度遭遇したが、さっきと同じ手順で殺す。単体で姿を現している奴ならそこまで怖くない。問題はさっきと同じように隠れているやつと複数で行動する奴らだ。
無事にアンヘル空港まで辿り着いた俺達は、友軍の輸送機に乗り込みその地を離れた。
「ザ…エイヴ・ミッターマイヤー、聞こえるか…?」
「!?大佐!!?」
『あぁ、繋がったか、さっ…輸送機が離陸するの…見えたんでな』
「パイロット!引き返せ!スロート大佐が生きてる!」
『無駄だ。振り切っ…15匹に追い…かれた』
途切れ途切れに聞こえてくるスロート大佐の声は、段々途切れが多くなってきた。
『ミッタ…マイヤー、軍で本名を呼ぶの…これが初め…か』
「えぇ…すみません、生きていると思わなくて」
『馬鹿…、気にするな、一つだけ約束…ろ。
娘…泣か…るな。俺が…ねばアイツは絶対泣…。それ以…泣かせ…な。娘より…生きしろ。お前が俺…置き去…にした…を罪に思う…ら、そ…を以て償…』
「わかりました、約束します…お義父さん」
『馬….め、まだ結婚し…ないの…、義父も…ソもあるか』
「………ありがとうございました」
『ザ…………………』
それっきり、俺の婚約者の父親であり、俺の上官のスロート大佐、もとい、レオナルド大佐の声は聞こえなくなった。
基地に戻ると、俺の婚約者、ライザが待っていた。
「エイヴ…聞いたわ、お父さん死んだって…」
「すまない…俺のミスだ…」
「お父さん、言ったでしょ、きっと。『俺が死ねば娘は泣く』って、泣くもんですか。そんな弱く育ったつもりはないもの」
「ライザ…言い出しづらいんだが、俺、もう1度向こうに行ってくる。お義父さんのドッグタグだけでも持って帰りたいし、仇も討ちたいから」
「式場の予約ならもう延ばしてあるわ。8月までに戻ってきて、絶対生きて。」
「あぁ…生きて帰る。絶対に」
「あー、エイヴ中尉、いいか?」
「し、失礼しました。なんでしょう」
声をかけてきたのは第二大隊長だった。
「基地司令からの司令状だ。『これより一時、休暇を命ずる。身体が快復し次第、原隊に復帰せよ』との事だ。」
「なんでです?」
「当たり前だろう、海外任務のあとは休暇が義務付けられてるんだ」
「了承しかねます」
「命令だぞ」
「1000ダロスの罰金でしたね、今回の海外任務の報酬から天引きでお願いします」
「な…」
ふと周りを見ると、まだ子供の顔をした兵士が見えた。
「ちょっとそこの、いいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「名前と年は?」
「ビル・グランデ一等兵、19です」
「所属は?」
「第八大隊に所属替えとなり、これより生物兵器の討伐に向かうところです」
若いのにしっかりしてる…死なせるわけにはいかんな
「ビル一等兵、飲んでみろ」
ポケットからこっそり忍ばせておいたブランデーの缶を取り出して渡す。
ビルが飲むのを見計らってさっきの第三大隊長を呼んでおく。
「ビル一等兵!酒を呑んで任務に当たるとは何事か!」
大隊長の一括が飛ぶ。
「も、もうしわけありません!」
「一等兵を今回の任務から外す!エイヴ中尉!これから任務の兵に酒を呑ますとは何事か!代わりに前線に行ってこい!」
「さすが大隊長、言いたいことがよく分かってらっしゃる」
ビル一等兵にはすまんが、場数踏んでない兵にあの戦場はキツすぎる。災害救助やらで死体に慣れてからじゃないとな。
「じゃあ、ライザ、聞いたとおりだ。また行ってくる」
「15匹に追いかけられたって言ってたわね」
「あぁ」
「10匹は仕留めてきて」
「任せろ」
軽く笑いながらSC30Kに向かう。
結婚を認められた時に大佐に渡された50口径のハンドガン、トーラス・レイジングブルを携えて。
お久しぶりですサカジョーです。
前回恋愛だったわけですが今回は戦争モノにしてみました。前半は中々いいんじゃないかと自分でも思ったんですがトラック撃破あたりから崩れ始めたかなと…反省
次はまた趣向を変えたものを投稿するつもりですのでお楽しみに(いつになるかは未定)