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NITE -傷だらけの翼-  作者: 刀太郎
第3章 過去編-暴かれし真実-
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40話 暴かれし真実

 穂村仁の放ったスキル『ダンシング フルクラム』が見事に4体のグレムリンを切り裂いた。赤い切り傷をつけたグレムリン達は跡形もなく消えていく。


 続けて、相澤恵美が細剣の貫通系ビームスキル『スチール リコレクション』を放つ。グレムリン達の群れを一瞬で貫き、瞬く間に敵を一掃した。


 機動隊屈指の豪剣使いである春野守は間接系連撃スキルである『ドット インパクト』を放つ。地面から現れた無数の刃がコボルト達の足元に現れ、体を分断する。


 最後に、仁が放った5連撃の火属性のスキル『ドット ディストライザー』により、巨体のゴーレムが白い光に包まれて四散した。


 一瞬で数十体のモンスターのHPが0になり、辺りは以前と変わらない静けさを取り戻した。

 だが、まだ戦いは終わっていなかった。

 彼らから数十メートル離れた場所にモンスターが再湧出リポップする。青白いエフェクトに包まれ、スケルトン率いるモンスターの群れは、第一機動隊に向かって猛突進してくる。


 驚愕の表情を浮かべる仁達。


「こいつら、一体どれだけ出てくるんだよ...」


 思わず出た守のため息が全体の士気を低めていく。


「こいつら、確かに斬った感じがする。信じたくねぇけど、本物だ」


「まだ私たちは攻撃を一度も受けてないけど、一撃でも受けたらひとたまりもないわね」


 仁と恵美がモンスターの本質について話している。


 通常ホログラムで湧出ポップするモンスター達は、レイズ専用のナイトブレスを使うことにより、特殊金属の体になって湧出することになる。これまでは攻撃を受けてもHPゲージが減るだけだったが、ついに生身の犯罪者と同じような凶暴性を持ち合わせることになったのだ。

 獣のような雄叫びを上げて突進してくるコボルトが仁に向かって剣を振り上げる。


「ぼやっと話している暇はなさそうだな」


 守と仁が剣を正中線に構える。剣先がコボルトを捉える。


「ハァァァァッ!!!」


 仁が剣を構えたままコボルトに突進する。


 それを合図に、他の4人も背後の敵に向かって突撃する。


 これはゲームなんかではない。


「ただの殺し合いじゃないの」


 ふいに呟いた恵美の言葉が宙に舞った。


 コボルトに垂直になって尖った青空の剣が雲一つなくまっすぐコボルトを貫く。

 コボルトの苦しげな声が聞こえるが、そんなことも気にせず、仁は次の攻撃に入るためにそのまま剣を右に薙ぎ払う。勢いよく時計回りに旋回した剣からは血のような赤いエフェクトと深紅に燃え盛る炎がまとわりついていた。


 背後から仁を援護する結の投げたクナイがグレムリン2体の体を貫通する。だが、まだHPゲージは7割をきっていない。

 だが、結もそこで終わるわけはなかった。

 新たに懐から出した計10本のクナイが、わずかに緑色のエフェクトを帯びると、人間業とは思えない速度で着実にグレムリン達の急所を貫いていった。そして、地面に突き刺さるはずのクナイは地面すれすれで急カーブをすると、勢いを殺さずに後方にいたもう5体のグレムリンに襲い掛かった。

 それぞれ体力を大幅に削られ、瀕死状態のモーションに入った。命は吹き込まれようと、もとはプログラムで動くゲームのモンスターだ。自身の体力にあわせて規則的にモーションを変えるのは当然と言えるだろう。

 散り散りになった10本のクナイは最後一つの空間に集合すると、十の方向を指す巨大な手裏剣になった。

 不自然に突風が吹き、手裏剣が逆回転する。本物の風を帯びた殺刃の風車は目にも止まらぬ速さでさらに後方にいたスケルトンの腑を抉っていった。


 『風の覚醒』は、風を自在にあやつることができるという力だ。炎を出すことができる仁と打って変わり、御影結の異能力はすばやさ重視の風タイプということになる。属性的には結は草属性になり、仁の炎には弱い設定なのだが現実では風属性だから強くなる。

 ある意味で彼ら二人のコンビは完璧と言っていい。


 結が放ったクナイを追いかけるように、仁は剣に炎を再度宿し、HPが減少したグレムリン達にトドメをさしていく。


 一方で、恵美も着実に敵を倒していく。

 細い剣を縦に構え、脳内でスペルを詠唱する。

 刀身が青白く光りだす。おそらく発動したスキルは『フラッシュ ウィザード』だろう。貫通系のスキルがその殆どを占める細剣のスキル群の中で唯一の広範囲斬撃スキルである。

 故意にできた彼女の隙を狙ってモンスター達が彼女を周りを囲む。獰猛で荒い声がどよめく。

 だが、恵美の持つ剣は青白く光ったままだ。


 一匹のグレムリンが前に出ようと足を一歩踏み出したその時、


「ハァァァァッッ!!!」


 気合いと共に垂直に立っていた細剣が地面に平行に右回転に薙ぎ払われる。青白い剣の残像が周囲の敵を包んでいく。

 数秒の沈黙を置いた後、グレムリンを含む彼女を囲むモンスターの群れは同時にその姿を消した。


 副隊長の須郷の大斧がゴーレムの体を真っ二つに分断する。間髪入れず、分厚い刃は茶色に光り、左回転する。どっしりと重たい斬撃が左にいたゴーレムの腹部を切り裂く。

 大斧バトルアックスの2連撃の重攻撃『ズダンブ』である。


 STRが高い大斧の攻撃をもろに食らったゴーレムはその高い防御力をも超えたダメージに倒れた。

 だが、須郷の方も息が荒い。モンスターの攻撃を受けたわけでもないのに、干上がった声が口から無意識に出る。


「ハァ...ハァ..ハァ........」


 そろそろ彼にも限界が来たのだろうか?巨大な刃を支える棒に添えられた手は小刻みに震え、今にも手の内からすり抜け落ちそうだ。


 そんな彼の異変に守が気づく。


「副隊長、どうしたんですか?」


 返事はない。


 だが、守も悠長に話している暇はなかった。次々と現れる敵を切り裂き、自分の命を守るために必死だった。

 守の長剣が黄色に光り輝く。


「サザン リミッター!!!!」


 脳内で再生することもなく、気合いに混じってスペルを叫ぶ。

 多数の敵を一気に掃討する為にはやはり範囲技が有効であった。黄色に光った刀身が左右に連続で薙ぎ払われる。正面から180度の半径5メートルの範囲にいるモンスターを一掃する。


 スケルトンとコボルトが悲鳴を上げて四散する。


 その過程や姿も見ず、守は次の敵に向かって剣を振り続ける。


 実に優秀な彼らを見て、自分までもが士気が湧いてくる。


 仁の炎の剣が次々と敵を切り裂いていく。


 だが、一匹の盾を構えたスケルトンがふいに仁の目の前に立ちふさがる。正面に突き出した盾に仁の剣が衝突する。

 甲高い金属の衝突音が鳴り響き、現実の音と化す。赤いエフェクトと現実の火花の見分けはもはやつかなくなっていた。

 迫合いになる仁とスケルトン。


 だが、スケルトンは不敵な笑みを浮かべると、右手に持った剣を振り上げると、仁の体に向かって振り下ろした。

 剣を持つ右手が空いていたスケルトンとは違い、武器を持たない仁の左手はその攻撃をどうにかするのには至らなかった。

 このままでは仁の体が現実の剣に切り裂かれると思えたその時、


「ハァッ!!!」 


 仁の真後ろから聞こえてきた力強い女性の声がそのまま彼の真上を飛んでいく。


 仁がハッと我に返り、上を見上げる。


 そこには細長い剣をまっすぐ突き出し、スケルトンの頭部に閃光の如く一撃を食らわせた彼女は、勢いに身を任せ、スケルトンの上を前回りすると、剣先をそっと抜いて、スケルトンの背後に着地した。

 スケルトンの体が真っ白に輝き、四散する。

 それを確認した彼女が急いで仁の方を向く。


「仁!大丈夫?」


 心配そうな顔をする彼女に仁は安堵の表情で答える。


「あぁ、大丈夫さ。ありがとな、恵美」


 実に美しい。これほどまでに完璧な連携は初めて気がする。やはり、自らの死を目前にしては戦い方が違うのかと思う。

 CODの命令を受け、ここへ来るまでの間、実際のモンスターと機動隊が戦えばどうなるのか気にはなっていた。だが、今の自分にはもっと気になることがある。


 彼のことだ。


 一体このあとどのようなことになるのか。自分の頭の中はそれでいっぱいだった。

 特殊金属は窒素を元に作られたものである。一般ではそう言われているが、実はそうではないのだ。

 彼らの剣がみるみるうちに敵の軍勢を消しとばしていく。


 ふいにこみ上げた期待に、わずかな微笑を浮かべる。





























 口元に生えた無精髭をそっと撫でた。


40話 暴かれし真実 を読んで頂きありがとうございます。


次話、41話 策謀 は、明後日(3/21) となります。


『Night』編、それは真実の物語。


次話以降もよろしくお願いします。


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