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NITE -傷だらけの翼-  作者: 刀太郎
第4章 現在編-動きだす物語-
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52話 真実の銃弾

 銃口を相手にまっすぐ向け、いつでも引き金を引けるように準備する。問題は、いつ引くかだ。一瞬の隙をついて銃を構えたものの、打つタイミングは失ってしまった。相手もこちらに銃口を向けている限りいつでも打てる訳ではない。


 右手には細剣。左手にはハンドガン。十字に構えて相手の肩に照準カーソルを合わせる。心拍数と周囲の環境の予測変換による影響によって銃の軌道は変化する。『ターゲッティング カーソル』それがそのサークルの名前だ。


 相手は実弾銃、こっちは仮想の銃弾。相手の男に実弾を撃ったことはないだろうが、それでも最悪命を落とす可能性は否めない。こっちの銃弾の着弾ポイントはランダム。向こうは銃口の角度、引き金を引くタイミング、全てが自然の摂理に合わせたもの。しっかり狙えれば、確実に相手は被弾する。


 そんな状況で、相手の隙をもう一度作ることはできるのだろうか?可能性は彼女にかかっている。


ー 隊長...どうするんだ?


 彼女は黙ったまま下を向いている。


 2年前の今日この頃。俺たちはとある砂漠に向かい、そこであまりにも残酷すぎる現実を打ち付けられた。友の死、想い人の死。そして、それぞれの心に内在していた何かまでも。全てを受け入れて前に進むのには俺たちはまだ青すぎた。

 そこに年齢も技量も関係ない。これが殺し合いなのだと。これが真の残酷なのだと。ずっと夢の世界、仮想世界の物語なのだと勘違いしていた。本当はそうなのだ。それはもともと物語の一部であり、俺たちの世界とは格別したものなのだ。ナイトブレスはいつのまにかその境界線を薄くしていたのだ。


 一体、人類はどこから間違ってしまったのか。


 今の俺たちに仮想も現実もない。あるのはただそこに生きる命だけだ。そこにいる自分こそが現実で、それ以外はただの戯言なのだと。そして、その戯言は一生現実にはならない。


 カーソルが上下左右に揺れる。照準がうまく合わない。緊張しているのか?それとも、怯えているのか?


ー いいや、怯えてはいけねぇんだ。あの日に誓ったことを叶えるまでは死ねないんだ。


 ふと口から声が出る。その言葉は本当は自分に宛てて放った言葉なのかもしれない。


「久しぶりだな、隊長。こんなときじゃなかったら、茶の一杯でも出してやりたかったが、そうはいかねぇんだよな。...ったく、面倒臭せぇぜ」


 緊迫した空間で一人呟く。


「...なぁ、隊長。アンタ、今でも後悔し続けてんのか?守のこと」


 彼女はまだ黙ったままだ。


「...まぁ、忘れられなぇのはみんな同じなんだ。だけどよ、ずっとそこにいていいのか?前に一歩、踏み出さなきゃいけねぇんじゃねぇのか?」


 その言葉が心にずしっと降りかかる。


「こんな時にあんまり言いたくねぇんだが、今のアンタ、かっこ悪いぜ」


 自分で言っていて恥ずかしいほどの臭い言葉。でも、言葉は出続ける。


「俺も、守も、結も、みんな強いアンタが好きなんだ。...頼む。元のアンタに戻ってくれねぇか?」


 ずっと考えていた。彼女はずっと何を考えていたのだろうか?今日の夕方。恵美のところに訪ねて来た時。俺を目の前にして再開した時。そして、俺たちがいるであろうこの街に踏み込んだその時に。


 ずっと守れなかったって後悔していたのだろうか?

 でも...


ー でも、あんたはいつも俺たちのリーダーでいてくれた。言葉では綴れない程のものをアンタは俺たちにくれてたんだ。もう、落ち込むことはねぇんだ。今なんだ。立ち上がる時は、今なんだ。


 そう思ったそのとき、


『いい顔してんじゃねぇか、仁』


 どこかで聞いたことのある声だった。


『仁、私は信じてるよ。これまでも、そして、これからも』


 懐かしい声。


ー そうだな。くよくよしてないで、早く立ち上がらなきゃな。落ち込んだっていい。泣いたっていい。また、立ち上がればいいんだ。それが...


 彼の口が動く。


「それが本当の勇気なんだと思うぜ...」


 カーソルがぴったり奴の右肩に重なった。


 そのときだった。


『リアライズ 三鶴城みつるぎ


 冷徹なシステム音声が鳴ったと思った瞬間、こめかみをかすった風が空を切り裂いた。


 俺はこの技を知っていた。

 絶対切断の日本刀。それはゲームのオブジェクトになっても変わらない。でも、そんな刀のスキルの中にも、上達すれば習得できるとあるスキルがある。空を切り裂き、遠くの物を一斉に押しのける衝撃技《風縫カゼヌイ》。ちょうど結が得意としていた技《鎌鼬かまいたち》と守がよく迎撃用に使っていたブラスト インパクトを掛け合わせたものだ。


ー ようやく完成させたんだ...


 後ろから大きな叫び声が聞こえる。力強く、活気に満ちた、あのときのような叫び声。


「穂村!!今だ!!!」


 言われなくてもわかっている。


ー 俺だって成長したんだ。今の俺の強さ、見届けてくれ。そして、俺に、力を貸してくれ...二人とも。


 右手の人差し指を力強く動かした。


「ドォォン...!」


 銃弾が銃口から抜け出し、真っ直ぐ俺の狙った方向へと向かって突き進んでいく。


 同時に男も引き金を引く。


 二つの銃弾がお互いのその距離を詰めていく。現実の銃弾と仮想の銃弾。その威力は明らかに現実の銃弾の方が上だ。


 だが、そこに込められた思いの量は仮想は絶対に負けない。

 放たれた銃弾がちょうど俺たちのど真ん中で衝突する。それぞれの体を掠め、えぐりとるようにその身を削っていく。


 おかしい。削る訳ないのだ。一方はデータの粒子なのだから。だが、確かにそこに銃弾は存在した。そして、銃弾は衝突により軌道を変更させる。


ー 届け...届いてくれ......行け...行けぇぇ!!!!!!!!!!!!!


 銀色に光り輝く銃弾。ドラキュレーター特有の銃弾は、吸血鬼を打ち抜き、闇を切り裂く。弾には『Truth bullet』と刻まれている。

 銀色(Silver)の銃弾(Bullet)。それは真実(Truth)の銃弾(Bullet)。 


 放たれた銃弾は男の肩を打ち抜き、同時に男の装備を全損させた。STR6000の一発。衝撃波により男の体が吹き飛ぶ。装備していた軽装が電子線になって四散する。肩からは血が流れている。当分は腕は使い物にはならないだろう。

 男が足をぐらつかせて立ち上がろうとする。


 その動作を許す間もなく、さっそうと現れた刀の歯が男の喉元をかすめる。


「ひぃっ...」


 引きつった男の声が雪の中をかき分けて聞こえてくる。


 だが、彼女はそれ以上のことはせずゆっくりと離れた。


「最初に断れなかったのは私の方だ。責任は私にもある。...だが、違法な拳銃の所持には後で署で聞かせてもらう。いいな?」


 力強い彼女の声に反論はせず、男は頷いた。


 俺は左手に持った銃を再度見つめた。


ー さっき...確かに、こっから実弾が飛び出した。なんで...?


 理解し難いというよりかは、納得をせざるを得なかった。そう願ったのは自分であり、そうでなかったら俺はさっき死んでいたかもしれない。


 ただ、そこには俺以外の温かみが混じっていた。そこにあるものが何かは今は突き止めるつもりはなかった。後ろを振り返るつもりもないし、過去の憎しみや後悔を力の糧にするつもりもない。


ー 守...お前が守りかったもの。しっかり守ってやったぜ...。


 夜空には白い斑点がいくつもある。それぞれは力もなく、地面に落ちたらすぐに消えてしまう。でも、彼らは最後は力を合わせて硬い何かに生まれ変わる。それぞれが他の何かに依存しているわけではない。彼ら自身がそれぞれの意志を持ってそこに存在する。

 俺たちはそうしてこれまでも、そして、これからも生きていく。


 手のひらに雪を一粒握りしめてライブ会場へと一人戻っていった。

 後ろから感じる彼女の視線には、あえて触れずにその場を去った。




 あれから2時間後。チンピラの一人を取り押さえたところで、他の仲間も腰を抜かしてそのまま降参してきた。まとめて近くの警察署に預けると、私はすぐに彼がいると思しき場所へと向かった。

 場所は、相澤邸。広い敷地を有し、その半分は大きな道場にもなっている。隣に佇む屋敷は昔の日本家屋のような仕様になっている。


 足取りがどうしても重くなってしまう。


 既に時刻は10時を過ぎている。恵美の言っていたライブとやらもとっくに終わっているだろう。今頃何をしているのだろうか。


 屋敷が見えた。これまでよりも足取りは重くなり、ついに止まってしまった。


ー ここに踏み出す資格は...私にはあるの?


 地面に広がる白銀の世界をただ見つめる。


「帰る...べきかな...」


 そう思って体を反転させようとしたそのときだった。


「んなわけねぇじゃねぇか、隊長。せっかくここまで来たんだ。一杯付き合ってやるくらいは、元部下にさせてくれねぇか?」


 その声はつい数時間前に聞いたそれと同じ声だった。


「隊長...さっきはすみませんでした...嘘ついて...。だから、そんなすぐに行っちゃわないでください」


 芯のある優しい声。


 とっさに振り返る。


 目の前にいたのは、かつての二人の部下。後ろには見覚えのある少年が一人いた。


「穂村...恵美...あなたたち...」


 彼らは何も言わなかった。ただ微笑んで私を見つめた。


 だが、それで十分だった。思わず涙が溢れ落ちる。


 ずっと考えていた。自分はただの無能なリーダーなのだと。こんな私に失望して去ってしまう隊員の方が正しい。強いだけのでくのぼうには要はないのだと。でも、今の私には、こんなにもたくさんの頼もしい部下がいる。いいや、仲間がいる。


ー 大丈夫...私には4人の心強い仲間がいるのだから...


 何年ぶりだろうかと思えるくらい久しぶりの満面の笑みで大きく頷いた。


52話 真実の銃弾 を読んで頂きありがとうございます。


更新がさっそく大幅に遅れたこと深くおわびします。


次話からは4章 第二幕『交錯する想い』編となります。


次話、53話 復讐者 は、明日(4/26)予定です。


それは、決して交わることのなかった糸。希望を失った志士と後悔を覚えた復讐者は"哀愁"を口ずさむ。


次話以降もよろしくお願いします。

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