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NITE -傷だらけの翼-  作者: 刀太郎
第4章 現在編-動きだす物語-
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47話 とある夜の星/豪炎龍の目覚め

 街にはいつのまにか雪が降り積もり、悴んだ手を温める日々が当たり前のように続いていた。口から出る白い息が空中で鮮やかに消えていく。見上げた空にはいくつかの星々が点々と輝いていた。


 隣にいる紅葉もみじに小さな声で語りかける。


「あの一番光ってる星、見えるか?」


 指差した先に光る星が一つ。


「はい。見えますよ...まぁ、ほとんどの星がネオンの光に紛れて見えずらくはなっていますが...」


 苦笑いをしながら俺の方を向く。


「そっか...」


 少しの溜めを作った後、口を開く。


「明日はクリスマスか...お前、まだサンタさんは信じてんのか?」


 すると紅葉が慌てた様子で否定してくる。



「そ、そんな。信じてないに決まってるじゃないですか!」


「じゃあ、お前のサンタさんは誰だったんだ?」


 すると、急に紅葉の顔色が暗くなる。


「...どした?」


 しばらく俯き加減だった少年は、ぼそっと寂しそうに語る。


「僕、サンタさんにプレゼント、もらったことないんですよ」


「.........そうか。すまんな、嫌なこと聞いちゃって...」 


 なぜかと聞く必要は俺にはなかった。紅葉の父親は、元レイズ本部上級管理職部長である相澤藤五郎だった。だが、彼は本部倒壊事件で消息を絶った。遺体は発見されてはいないもの、秘書と共に行方不明のままだ。

 そんな紅葉と恵美は早くに母親を亡くし、父親の熾烈な英才教育の元にさらされていた。といっても、恵美が紅葉の分まで頑張ってくれていたから、紅葉自身は苦労はしていないようだった。

 だが、取り残された紅葉は、それはそれで寂しい思いをずっとしてきていた。


 恵美を笑顔にするためにも、紅葉にも笑顔でいてほしいと思っている。


 そしてまた一番明るく輝く星を指差す。


「あれはな、金星って言うんだ」


 そんな当たり前のことを、まるで何も知らない子供に教えるように言う。


「仁さん、僕だって金星くらいは知ってますよ」


「そうだったな...」


 当たり前すぎて退屈な夜空は俺たちに何の刺激も与えてくれない。新しい発見や、新しい喜びも。その反面、悲しいことや、辛いこともない。

 でも、それこそがどんなに辛く、苦しいことなのか。俺はわかっているようで、わかっていなかった。レイズ本部を抜け出した先に待っていた孤独で空白の2年間は、俺に虚無だけを与えた。




 死神との戦いを終え、意識を失っていた俺は恵美の掛け声に反応して目覚めた。


 目覚めた俺を彼女は強く抱きしめ、涙しながら何度も大丈夫かと問いかけてきた。くどいほどの安全確認を終え、彼女はすっと俺から離れると、咳払いをして事情を尋ねてきた。


 俺はそれまでの数十分のことを包み隠さず話した。


 海坂と名乗る半分人間・半分怪物であるという人物に連れられ、俺は街のショッピングモールに朝日が出て間もない頃に向かった。


 ポータルナイトが起き、ナイトブレスが普及する前、開発の実験体として拉致監禁されたとある村人全員は、研究所が謎の事故を起こすその日まで実験体として体を改造されたらしい。MR技術と題したナイトブレスは何人もの現実の人間の生命を代償とした機械だったのだ。体の一部がホログラム化し、日常生活に支障をきたさなくても、人間関係や差別などが障害となり、脱走後も苦しい生活を送っている。

 脱走した村人は主に二つのグループに分かれていた。現代社会に溶け込み、できる限り安静にして生活をする『穏健派』と、自分たちを改造した研究所の奴ら、そしてそんなことも知らずにナイトブレスを日常的に使っている一般市民への報復を考えた『復讐派』だ。


 最初の頃は、復讐派の過激な思想に嫌気をさし、穏健派に移動する者もいたらしい。だが、完全にナイトブレスが普及した最近になって、穏健派が安静に暮らしていけなくなったのだった。どうしてもナイトブレスを使うと、自分が普通の人間でなくなるため、蔑視や迫害のようなものを受けやすくなったのだ。それに伴い、穏健派から過激穏健派とでも言うべきテロ集団が新たに結成された。


 そのうちの一人があの日、ショッピングモールを壊すという。それを止めるべく、穏健派の海坂は俺を武器にショッピングモールへと向かったのだった。


 だが、激情したそいつは海坂や俺の言う言葉を一切聞かず、俺たちに襲いかかってきた。幸い剣の腕は鈍ってはいなかったから、なんなく受け止め跳ね返すことができた。

 しかし、そんな俺を横目に突如黒い何かが現れた。大きな鎌を振り回して颯爽と現れた新たな敵は海坂曰く、復讐派の幹部クラスの『死神』と言われている奴だった。

 右手に持つ大きな鎌をナイトブレスを用いて見事に変形させた死神は、大鎌を次は右腕に巨大なアーマーとして装備した。右に大きく突き出た刃が俺を襲った。


 激戦の末、俺たちが元々止めようとしていた奴を殺すために死神は光線をそいつに放とうとした。


 最悪なのは、それを庇って海坂が代わりに死んでしまったのだ。オブジェクト同じく、ナイトブレスから生成されている彼らは、ゲームに置ける攻撃でHPを減らされ、全損した場合、直ちに消滅する。海坂は俺に後を任せ、静かに消えていった。


 それを見届け、怒りに身を任せた俺は、胸の中にある『炎』の感情を爆発させた。


 それからは俺はあまり記憶がなかった。


 そこまで聞くと、恵美は話は後でと、まずは一旦俺を家に連れていってくれた。


 海坂の仲間だった過激穏健派のそいつはすぐに呼んだ警察に引き取ってもらい、俺たちはモールを後にした。


 相澤家に戻り、心配そうに迎え入れた紅葉を安心させ、広い居間に横たわろうとしたその時だった。


 ふと、俺のナイトブレスが赤く光り、そこから聞いたことのない声が響いた。


『ようやく私を目覚めさせてくれたな。青年』


 だが、その声は全くもって初めてというわけではなかった。


「...その声は...?」


 聞き慣れてはいない、だが、確かに一度聞いたことのあるその声の主が誰なのか、俺はしばらくわからないままでいた。


「な、なんですか?今の声は?!」


 紅葉が慌てたように辺りをめまぐるしく見渡す。だが、当然ながら彼の周りには自分の姉と居候の師匠しかいない。


『すまない。もう、青年ではなかったな』


 もう一度謎の声が聞こえる。


 そして、ようやく俺はその声が一体誰なのかを思い出した。


「お前、2年前の...名前は確か...バーニング..ドラゴン」


 恵美や紅葉が突然のファンタジーな言葉に唖然とする。


「今、何て言ったの?」


 恵美の問いかけに答えるように、そいつは話始めた。


『女よ、私の名前は豪炎龍『バーニングドラゴン』。彼の『炎の覚醒』の元凶であり、ナイトブレスの支配を奇跡的に逃れた独立した5体の人工知能生命体の内の一人である』


 だが、そんな説明で大人を納得できるわけもなく、恵美は信用しない雰囲気でさらに問い詰めた。


「ねぇ、仁。今はそんなことで遊んでる暇はないの。新しいゲームなら後で紅葉とやってよ」


 一向に信用しようとしない恵美とはかわり、紅葉は子供ながらに興奮して俺のナイトブレスをじっと見つめている。


 バーニングドラゴンと名乗るそいつと出会ったのは2年前の本部倒壊事件の直後だった。倒壊したビルの中から俺を呼び、最後は俺のナイトブレスに宿った。同時に奴は眠りにつき、俺は奴からもらった情報を頼りに三つの都市を渡り歩いていた。


「恵美、こいつは前にも話した俺にこの街を教えてくれたっていうAIだ。多分」


 すると、俺の言葉はもう少し信用するのか、頷きかけながらまたまた俺のナイトブレスを見つめた。


『そんなに見つめるでない』


 そのまるで本物の人間と話しているかのような反応ぶりに、最後は二人とも納得し、話を聞きいれてくれた。


『そなた、穂村仁と言ったな?』


「あぁ、そうだが」


 簡単な自己紹介から入り、バーニングドラゴンはことの全てを話した。


『今朝の君に起こったことは、恐らく2年前にも経験しているはずだ。初めて炎の力に覚醒したと言われいるあの日だ』


「初任務のときのか...?」


『あぁそうとも。いわゆるスタートアップみたいなことが起こり、覚醒に耐える為に一時的に脳が処理落ちしたのだろう。そのときは済まなかった。嫌な記憶を思い出させてしまったようだ』


「...いいさ。それもこれも、遠い昔の記憶だ。今更気にしても仕方がねぇさ」


 そうは言ったものの、長い長いあの夢が何かの現象の反作用であると知った以上、気持ち良くはないのは確かだった。


「それで要は何なんだ?」


 豪炎龍はゆっくり話し始める。


『いいや、話はそれだけだ。君の感情の昂りとこの街のシンクロ率によって私が目覚め、これからは私の力を一時的に君も使えるということ、それだけの話がしたかっただけだ』


「そ、それだけなのか?」


『あぁ、そうとも。...ちなみに、私はずっと君のナイトブレスの中に居続けることになるが、気にせずに普段の生活を送ってくれ』


 突然の同棲?宣告に戸惑いを隠せない。


「はぁ?お前、ずっとこうやって喋るつもりか!?」


『い、嫌なのか?』


 顔も見えない奴だが、その表情が困惑したものであることは見なくても明白のようだった。


「いいさ。ギャラリーは多い方が楽しい」


 そんな軽い気持ちでこいつを受け入れた俺だったが、その危険性がどのようなものなのかはまだ知る由もなかった。だが、同時に言えたのは、豪炎龍『バーニングドラゴン』が持っているものは、危険よりも、『希望』の方が多いと俺は考えていた。


 しばらくの間、俺は休養のいう名目で部屋にこもった。


 そんな日が1週間程続いたある日。季節は既に冬の真っ最中になり、降り積もる雪の量は日に日に増していっていた。

 カレンダーには12/24に大きな赤丸の印が付いてい、隣に『ライブ』と大きな文字が書かれている。紅葉が好きだと言うロックバンドに付き合うことになった俺は、目前に迫ったライブの練習とやらの為に、紅葉にカラオケに連れ出されていた。


 その間、相澤家を訪れた一人の来訪者を俺が知ったのは、星降る聖夜の下だった。


47話 とある夜の星/豪炎龍の目覚め を読んで頂きありがとうございます。


今話から新章へと突入しました。

その第一幕は『銀色シルバー銃弾バレット』編となります。


次話、48話 静寂のクリスマス は、明日(4/2) 予定です。


銀色シルバー銃弾バレット』編、真実の弾丸は、全てを撃ち抜く。


次話以降もよろしくお願いします。

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