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NITE -傷だらけの翼-  作者: 刀太郎
第4章 現在編-動きだす物語-
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53話 復讐者

 季節は過ぎ、春隣を知らせる鳥が街に起床の音色を鳴らす日々が続いていた。


 相も変わらず道場の生徒は紅葉一人だが、それでも陽気に呑気にやっているのは確かだった。


 12月の一件から特に何も問題は起こってはいなかった。というより、あれも問題というにはやや穏やかな終わり方をした。

 あの後、夜通し無礼講でパーティをした俺、恵美、紅葉、隊長は次の日を棒にする程の爆睡をしたのだ。だが、あのときの話の記憶は今でも残っている。悲しい話ばかりじゃない。あんなことやこんな楽しい話もした。それが全て真実であったことも重々承知だった。だからこそ、俺たちは初めて分かり合えた気がした。

 それが遅過ぎたとは言えない。だが、それでも彼女にとって心の支えになったのならば、それは無駄じゃないってことなのだ。


 そして、"あれから何も起こっていない"などといかにもフラグのようなものを立ててしまっては仕方があるまい。しっかりとフラグは回収しなければならない。


 それはまだ春が来る前に遅れてやってきた木枯らしの話。




 ホームランドシティ。消滅都市である『京都』に近いところに位置する日本で二番目に大きい街。B地区に分類されるこの街では最近物騒な噂をよく聞くと口伝いで回ってきていた。


 それも、噂で出てくるとある人物は、本物の炎を使うというのだ。目撃者が嘯いたデマかもしれないけれど、もし本当にそうであるならば、その人物こそ、私がこの2年間探し続けてきた復讐の相手に違いない。


 無意識に右手に持つクナイに力が入る。


 これまでに調べてきたことはいくつかあった。


 一つは、『覚醒者』についてだった。公には発表されていないらしいが、私たちのいるこの世界にはナイトブレスと驚異的な適応能力を持った者がいるらしかった。それは、仮想でしかありえない属性による現象が現実で行えるということだった。ナイトブレスでも現実を逸脱したような夢のデバイスであるにも関わらず、彼らは仮想をも現実にしてしまう。

 通常、ナイトブレスで体験できるゲーム『NightCarnival』では主に5つの属性がある。火、水(場合によっては氷)、風、光、闇の5つ。それぞれ、火は水に弱く、水は風に弱く、風は炎に弱い。光と闇はこの三角関係からは逸脱し、それぞれ強弱がつく。ゲームのシステム上、そしてこれまでの属性が付与されるゲームの経験則上、火である赤色の属性は風である緑の属性に強いのだが、もしこれが現実になったら、これは反対になる。もし現実で属性が付与されることになった場合、強弱の関係は次の通りになる。火は風・水に弱く、闇に強い。火が闇に強いのは、光と灯すという意味で火が優位に立つ場合があるということだという。水は闇に弱く、火に強い。火が闇に弱い理由は、水は周りの景色によってその姿を変えてしまうから、闇色に染まるという意味で弱点となりうるのだそう。そして、風は光に弱く、火に強い。

 ここまでで、なぜか光と闇は中途半端な理由しかつけられていない。なぜなら、光と闇は本来概念的な存在で、それ自体に実態はないわけだから、想像がつかないのも当然だった。


 この情報は村一番の情報屋のシゲゾウから聞いた話なのだが、やはり実際に見てみないことには判断のしようがなかった。


 二つ目は、レイズ本部爆破事件のことだ。これもまた公式発表はなかったが、事件自体は大きくメディアに取り上げられていたのを覚えている。2年前、レイズ本部北棟の地下から爆破が起こり、ビルが倒壊。同時に本部局の至るところから爆破が起き、火災と倒壊による死者は後を絶たなかったそうだ。

 そして、この事件の最有力候補の容疑者が『穂村 仁』。彼はそれまでレイズ本部第一機動隊に所属していた一隊員だったそう。だが、1ヶ月前に任務中に仲間を計3人失ったことにショックもあり、行動がおかしいと思われていたらしかった。さらに、最後に北棟地下の監視カメラに映っていたのが彼だという。その後の逃走も加え、今彼は指名手配中だという。


 話は変わるけど、ナイトブレスにはまだ隠されたスキルが一つある。

 現在機械の無断分解、改良は法律で認められていないらしく、さすれば犯罪になり牢獄行きだそう。


 そんな中、使用中にふいに見つけた隠しスキルのようなものがそれだった。名前は『スキルドレイン』。その名の通り、対象のスキルをコピーすることができる。これ自体は、ナイトカーニバルでも既に実装されている機能なのだが、重要なのは次からなのだ。

 情報で流れて来たスキルドレインはナイトケーニバルにあるスキルの名前ではなく、ナイトブレスそのものに追加されていたスキルなのだ。ナイトブレスはあくまでハードであるだけで、それ単体ではプレイすることはできなかった。それなのにも関わらず、ナイトブレスにはスキルというものが存在していた。


 情報屋が言うには、これを『EXエクストラスキル』と呼ぶらしい。他にも『ユニークスキル』や『ハイドスキル』なんて呼ぶ人もいるようだった。


 兎にも角にも、情報を入手した私は、まずその『スキルドレイン』なるエクストラスキルを解放するべく、噂されている条件をクリアしていった。元来、あまりゲームで遊ぶ方ではなかったが、MRゲームである故すぐにコツは掴めた。運動をすることが多かった幼少期がここで生かされていた。ゲームを始めてから半年、私のレベルは既にランキングで上位にも昇るほどのものになっていた。それが嬉しくもあったし、悲しくも思えた。

 予想されているスキル解放条件を次々と達成していき、エクストラスキルを解放した私は、奪取スキル『スキルドレイン』を習得した。


 なぜそこまで強くなり、なぜそこまでして興味もなかったこのゲームにログインしたのかは、言うまでもなかった。


 『復讐』だった。彼と、そして私への。


 比較的平らな建物が点在するホームランドシティの現在時刻は夜の12時を過ぎていた。街のイルミネーションはとっくに消え、道に立ち並ぶ街灯だけが明かりを灯していた。


 風がやや強く、首に巻いた薄手のマフラーがなびいている。右手のナイトブレスは少し大きく感じもしているが、腕の細さが理由なので気にはしていない。だが、体のバランスを保つために左手にも同じ重さのバンドをつけている。


 夜はまだこれからだった。


 記憶も曖昧な幼い頃の記憶に彼女は確かにいた。そして、彼女は今でも私の記憶の中にいる。後悔と失意と復讐心が今の私を動かしている。微かな手がかりと、確かな悲痛な事実を脳裏に残し、深呼吸をする。


ー さぁ出発の時間ね。


 そう心の中で呟き、そっとビルの屋上から軽快に飛び降りた。体全体に風が吹き付ける。体が地面ギリギリにつきそうになるその刹那。からどぉくるっと回転させて猫のように素早く着地する。常人には到底不可能な技。


 私はニヤリと笑みを浮かべ、両手のクナイをぎらつかせ、闇夜に消えていった。




 穏やかな朝の日差しが道場に差し込む。今日の天気は最高にいいと思えるくらい、空は晴れ晴れとしていた。大きく深呼吸して見上げた空には大きな雲が一つ。俺と同じように伸び伸びと両手を広げる雲は不安など一切知らぬ純粋な表情をしていた。

 カレンダーには2/14と書かれている。もうすぐ冬も終わり、春がやってくる。満開の花が咲き、風に吹かれて散っていく。それもまたいとをかしと詩を一つ読んでみたくなるのもまた一興。


 あれから反政府軍である死神一行は姿をくらましている。海坂の無念と俺に託した希望を胸に、今日も俺は俺にできる何かを探していた。


 そんな第一歩は道場の掃除だそうだ。朝から恵美がしつこく道場の清掃を言いつけてきた。基本学校の掃除はサボっていたから、その命令はかなりきついものに感じたが、案外やってみるのも悪くない。


 だがしかし、さっきから何やら嫌な気配がしている。それは、またまた相澤家の玄関の方だった。気配を隠しているらしいが、長年の勘が逆にそれを完治している。隠れようとする心意が俺の第六感を刺激するのだ。


ー しかし、一体誰だ?こんな朝早くから…


 声に出して呼んでみる。


「そこにいるのはわかってんだ。隠れてないで出てきたらどうだ」


 声はかけてみたものの、やはり現れなかった。これですんなりと現れていたら最初から隠れる必要もないのだから、納得はできるが、ずっと隠れられているのも癪だった。

 仕方なく玄関の方へ向かう。玄関|(ここでいう敷地に入る門のこと)までは道場の縁側にある簡易のサンダルを履いて歩いた。


 だが、そんな呑気な格好をしているが、右手にはしっかりとナイトブレスをつけたままだ。いつ誰が襲ってくるかわからない今の俺の状況はそういう状況なのだ。


 ゆっくりと門に近づく。完全に気配を察知したその瞬間、思い切って門を出る。そして、門のそばにいる人影に対して警戒心を払って凝視する。


ー …これは?


 だが、俺の視界に映っていたのは人影ではなく、人の形をパネルだった。


ー パネル…?このやり方、どこかで……


 そう思った次の瞬間だった。


「ハァァッ!!」


 突然先の尖った刃物が頭上に現れる。だが ー


『リアライズ ウッドブレード弐式』


 いつもと同じ単調な言い回しのセリフが鳴った機械から木の棒が現れる。


「バシィィィィィン!!!」


 刃物と硬い木が衝突した音が響く。


 よく見るとそれはクナイのような形をしていて、さらには確実に実態を持っていた。それは特殊金属で作られたものではない。本物の金属だった。


ー クナイ?!なんで…?


 それを持つ目の前の人物に視線を移す。


 そいつは右手の他に左手にもクナイを持っていた。首には灰色の薄手のマフラー、右の後頭部から肩にかけて垂れるポニーテールに目元を隠すように垂れた前髪は、そいつの表情を隠していた。全体的に灰色と白色で統一された服装は、まるで忍者を彷彿とさせるような仕様になっていた。


 さらに、俺は同時に驚愕していた。一瞬、彼女が戻ってきたのだとばかり思ってしまったのだ。


「お前…何もんだ?」 


 すると、彼女は冷徹な低い声で答えた。


「お前に名乗る必要なんてない。…この、人殺しが!」


 その言葉が終わるよりも先に接していたクナイが弾かれる。弾かれたのではない、弾いたのだ。新たなクナイを取り出し、持ち直す為に。そして、素早くバックステップを取り、クナイを数本飛ばした。


 その動作に追いつくように俺も木刀を体の前で回転させる。運良く、そこに新たに投げ入れられた数本のクナイが衝突し、今度こそ弾かれた。


「人殺し?何のことかさっぱりわかんねぇな」


 二人の距離が一定のところで保たれたまま、硬直状態が続いた。この段階でも、まだ俺たちは一度もナイトブレスによるスキルを使っていなかった。それが何よりもの証拠に、たったの一瞬の攻防が多大な疲れを生み出した。


 さらには、彼女の声が俺の記憶にあるとある声とは明らかに違うことに気づく。


「…とぼけるつもりね。そうはさせない!」


 持ち直したクナイがまたギラリと鈍く光る。


「待て!...もう一回聞く。お前、名前はなんて言うんだ!」


 再度問い詰めた俺の質問に対して、彼女から帰ってきた答えは、俺の予想どおりで、半分予想を裏切った。


「…私の名前は、御影 風花。お姉ちゃんを殺したアンタを殺すためにここに来たのよ!」


53話 復讐者 を読んで頂きありがとうございます。


更新がはたまた遅れたこと深くおわびします。


今回から4章 第二幕『交錯する想い』編に突入しました!


次話、54話 沈まないカゲロウ は、明日(5/1)予定です。


それは、決して交わることのなかった糸。希望を失った志士と後悔を覚えた復讐者は"哀愁"を口ずさむ。


次話以降もよろしくお願いします。

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