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ラズリの世界  作者: 遠藤ゆきな
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絶望の淵で

(私が父の会社で働き始めて半年がたった。まぁ、働くといっても今は学んでばかり。それでも楽しかったし、アシュリンが手伝ってくれた。アシュリンは何でも出来て、すごいなぁ…)

ラズリは今会社の事務所でお茶を飲んでいた。そして窓を見て外の世界に思いを巡らせていた。

(今までの私は世間知らずだった。お金がなくても幸せな人はいるし、お金があっても幸せじゃない人もいる。私はどっちなんだろう?ただ私はお腹を空かせている子には手を差し伸べたい。そうアシュリンに言ったら

「お嬢様のお気持ちは素晴らしいですが、それだけでは何も解決しません」

と言われた。そうだけど…でも言っているアシュリンは悲しそうな顔をしていた。)

ふと机の上の資料が目に入った。

(フォルドクリスタルの価値は本当にすごい。この一欠けらで何人の子供が温かい食事を食べられるだろう?)

だが今このクリスタルに問題が起きていた。


ここは社長室。ラズリとラズリの父と叔父が話し合っていた。

「フォルドクリスタルが最近売れていない」

「どうして?」

ラズリは父と叔父に聞いた。

「クリスタルを買ったお客様が最近何人も襲われ、クリスタルを盗まれているらしい」

「今までは怪我人が出ただけだったが、とうとう死人がでた」

「嘘だろ!本当かい?」

父は叔父に新聞を渡した。

「くそっ、最悪だ。これからクリスタルを買う人は少なくなる」

「被害者はみんなクリスタルを盗まれているの?」

「そうだよ、ラズリ」

「ならなんで、うちのクリスタルの倉庫を狙わないのかしら。一番クリスタルがある所なのに」

「うちの倉庫はクリスタルを何人もの警備員と厳重な金庫で守っている。そう簡単に盗めるはずがない」

「だから、あの時盗まれた」

父が発した言葉に私と叔父は驚いた。

『あの時って?』

「私が拳銃で襲われた時だ。あの時はたくさんのクリスタルを運んでいた最中だった。金には目もくれずクリスタルだけを盗む。全て同じ犯人のグループだろう」

ラズリは新聞を読み返す。たしかにクリスタルだけが盗まれている。その最中に邪魔をされぬように持ち主や周りの人を傷つけたようにみえる。しかも同時刻に同じような事件が起きているから犯人はグループであろう。

「確かに兄さんが襲われた時はたくさんのクリスタルが盗まれてしまった。だがお客様のクリスタルなどアクセサリーになっているからとても小さい。犯人達はわずかなクリスタルをも盗もうというのか」

今の叔父の発言にラズリは違和感を覚えた。

(クリスタルのアクセサリーはお金のために盗まれているんじゃないの…?)

「とにかく倉庫のクリスタルを守り、犯人を追い詰めなければならない。そうしなければ会社は終わりだ」

「兄さん、僕が直々に倉庫の監視を行う」

「ああ犯人グループは警察と協力して捕まえよう」

ラズリと叔父は社長室から出た。


ラズリはアシュリンを探した。

「あっ!アシュリン」

「どうなさいましたか」

「相談があるの」

ラズリは社長室での会話をアシュリンに話した。

「なるほど。私も最近物騒な事件が多いと感じておりましたが、フォルドクリスタルが原因だったのですね。」

「そう。でも私はこれ以上クリスタルのせいで傷つく人を増やしたくない」

「その通りです」

「それで私が感じた違和感なんだけど。話してもいいかな?」

「何ですか」

「クリスタルを盗んで犯人達はどうしているのだろう?お金にしているのかな?でもそれなら、父が襲われた時もお金を盗めば良かったし、他のアクセサリーでもいいと思うの。なぜフォルドクリスタルを盗むんだろう?」

「……」

アシュリンは考え込んでしまった。

「アシュリン?」

「申し訳ありません、お嬢様。私には分かりかねます。…しかし私の小さな仮説でよろしければ聞きますか」

「ええ。話して」

「…私が小さい頃読んだ物語なのですが。その物語では、石を金塊に変えるのに美しい石のエネルギーを使ったそうなのです。そう古の時代に存在した錬金術です。現代に錬金術が復活したとはもうしませんが、何しろフォルドクリスタルも不思議な石。そのエネルギーを悪用するものが現れたのではないのでしょうか?」

「錬金術のように…」

「私の戯言です。どうかお忘れになって下さい」

「いえ、可能性があるかもしれないわ、アシュリン。話してくれてありがとう」

アシュリンはお辞儀した。

(フォルドクリスタルはクリスタルの中でも最も純度が高い。お金に代えられない、何か不思議な力があってもおかしくない。)

ラズリは嫌な予感を感じていた。


ある所の廃倉庫。外見は今にも崩れそうで、誰も近づかない。そんな倉庫の中から人の声が聞こえてきた。

「お前、人を殺しちまったな」

「しょうがねぇだろ。持ち主があまりにも抵抗するから」

「これから、クリスタルの持ち主は少なくなり、奪えなくなる」

「だが、もう試作品は出来たらしい。この試作品を使えば、大元に乗り込めるんじゃねぇか?」

「なら早く行こうぜ。相手が守りを増やす前に」

「クリスタルが多ければ多いほど、兵器の力は倍増される!」

「…皆殺しだ」

廃倉庫に潜んでいた七人は動き出した。


ラズリの叔父はクリスタルの倉庫の前にいた。警備員には交代で朝と夜の警備を強化せよと命令した。新たに人を雇い屋敷中を巡回させる事も予定した。

(倉庫の中の金庫にはクリスタルが入っている。僕らがこのクリスタルを見つけたのは何年前だっけ?あの時ほど喜んだ兄さんを僕は見てないな)

軽く苦笑した。倉庫の前を立ち去ろうとした時、倉庫裏の方から叫び声が聞こえた。次には爆発したような騒音。

「なっ…!」

(屋敷の裏門が破壊された…!)

「大変です!賊が裏門を破壊し、こちらに向かって来ています!」

「…っ!全員武装せよ!」

(襲撃が早すぎる!どうすればクリスタルを守れる…!)


ラズリは屋敷の中にいたが、十分に爆発音が聞こえた。

「父さん!何が起こったの?」

「分からない、だが危険だ!アシュリン、ラズリを守ってくれ!」

「はい!」

「父さんはどこへ!?」

「倉庫を見てくる!」

「え!それなら私…」

「お嬢様はこちらへ!」

ラズリはアシュリンに引っ張られてしまった。父の後ろ姿が遠ざかっていく。


ズン!ドカンッ!!

どうやら、倉庫の裏の壁を開けられたらしい。そう分かりながら叔父は倉庫裏に出た。

「動くな!撃つぞ!!」

倉庫の裏ではすでに警備員が三人息絶えていた。首謀者と思われる男が四人いた。三人は普通の銃を持っていたが、一人は他の銃の三倍ほど大きい銃を持っていた。叔父は止まり手を挙げた。

「お前達の目的はフォルドクリスタルか!?」

「そうだ。お前は何者だ?」

「僕はフォルド家当主の弟だ」

「それなら話は速い。クリスタルを全てよこせ。さもないと命は無い」

(クリスタルか命か…あいつらに金庫は絶対に開けられないはずだ)

「だめだ!渡すな!!」

「兄さん!?出てきちゃ駄目だ!」

男は父に向って大きい銃を撃った。

ズドンッ!!

「当ててねえよ。だが分かっただろ、『クリスタルガン』の威力」

父の斜め後ろにあった木が、撃たれた所から折れていた。

「クリスタルガン?フォルドクリスタルを殺人兵器に使ったのか!」

「そうだ。クリスタルのエネルギーでな。この武器さえあれば世界を変える事が出来る!だからクリスタルを全てよこしな!!」

(なんてことだ…)

叔父は落胆した。

(フォルドクリスタルは僕らにとって希望の石だったのに…。それが殺人兵器になってしまうなんて。兄さん。兄さんにとってはクリスタルが一番なのかもしれない。だけど僕は…!)

「取引をしよう」

「何だ?」

「フォルドクリスタルが一番多くある場所…採掘場に連れていってやる。だから家族と部下をこれ以上殺さないでくれ」

「…良いだろう。だがまずは、そこの倉庫のクリスタルを全てよこせ」

「はぁ、持っていけ」

叔父は金庫を開け始めた。

「弟よ、やめてくれ…」

「仕方がないだろ兄さん。何よりも命が大事だ」

三人の男達は出てきたクリスタルを運び、一人は父と叔父に銃を向けていた。

「これで全てだ。おいっ!採掘場に案内しろ!」

叔父は失意の底にある父を見つめた。

(兄さん。何よりも命を大切にしてくれ。そして済まない…)

叔父は四人の男と、三人の男が待つ犯人の車に向かった。


ラズリはアシュリンと屋敷の中で身を潜めていた。

「アシュリン…母と弟は無事かしら。それに叔父と父は…?」

「分かりません…」

アシュリンは少し前に大きな音のした方の窓を覗いた。

「お嬢様!どうやら賊は帰るようです!」

「本当!父は?」

「ここからでは見えませんが、倉庫の方に行かれたと思います」

「じゃあ、行ってみましょう!」

「お嬢様!?くれぐれも慎重に!」

ラズリとアシュリンは煙でよく見えない倉庫の方に向かった。


屋敷から出て倉庫への道を走ると、父の姿が見えた。

「父さん!!」

父はしゃがんでいる。

「父さん!無事なの?」

「…ラズリ」

「旦那様!」

二人は父に駆け寄った。アシュリンは父に怪我がないか見てくれた。怪我はなかった。

「何があったの?叔父さんは?」

「クリスタルを全て渡してしまった。しかもアイツは採掘場まで教えるつもりだ」

「何があったの…」

「敵は兵器を持っていた。フォルドクリスタルのエネルギーを使うらしい。クリスタルガンと言っていた…」

「フォルドクリスタルのエネルギーを!?…それじゃあアシュリンが言った通りじゃない」

「そんな、まさか…」

「アイツはその兵器から私を守るために、行ってしまった」

「それなら追いかけなくちゃ!まだ間に合うわ、父さん!」

「…そうだ、まだクリスタルを奪い返せるかもしれない!」

「私も行く!」

「駄目だ、ここで待ってなさい」

そう言うと、足早に部下に命令し、武装して父は車で行ってしまった。

「アシュリン…大丈夫よね?」

「…そうなる事を、祈りましょう」


「ここが、フォルドクリスタルの採掘場だ」

叔父たちは既に採掘場に着いていた。

(兄さん分かってくれ。僕は家族と部下たちそして町の全ての民を守りたい。クリスタルガンなど存在してはいけない…!)

「クリスタルはどこにある?」

「もっと奥さ。ついて来い」

叔父と七人の男達は採掘場の奥へ奥へと細い道を進んでいった。

「いい加減にしろ!クリスタルはどこにある!」

「…フッ」

「何笑ってやがる!!」

ガンッ!

叔父は殴られた。

「…君達には見えないのかい?そこら中にクリスタルがあることに」

「何だと!」

「例えば…これさ!!」

叔父は手に持ったダイナマイトに火をつけ男達に投げた。

「な…!」

ドカンッ!!ガラ…ガラガラガラガラ!!

採掘場は崩れだした。


その様子を外で走っていた車の中から父は見た。車は急ブレーキ。岩山に掘った採掘場はガラガラと音を立て崩れ去っていく。

(お前は最初からクリスタルガンをこの世から消す為に、わざわざ採掘場に来たのか…?)

今でもまだ爆発音が聞こえる。

(命が大事だと?これからクリスタルも無いのにどうしたらいい?)

叔父はクリスタルと一緒に死んだ。


数日後、かつて採掘場だった所の岩にラズリとアシュリンは花を手向けにやって来た。

「ここで叔父は犯人達とクリスタルを巻き込んで…」

「…恨んでいますか?」

「いいえむしろ尊敬するし、感謝しているの。あのままクリスタルガンがあったら、傷つく人が何人も出てしまうところだった」

「そうですね」

「でも…こんなことになるなら、もっと話をしておけば良かった」

「……」

「だから今は一言。ありがとう。そして、父と会社は私に任せて」

これから自身の生活も一遍する。それでも力強く生きようと思うラズリだった。


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