34話 下手な鉄砲も数打ち当たる
「うわぉぉぉぉ!!」
俺は驚きのあまり、手を置いていたドアを強く押してしまった。
扉は勢い良く開かれ、俺と結はバランスを大きく崩した。
「あわわわわ....」
結もびっくりして思わず声を出してしまった。
全開になった扉は留め具で跳ね返り、ガシャン!と音を立てた。
「何よ二人とも。そんなに驚かなくてもいいでしょ」
なぜ二人とも驚いているのかもわからない彼女はポカンとただ前を見ていた。そしてその視線の先に隊長と守がいることに気づくのにも、相当時間がかかった。
「何って...びっくりさせんなよ」
気配も何もなく急に話しかけるものだから、察するのに時間がかかった上、驚いてしまった。
「だから、なんでそんなに驚くのよ」
二度も同じことを言われ、俺と結は始めて彼女から視線をそらす。続けて、先ほどまでこっそり覗かせてもらっていたお二人の方を向いた。
「本当だわ。何故驚くのです?御影隊員、穂村隊員」
ー このいつもの厳しい口調はまさか...
俺たちを覗くように顔を下げて言うとある方は、それはそれはお怒りの様子だった。
「た、隊長...」
「フユミン...」
俺たちはすぐさまその場を離れるため急いで立ち、二人揃って彼女から5メートルくらい急ピッチで距離をとった。
「え、いやぁ...そのですね。あの...まぁ、あれですよ。あれあれ。...よくあるじゃないですか~そういうの。...いえいえ決してこっそり聞いていた!なんてことはありませんよ。な!結!」
俺の必死の弁解?に結も口裏を合わせる。
「そうサ。ちょうど屋上に行こうと思ったら、仁君と出会って、たぁ~またまそこに恵美ちゃんが来て、たぁ~またぁ~ま!フユミンと守っちが屋上にいただけっスよぉ~...」
だが、俺たちの必死の弁解もかい虚しく、ばっさり切り捨てられた。
「そんなことありえません。ですが...まぁいいわ。大したことでもないし」
少し頬赤らめるところ、隊長も先ほどまでの会話が聞かれていたのか気になっているのだろう。
ー 安心してください。全部知ってますよ!
恐らく聞こえていないのだろうと自負していると考えられる彼女はそのまま不思議と逃げるようにその場から立ち去った。
ので!俺たちはゆっくりと近づき、少し疑問に思ったことを聞いてみることにした。それがいかに無神経かと言われればそうなるのかもしれないが、聞かずにはいられないのが人間というものだ。
「隊長。意外と年下好きなんですね...」
思わずほくそ笑んでしまう。
すると、彼女は頬をりんごのように染めて慌てながら言った。
「なぁっ...お前たちやっぱりぃ...」
その恥ずかしそうな怒ったような顔がとてつなく、
ー 何コレかっぁわいいいい!!
しかし、後に発せられた言葉が俺のみを地獄へ誘う。
「穂村隊員。今度の任務の遂行量を2倍にします」
ー この人ほんと嫌い...
やはりと言うべきか、やっぱりと言うべきか、やはり彼女は俺の期待を裏切らない。
落胆の表情を横目に見ながら隊長は後ろの階段をゆっくり降りていった。
「あのさ...何がおこってるんだ?お前ら」
話題の中心であって、会話に除外されていた守がやっと口を開いた。
「あ、あぁ。いや、なんでもないんだ。そう!なんでもない」
そう言ってはぐらかしてみる。
「そ。ならいいんだけど」
ー コイツやっぱバカだ。ていうか鈍感だ。お前にいいことを教えてやる。はっきり言ってお前は主人公体質だ!
鈍感な守は少しばかりとぼけていたが、しばらくするとふと思いついたように俺に向かって言った。
「そうだ、仁。お前にちょっと見てもらいたいことがあんだ。今からでもいいか?」
久方ぶり。いや、下手をすれば始めてかもしれない守からの依頼に、俺は断る理由もなく、すぐに承諾した。
「あぁ、いいぜ」
天然というか、鈍感というかの守はやはり隊長のことはどうとも思っていないらしい。それなのにあのような言葉が出てしまうとは、と自分も見習わなければと思う。
そしてそのまま俺と守は、最後の最後まで訳も分からず立ち尽くす恵美と覗き仲間の結を残し、屋上を後にした。
守に連れられてやってきたのは、これまで俺たちが剣術の練習をしていた武道場ではなく、あまり入ることのない射撃場だった。
「なぁ。なんで射撃場なんだ?」
俺は思ったことをそのまま口にしてみた。
「それなんだがな。俺さぁ、実は銃を使えるようになりてぇんだよ」
俺は素直に驚いた。
これまで守は片手直剣一筋の根っからの突撃バーサーカーだったはずだったんだが、いつのまにか次は銃にまで興味を持ってしまったらしい。というよりも、なぜ得意の剣を捨てるような戦術を今更学ぼうとするのか、俺には意味がわからなかった。
「なんで急に?それに、お前一応強襲型じゃねぇか。あいつじゃあるめぇし」
だが、守はしっかりと説明してくる。
「それなんだよ!あいつなんだよ。相澤恵美。あいつさ、今は細剣を使ってるけどよ、聞いたところによると、片手剣や槍に鞭、さらにはライフルとかマシンガンにハンドガンまで使えるらしいんだぜ。凄すぎやしねぇか?」
その言葉に俺は驚きはしたものの、納得できないわけではなかった。なぜなら彼女はそう育ったからだ。そう育てられてきたのだ。彼女自身、結果的にそれを拒否したわけだが、多面的に見れば、その選択は間違っていたのかもしれない。完璧であることに苦痛もあれば、完璧であるが故の自由がそこにはあったのかもしれない。
俺はそれを無理やり剥がした張本人だ。という罪悪感は今でも残っている。
「まぁ、そうかもしんねぇけど。だからってお前までそんな風になる必要は...」
だが、守はそんなことはお構いなしに話を進める。
「そこは言ったら終わりだ!...まぁとにかく!とっとと始めんぞ」
そう言って守は俺の肩を掴んで一番奥の練習台に連れていった。
コンクリに包まれた射撃場は体感温度は非常に低く、他の隊員が放った銃声は甲高い音を立て、室内に共鳴させている。ライトの数も少なく、人気のない廃墟を想起させる。
守は場に着くと、自分のナイトブレスから銃を召喚した。
『リアライズ ドラキュレーター』
聞いたことのない名だった。ドラキュレーターという名前から察するに、ドラキュラがモチーフなのかと連想してみる。
だが、その銃は全体的に青く、銀色の装飾が入っている。片手で持てるハンドガンの形をしているため、使用するときも片手なのだろう。
「その銃、威力はどんぐらいなんだ?」
銃と言っても、さすがに人を焼き殺せるビーム砲や実弾銃がでるわけではない。一時的な対応策。つまり、仮想の銃弾を発射し、ナイトブレスで作られた相手の何かを遠距離から破壊するのが、この場で言う銃なのだ。
俺たちレイズは防衛省の直下の警備隊でありながら、銃刀法には引っかかるのだ。
ナイトブレスの起源がゲームなだけあって、レイズに入隊するものの中には当然、根っからなゲーマーも含まれるのだ。それは当然予想できたことでもあったし、前提でもあったらしい。だからこそ、基本的な社会規則はそこらへんの会社と大して変わらないのだ。しかし、特殊金属の生成、及び致死に至らない程度の剣類の使用は許可されているのだ。いわいる警棒のようなものである。なぜならば、ナイトブレスが瞬間で生成できる特殊金属の造形は限定されていて、未だにリロードなしのMR銃の開発は滞ったままだ。
つまり、総合的に考えると、レイズの中で銃を使う人は極めて少ないのだ。
そんな中、銃を習得したいという守の心意気は伺えるものがある。
「威力かぁ...まぁ6000くらいといったとこかな」
ー 6000だとぉ!!!?
その数字は俺にとってはあまりにも大きく、果てしなく一撃必殺に近い威力だった。"絶対零度"や"地割れ"などをされるようなものだ。
「すごいなぁ、その銃...」
だが、俺の賞賛をよそに、守は厳しい表情で射撃する板に向かって銃を構える。
「ん...そこはいいんだけどよぉ。問題はっ...」
狙いを定めた守が銃の引き金を引いた。
ドォン!と轟音が鳴り響く。始めてこんなに近くで銃声を聞いたことに興奮と恐怖の二つが感情に現れた。
ー こんなの打たれたらひとたまりもねぇだろ...
そう思って打たれたと思われる板を見てみる。
だが、そこには破片すらなく、銃弾が貫通した穴すらもなかった。
ー まさかお前...
俺は一つの仮説を立てて話しかけてみる。
「お前、まさかこういうの苦手って言うんじゃねぇだろうなぁ...」
守は照れたように頭を掻きながら俺を見つめた。
34話 下手な鉄砲も数打ち当たる を読んで頂きありがとうございます。
ココだけの話!守が出した銃『ドラキュレーター』は実は高級中の高級のレア銃なんです!なぜそんな銃を持っているかというのはまた別のお話で...
次話、35話 さすおね は、明日(3/14) となります。
『Night』編、それは真実の物語。
次話以降もよろしくお願いします。




