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NITE -傷だらけの翼-  作者: 刀太郎
第4章 現在編-動きだす物語-
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55話 天谷鳥

小説投稿が大幅に遅れてしまい、大変反省しております。普段の日常生活との兼ね合いを計算すると、『NITE-傷だらけの翼-』は来年の2月を目処に更新しく予定です。


それでは、第55話『天谷鳥』をお楽しみください。

  目覚めると、俺はいつも真っ白なベッドに横たわっている。シーツはいつも新品同様で皺一つない。中のスプリングは全然やつれてなくて、弾力の床面が背中を心地よく刺激してくる。

 まだ完全には覚めてはいない目を必死で擦って覚醒へと自分を導く。ずっと先に広がる景色はまだ完全には見えない。

 でも、そこは自分にとって何と呼べる場所なのかはまだわからない。ただ、そこは自分にとってはとても重要で、戻らなければならない場所であることは確かだった。

 そこはどこまでも広がる田んぼの景色。そこは見慣れた町外れのビル街。相反する記憶らがそれぞれを体を相殺していく。いつからかどちらも消えてなくなっていく。


 そしてその後、いつも俺は真っ白なセカイに放り出される。そこには何もなくて、自分さえもそこに存在しているのかも不安になってくる。


 だが、今日はそんなセカイのど真ん中に、最近真っ赤な炎が灯った。臙脂色のその炎は眩い光を放ち、影を作る俺を消し飛ばそうとしてくる。俺はそれを必死に抵抗しようともがく。

 俺は恐れているのだろうか。真っ赤に燃える光を俺はなぜ眩しいと感じるのだろうか。それが堪らなく怖いのだ。いつか自分が自分でなくなってしまうような不安が体を蝕んでいく。だが、それと同時にそれへ憧れる自分がいた。真っ黒で硬い硬い殻を突き破って出てこようとするもう一人の自分がそこにいるのだ。


 しかしながら、最後には俺は自分の世界へと帰ってくるのだ。体の感覚が戻ってきて、脳が震えてくる。体の筋肉がこわばっていることが何よりもの証拠だった。


「嫌な夢を…見てしまったな…」


 俺には目的がある。俺たちをこんな姿にした奴らを暴き出し、この世界から追放すること。地獄の底まで追い詰めて、最後の審判を下すこと。そのためには手段は厭わない。たとえ、自分が自分でなくなったとしても。たとえ、自らの手で親友の命を手をかけようとも。

 俺には夢がある。いつか、いつの日かの邂逅を忘れないように、もとの俺たちに戻ること。仲間と笑いあった日々。辛くも楽しかったあの毎日。そして、それが全て壊されたとある日。それから過ごした穏やかな、残酷な日々をしっかりと振り返る為に俺は戦い続ける。

 誰かに刃物を突きつけた時、初めて知った。俺はその感覚を知っていると。なぜかはわからない。だが、それが堪らなく恐ろしく感じた。俺は守る者ではないのだと気づいてしまったのだ。


 付いたあだ名は『破壊者』。俺が欲しかった名は、『守護者』だった。



 黒々とした空から大粒の涙が絶え間なく降ってくる。私は行くあてもなく、とぼとぼ歩いていく。一歩ずつ踏み出す足に力が入る。

 私は勝ったのだ。復讐を果たすべき相手に一泡ふかせることができたのだ。あそこで邪魔さえ入らなければ確実に勝てたのだ。実際には命までは奪えなかったが、勝負、デュエルには勝ったのだ。


 これで復讐は完了した…わけではなかった。

 どうしてだろう。なぜか私の頭の中はこれまでよりも一層戸惑いと不安でいっぱいだった。


ー 何だったの?あの目は…


 姉、御影 結の所属していた、レイズ本部第一機動隊で同じ隊員だったという、穂村 仁と相澤 恵美。別れ際に見た彼女らの悲しそうな表情が今でも忘れられない。


ー あんなの見せられちゃ…復讐なんて果たせないじゃない…。


 私に与えられた使命を、私は全力で全うしてきたつもりだった。姉が事故で死んだと聞き、直後の事件の指名手配犯が流布された瞬間、私のやるべきことは決まったのだと、そう思っていた。

 でもそれは、私のただの早とちりだったのかもしれないと、今更思えてきてしまった。


ー なんで、なんで、なんで…なんで今なのよ…。なんで、今更あんな顔すんのよ。もう2年前のことでしょ…。


 自分の中に渦巻く矛盾した気持ちが頭をかき回していく。溢れ出た雫が頰を伝う。

 傘なんて持ってるはずもなく、服はびちょびちょになっていた。濡れた髪を嫌がるわけでもなく、嗜むのでもなく、ただただ前に進むだけの時間を過ごしていた。


 雨の波紋が広がる湖畔をなぞるように歩く。しとしとと湿気を膨らませる木々が息苦しそうに体を震わせている。

 ふと視界に映った木造の屋根が私の進行方向を変えた。ゆっくりとゆっくりと足をその屋根へと進めていく。

 慌てて、そしてゆったりと、私の体は大きな木の屋根の中へと入っていった。濡れた肩についた雨粒を手のひらで落としてから、一番近くの長椅子に座る。大きな木の柱を中心とし周りに5つの長椅子が拵えられている、案外小ぶりなこの建物は一層強まる雨から私を守ってくれる。

 でも、必ずしも私の全てを守ってくれるわけではない。屋根が遮ってくれない湿気と雨粒が弾ける音が私の不安を助長するようで、体が無性に震えてしまう。それでも、私は胸を張って生きなければならない。それでも私は、こんなことだけでは挫けてはならない。


 あれからもう4年になってしまう。まだ私が村のこと以外何も知らなかった頃、姉の御影 結は家を出ていった。


 古来から伝わる忍術を子供の頃から伝授される私の村は、周りからは『忍者の里』なんて呼ばれている。正しくは、忍術を使うことで身を守ることを義務付けられた護衛隊の子孫の村である。

 私の姉の御影 結は実は本当の私のお姉ちゃんではない。私の記憶にはそんな記憶は微塵もないのだけれど、私がまだ小さかった頃、彼女は忍びの里に一人でやってきた。川の流れに身をまかせ、気を失って。重症を負っていた彼女を真っ先に引き取ったのが、私の両親だった。生まれて間もない私がいたせいもあってか、両親の二人は身元も不明な彼女を快く育て上げた。頭を強く打っていたため最初の方は記憶を失っていたが、私が6歳の頃に彼女は完全に記憶を取り戻したらしかった。

 両親も知らない姉の遠い昔の話を私は何度も聞かされたのを、今でも覚えている。


 いつしか思春期にも入り、会話をしなくなった私たちは、意思疎通というものをすることができなくなっていた。そんな折、一回だけ、たった一回だけ大きな喧嘩をしてしまった。


 そして4年前、姉は一人で忍びの里を出ていった。理由は聞かなかった。ただ一言、『レイズ本部に入隊する』とだけ言い残して。


 2年後、私の元に一通の手紙が届いた。姉、御影 結の戦死通告だった。



 今日はやけに雨が強く降っていた。機械の体を持つ俺にとって雨は好きなものではない。大幅な防水加工はされているものの、長時間の水没は避けるべきだと常に思っている。

 今ではこの体も自分の体だと割り切って生活してはいるが、まだ彼らを許したわけではない。俺たちを人でなくした奴らを、俺は絶対に許しはしない。たとえ大切なものを犠牲にしたとしても、必ず見つけ出して俺なりの制裁を与えると、あの夜に誓った。


 そして、あの男。名は確か穂村 仁とか言った筈だ。力のない、それでいてあの真っ直ぐした目。青い刃に、炎の刀。そして最後に見せた恐るべき力の片鱗。通常のナイトブレスでは引き出せない出力。肌でも感じる熱い炎。奴も自分と同じ境遇の持ち主なのだろうか。考えれば考えるほど、俺の頭の思考回路はオーバーヒートしていく。


 朝の夢からというものの、気分の良くない日は街をぶらりと散歩してみたりする。あいにく今日はひどい雨だが、それでも俺の足は止まらない。

 アパートから数分出た先にある小さな湖畔公園の中心に見つけた屋根がついた休憩所が視界に入ってきた。やや急ぎ足で屋根の下に入ってみたものの、周りからの湿気が体を濡らしていく。

 どうしてか体に力が入らない。あの戦い以降からか、やけに自分という存在について考えることがある。これまで復讐にしか頭が無かった自分に、新たな感情を芽生えさせた。『劣等感』なんかではない。だが、それに似た何かが胸の中で蠢いているのは確かだった。


 真ん中に一人ぼそっと佇む大きな木の柱に体を寄りかける。


 だがその時、俺は初めて知った。


ー 後ろに...誰かいる。


 これまで一切気づかなかった。決して気配を消していたわけではない。だが、それに勝るも劣らずの隠蔽スキルに驚きを隠せなかった。

 それでいて、向こうも何もアクションをしてこない。


 しかし、そんな空気が5分続いた雨の日の昼下がりだった。

 どっちが先かなんてものは覚えていない。だが、確かに、俺たちはその時初めて出会い、言葉を交わしたのだった。


55話 天谷鳥 を読んで頂きありがとうございます。


それぞれ悩みを抱える二人が一堂に会す。彼ら彼女らはどこへ進み、どこへ向かうのだろうか...。


次話は、56話 邂逅 です。


それは、決して交わることのなかった糸。希望を失った志士と後悔を覚えた復讐者は"哀愁"を口ずさむ。


次話以降もよろしくお願いします。

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