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NITE -傷だらけの翼-  作者: 刀太郎
第4章 現在編-動きだす物語-
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51話 TrueBrave

 ホームランドシティのとある一角にあるバー『シェラコフ』で店長兼バーテンダーを務める彼の名は俺も知らない。だが、その口の硬さとまっすぐな心を見込み、俺は彼と連絡先を交換していた。


「何かあったら俺にDMを送ってくれ」


 ただそれを言い残すと、俺はこの街にやってきたその日からそこへは出入りしていない。少しでも顔を出すと、それはそれで不審がられる部分もあったからだ。


 そして今日。俺の元に一通のメッセージが届いた。



ー もう、終わりなのね。...これが、誰も守れなかった私の...神様が下した報いなのね...


 体が震えている。涙が出てくる。なのに、なぜか笑っている。それが偽物の微笑なのか、それともすべてのことから解放される安堵の微笑みなのか。


 ごめんなさい。そう言える人もいない。


 見上げた空に、光る銀色の星が一つ。藍色の剣尖が喉元を走った。


ー これで、もう終わり...


 そう思った時だった。


「あんたはまだ、死ぬ時じゃないぜ。隊長」


 跳ね上がった銀色の剣先は宙を舞い、男の剣は遠いところへ飛ばされた。


「あなた...どうして...?」


 死を前に、恐怖も忘れすべてが終わろうとしていたその寸前で、彼は現れた。

 黒色の頭には乱れたくせ毛が1つ。細い目に映る光は今も変わらずに光り輝いている。黒のジャンパーには微かに赤色のラインが投影されていて、右手で振り上げる水色のつるぎは炎に包まれている。

 なぜここに彼の姿があるのか、そんなことわかるはずもなかった。だが、それだけでなぜか体を支配していた何者かがすぅっと消えていった。


 男は体をふらつかせながらも、体制をすぐに整えた。


「な、なんなんだよ!お前!」


 当然の質問に、彼はゆっくりと答える。


「んあぁ?んなもん、お前が知ってどうする?」


 そのやけに挑発的な口調は変わってはいなかった。自分がどんな弱くとも、どんなに強くとも、その態度は変わらない。


 男は怒り心頭で剣先を彼に向ける。


 すると、彼は剣を左肩に持って来、刀身に左手を添えると、まっすぐ男たちへ狙いを定めた。


 そのとき、初めて彼が片手直剣ではなく、細剣を使っているのだと知った。それも、優美な装飾に透き通るような水色のガラス。黒色のラインが全体的に入っている。

 間違いない。それは、第一機動隊で相澤恵美が使っていた細剣の1つだった。スピード特化のこの細剣はあまり彼女に合わなくて、あまり使っていなかったのが記憶に残っている。


 それが彼の手元にあるということは、それは彼が恵美に会っているということの証明になった。


 剣を反対の肩に持って来て、剣先を相手にまっすぐに向ける。細剣のスキル《ソニック スプラッシュ》だ。彼が唯一と言っていいほど覚えている細剣スキル、だったはずだ。

 今となっては彼のステータスがどのようなものになっているのか、見当もつかなかった。

 ナイトブレスでの戦闘経験がない彼はずっと他の隊員の技を見て育った。だからか、専用は片手直剣だが、技のレパートリーはたくさんあった。恵美ほどではないが、ある程度なら自在に操れた。


 白い息を口から吐き出し、呼吸を整える。静まり返った路地に月明かりが差し込む。


「行くぜ...」


 途端、剣が水色に発光し、彼の体は1秒も経たない内に男の懐に入った。


「あっ...!」


 男がぐうの音も言う前に、男の体は吹き飛ばされた。


 細剣スキル《ソニック スプラッシュ》は速度重視の技で比較的STRは低く設定されている。さらに彼の気遣いにより、まっすぐ突き刺されるはずの剣先は横に外れ、スキルと炎による衝撃波だけが男に伝わったのだ。


 強制的にスキル内容を変更する。肉体にかけられた身体制御パルスを自力で制御しかえす力。私たちはこれを《スペルドレイン》と呼んでいた。

 これが可能なのはごく少数の隊員のみで、自力でできたの者は彼くらいしかいなかった。これが彼の唯一の取り柄と言えば彼は怒るだろうか?


 剣の端と端にそれぞれ手を添えてガードの姿勢をとる。


「どうした。もう終わりかよ...」


 だが、余裕の表情を見せる彼に、男らは少し慄いたものの、ちょっとした間を置いた後、不気味に笑い返した。


「ぶはははっ...この程度で終わるわけねーじゃん」


 すると、男は懐から黒い何かをすっと取り出した。


ー それは...!


 短く伸びた黒の金属に茶色のグリップ。ぽっかり空いた丸い穴の奥には闇しか見えなかった。


「テメェ...」


 ハンドガン。それも、オブジェクトではない。本物の拳銃だった。

 ナイトブレスの配布・軍事利用により拳銃の携帯の義務がなくなり、拳銃の生産は過疎化の一途を辿った。だが、それに合わせて違法に銃の取引が行われるようになっているのも事実だった。

 引き金を引いた男はニヤつきながら彼と私に向けて言う。


「誰だか知らねぇけどよ。恨むなら自分の運の悪さを恨みな...」


 まっすぐ垂直に死の光線を向けられたのは次は彼だった。小さく歯を噛みしめるその顔をみると、自分には何ができるのか考えた。


 だが、未だに体は自由に動かせない。感覚は消えても、神経まで消えていたら意味がない。


ー どうすればいいの?


 謎の事態。突然現れたかつての部下。頭の中はとっくに整理できているのに体が反応しない。

 どういう理由でそうなっているのかは、自分が一番わかっていた。


ー ずっと、後悔し続けてきたからだわ...


 ふと彼を見る。


 悔しそうな顔。だが、体制は一切変えず、臨戦体制を保ち続けている。

 すると、突然彼が話しだした。


「久しぶりだな、隊長。こんなときじゃなかったら、茶の一杯でも出してやりたかったが、そうはいかねぇんだよな。...ったく、面倒臭せぇぜ」


 緊迫した空間で一人呟く彼。


「...なぁ、隊長。アンタ、今でも後悔し続けてんのか?守のこと」


 その言葉に返答する力は今私にはなかった。


「...まぁ、忘れられなぇのはみんな同じなんだ。だけどよ、ずっとそこにいていいのか?前に一歩、踏み出さなきゃいけねぇんじゃねぇのか?」


 その言葉が心にずしっと降りかかる。


「こんな時にあんまり言いたくねぇんだが、今のアンタ、かっこ悪いぜ」


 震える手を必死に抑えて、ただ前だけを、彼後ろ姿だけを見つめる。


「俺も、守も、結も、みんな強いアンタが好きなんだ。...頼む。元のアンタに戻ってくれねぇか?」


 ずっと考えていた。自分は実は弱い存在で、少しの失敗で落ち込み、大切な物を失えば立ち直れなくなる。情けない。ただの女々しい女なのだと。


 でも...


ー でも、あなたたちはずっと私を対等な存在として、またある時は頼れるリーダーとして慕ってくれてたわね。それに気づかずに...私は勝手に...落ち込んじゃって...


 そう思ったそのとき、


『いいんですよ。それで』


 どこかで聞いたことのある声だった。


『フユミンならなれるよ。私たちのリーダーに、もう一度』


 懐かしい声。


ー そうよね。くよくよしてないで、早く立ち上がらなきゃ。落ち込んだっていい。泣いたっていい。また、立ち上がればいいの。それが...


 彼の口が動く。


「それが本当の勇気なんだと思うぜ...」


 胸の奥に引っかかっていた何かが弾け飛んだ。


51話 TrueBrave を読んで頂きありがとうございます。


次話、52話 真実の銃弾 は、明日(4/19)予定です。


銀色シルバー銃弾バレット』編、真実の弾丸は、全てを撃ち抜く。


次話以降もよろしくお願いします。

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