30話 Sky High Emotional
入口からの光はほとんど遮断され、洞窟の中はほぼ真っ暗闇に包まれていた。
「先輩!見つけましたよ。...うっ、取れ...ない...」
すでに奥で新種の鉱石を探していた里香が10分の捜索を経てようやく見つけていた。
だが、鉱石は採取できる程の大きさではなかったため、再度大きい鉱石を探していた。
「大丈夫か?俺が取ろう」
ナイトブレスについているライトの向きを洞窟の奥によせて、里香の声がする方向へ向かった。
コツコツと足音が洞窟の壁にぶつかり、反響して洞窟内を満たした。天井から水滴が時折頭の上に落ちてくる。
ライトを左右に交互に動かして里香を探す。
すると、右奥に小さな人影を見つけた。
「どれどれ」
急いでそばによってみた。
が、しかし。鉱石は俺が思っていた以上に大きく、女の子一人どころか、俺でも一人では取れるかどうかの大きさだった。鉱石は壁に突き刺さっていて、綺麗な六面体の結晶を露わにしていた。暗闇の中でも、キラキラと微々たる光を反射していて、その存在感はとてつもなく荘厳で神秘的にも見えた。
美麗な水色の鉱石にそっと手を引っ掛け、力いっぱいに引き抜いてみる。
「うぉぉぉぉ.....って、くっそ、抜けねぇ」
いかにも硬そうな岩に挟まれた鉱石はビクともしなかった。
「こうなったら...そうだ、里香。必要な鉱石の大きさはどれくらいなんだ?」
そう聞いみた理由は一つだった。抜けないのなら、岩との境界線で『折る』ことにすればいいのだ。俺の持っている剣は通常よりも重いから、きっとこの鉱石も壊せるだろうと思っていた。
「そうですね...まぁ、今露出している鉱石分で十分です」
ならば話は早い。
俺はナイトブレスを軽くフリックしていつもの武器を召喚する。
『リアライズ デッドリーブレード』
光の粒子が集合し、両手剣サイズの大きな片手剣が目の前に出現した。銀色の刀身は牛をも切り裂く程の威圧感と重量差を醸し出していた。
俺は片手で軽々と持ち上げ、剣先を鉱石と岩との境界線に合わせた。そして、大きく振りかぶる。
脳内でスキルスペルを詠唱する。
ー ハードカット
<<ハードカット>>は大きく上段から剣を振り下ろす両手剣スキルの初歩的な技だ。
青色に染まった剣がまっすぐ振り下ろされる。刃と鉱石が触れ合った瞬間、青白い鉱石は音を立てて割れた。
「あ!割れた!」
急いで落ちた鉱石の塊を里香は拾い上げると、ぎゅっと胸の中にしまい込んだ。
「ふぅ、これで仕事は終わりかな...あとは全部本部に戻ってからでいいんだよな?」
今日の目的は鉱石の情報を採取すること。取り出した鉱石を里香が持っている鑑定スキルとサーチスキルで情報を取り出し、残った鉱石に封印刻を刻み、後で山の管理局に余った鉱石を処理してもらうというものだ。
本当は二日かけて採取するつもりだったが、運良く昼のうちに鉱石が見つかったのだった。そこで俺たちは今日中にレイズ本部に戻ることにした。
真っ暗な洞窟ではいろいろとやりにくいから、俺と里香はそのまま洞窟を去った。
「先輩。案外早く仕事が終わりましたね。どうしましょう。さっき言ってた通り、このまま帰るのもいいですけど...どう、しますか?予定通り、もう少し先にある宿屋に泊まっていっても...いいんですけど」
少し頰を赤らめて言う里香。
自分的にどちらでもよかったが、今日は俺のために付き合ってもらった里香への礼として、ここは承諾することにした。
「あぁ、いいぜ。...まぁ、折角予約もしてるんだし、少しくらいは息抜きでもするか」
「そうですね」
ニコッと笑った里香の笑顔を見届けると、俺はまっすぐ前を向きなおした。
果てしなく続く空に傾いた太陽が俺たちを照らしている。
俺は新しい自分の剣を得ることに一番高揚していた。まさか耐火性と速度性を兼ね備えた金属があるとは思っていなかった。だからこそ、ドンピシャで見つかった時は陰ながらも嬉しかった。
だが、ふいに陰った日差しが俺たちを影の世界へと誘った。
「そこをどけぇ!!!」
後ろから全速力で走ってきた何者かが俺の肩を強く押し、俺は大きく前進に転倒してしまった。
「な、なんだ?」
だが、そう思ったと同時に何者かは里香をも押しのけ転倒した。
「きゃぁっ...」
里香もよろめいてこけてしまった。
「里香!大丈夫か?...なぁおい!何すんだテメェ」
だが、それよりも何よりも、そいつが持っていたものに俺は驚いた。
そいつが持っていたカバンの中には、さっきまで探していた新種の鉱石がぎっしり入っていた。
「お前...それ」
帽子をかぶったそいつは外見から察するに男と見た。
そして、鉱石を持っていて逃げるように走っているということは...
「お前。まさか、その鉱石。盗んだのか?」
男は慌てふためくようにおろおろすると、急いで右腕のナイトブレスを強くフリックした。
鉱石は法律上、鉱山の所有者の所持物であり、無断で取っていくことは禁じられている。だが、俺たちみたいに鉱石情報を求めてやってくる者もいる。だが、そのときは申請書のようなものを出せばいい。
しかし、その男の様子はあまりにもおかしかった。おそらく無断で鉱石を取ってのだろう。
「お、追っかけてくるんじゃねぇよ」
召喚したナイフが小刻みに震えている。
「いったぁい...な、何?」
突然のことに訳がわからなかった里香が頭を揺さぶって周りを見渡す。
すると、里香に気づいた男がさっそうとナイフを里香に突きつけた。
「里香!!!」
「う、動くな!動くと、こいつを殺すぞぉ!」
突きつけられたナイフの切っ先が里香を捉える。
「へっ、何?どういうこと...」
尖った刃に里香の表情がみるみるうちに歪んでいく。
俺は左手をそっとナイトブレスに重ねる。
ー なんかあったら、すぐに切りつける。つかこういうのって、正当防衛になんのか?
だが、この男は少し様子がおかしかった。里香が人質に取られているとはいえ、状況的に決して優勢ではないはずだった。
ー なんなんだ?こいつ。何かを...待ってる?
そう思った瞬間、後ろから何かが降ってくる音がした。
「ドン...」
振り下ろされた鈍器のようなものに俺は意識を奪われてしまいそうになった。
「...ぐはっ」
ふらついた体を豪快に押され、完全に体制を崩してしまった。
「ふっ、まぁこんなもんか」
背後から聞こえた卑屈な声にそれが何者かはわかった。
ー こいつ、仲間がいたのか...
気づくのが遅かった。これで、その名の通り形成を逆転されてしまった。
「バレてしまったのは仕方ねぇ」
「てめぇら、何すんだ...」
しかし、俺の体は突き飛ばされ、言葉は最後まで言えなかった。
ー こいつら、一体何するつもりなんだ..
俺は脳裏によぎった一抹の不安と、微かな正義感に体を突き動かされた。
「あれでしょ。まぁ、この男は放っておいとくとして、この子、結構可愛くね?どうする?」
「あ、あぁ。そうだな、一応連れていくか」
里香の引きつった声が聞こえる。
『助けて』
そんな言葉が頭の中を埋めてゆく。いつかの黒い夕焼けに満ちた過去が体を竦めさせる。
ー だが、俺一人ではこの状況は打破できない...
30話 Sky High Emotional を読んで頂きありがとうございます。
無事鉱石を見つけた仁と里香だったが、突然現れた泥棒二人組に襲われてしまう。里香を人質にとられ、下手に身動きができない仁。その時、里香は...
次話、31話 HeartSword は、都合により 3/9 となります。
その代わりに、31話までの三日間には『NITE-傷だらけの翼-』に登場するキャラクター達を徹底紹介する『NITE-誰彼の書-』を投稿していきます。
次話以降もよろしくお願いします。




