弟子と店員と理解者
キョトンとした少女。愛らしく愛嬌のある風貌。
凛と俺を交互に見て、目を輝かせた。
「もしかして、かかかのじょ!!?」
俺は間髪をいれず否定した。
「おじさんにコイツから頼みがあるんだが…、いま留守か?」
「いま外出中だよ!まぁそんなことより早く中にお入りなさい!お茶ぐらいならだすよ~~」
拒否る俺の腕を無理やりグイッと引っ張って中に引きずり込んだ。凛はそのあとを付いてきた。
こいつはおじさんの一人娘の柚子。うるさいくらい元気なのが取り柄の一般的からちょっとはみ出した系の女子だ。
いまどき懐かしい丸いちゃぶ台に座って、柚子がお茶を運んでくるのを待った。
「はいっどーぞ!」
がたんと三つ湯呑みがのったお盆を置いた。お茶が波立ってこぼれるギリギリの揺らぎを繰り返した。
「ありがとう。私の名前は凛と言う。今日はお父様にお願いがあって訪問させていただいた」
「そうなんだ!お父さんはもうちょっとで戻ると思うよ。あの人暇だとすぐ謎の石を見つけ出してくるとかいって出かけるんだよね。でも最近は体力の低下からか、すぐに帰ってくるんだよ~」
俺は凛が突拍子もないこれまでの話をするか不安だった。あんな話、さすがの柚子でも引いてしまうはずだから…。
「そうか。ではそれまで少しこれまでの話をさせていただこう。実は私は100年前からやってきた呪術師だ」
始まってしまった…。まぁ身分を隠すような真似はしないだの何だの言ってたから言うだろうとは思ったが…。それからよどみなく今までの経緯を話し続けた凛。柚子は目を丸くして黙って聞いている。
話が終わって、間髪いれず大きな声で騒ぎだした…。
「え~~~~~~~~~~!凄い!!そんな凄いオカルティックなことが本当にあるの!!???」
近所迷惑だから声量を考えてほしい。まぁ、驚くのも無理はない。こんなの信じないのがまともな人間だ。
「言ったことに嘘偽りはない」
シンプルな返答だな。
「わかった!ぜんぶ信じるよ!」
駄目だコイツ…。まぁ本当は本当なんだけどさ…。
「お店を貸すのはぜんぜん構わないんだけど、その代わり、何か呪術をみせてよ!」
あたかも自分に権利があるかのように発言する柚子。だが、たしかにこいつの親父は柚子の言いなりというか、奴隷のような存在だ…。
「そうだな、ではこれくらいの紙と何か筆を貸してくれ」
柚子が適当に見つくろった紙とペンを使って、術式のようなものを書きだした。雰囲気は俺がずっと書いていたものに似ているが、形が少し違っている。
「よしできた」
そう言うと、できた術式を柚子のおでこにいきなりパチッと貼り付け、呪文のような言葉を唱えた。放心状態のような表情の柚子。いったいなにが起こってるんだ…?
* *
「おい、大丈夫か」
俺の問いかけにようやく意識を取り戻したようになった柚子の目が、次第に輝きを放った。
「すごかった…」
あのテンションの高い柚子がしみじみとしている。なんなんだ一体…。
「あの…、わたしを弟子にしてください…!なんでも…なんでもしますから!!」
「すまない。あいにく私は弟子は取らない主義なんだ」
そっけなくあしらった凛に、柚子は勢いよく土下座した…どれだけ必死なんだコイツ…。
「ガチャッ ただいまー…ってなにこれ!?」
そんなわけの分からない状態のところにおじさんが帰ってきた…。凛が土下座する柚子をスルーして一通りの挨拶と今までの経緯をおじさんに話した。
「オカルト好きなんだね~君は。おじさん理解者が少ないからとっても嬉しいんだ今。もう好きに使って良いよ。もう本当に人が月に1人くらいしか来ないんだ。さびしいんだよわたしは」
また例の美しいお辞儀をする凛。思わず見惚れる…が、この親父は本当に頭が緩いみたいだな…。こんな赤の他人に場所を提供するなんて…。
「ただし一つだけお願いがあるんだ。娘を店員として雇ってくれないか。給料なんかはいらないよ。ただたまに店を手伝わせてやってほしい。あなたに惚れ込んだ娘もきっと喜んでくれる」
柚子が手を組み合わせて祈るようにこちらを眺めている。弟子じゃなくて店員でいいのか?大分違うと思うぞその二つは…。
「こちらとしてもそれは大助かりだ。これからよろしく頼むぞ、柚子」
「やったああああああああ!!わたしがんばるよ~~~~~~!」
いったいなにをされたらこんなに入れ込むことになるんだ?ちょっと恐ろしいと思うと同時に頼もしくも見えてきた。
こうして俺たちは店と店員と理解者を手に入れて、本格的に活動の準備にとりかかり始めた。