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NITE -傷だらけの翼-  作者: 刀太郎
第1章 過去編-始まりの時-
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3話 第一機動隊、それは最強を意味する

 ここレイズで、第一機動隊は最強のチームの意味を持つ。軍隊のような集団ではなく、少数精鋭に分かれている機動隊の中でも、一番隊は最も優秀な者が所属することを認められている。


 そんなところに今、俺はいる。


ー なんでだぁ~~~~!俺はこんなに優秀だったか?え、もしかして俺って最強?やばくね。マジ、やばくね?


 錯乱しそうになる。


「穂村隊員、何をボーッとしてるの!早くしなさい」


 隊長がお怒りのようだ。


 今俺は、いや俺たちはどれだけできるかのテストを受けている。実を言わなくてもわかっていたことだったが、俺はそんなにできるやつじゃない。


 守がやる気満々で準備体操している。


「なぁあのさ。今から何やんの?」


 本当に何にも知らないので聞いてみる。というか、そうしないといけない、のでしょ。


「はぁ?何言ってんだ?連撃テストに決まってんだろ。まさか、知らないのか?」


「あぁ、あぁ。知らない。全く」


 守が呆れた表情でこちらを見る。無理もない。

 ここにいる人間はナイトブレスを自在に扱うことが可能で、尚且つ戦闘において優秀中の優秀の人材なのだ。ろくに試験勉強的なことさえもしていない俺が対等にいれること自体、奇跡に近いと言っていい。


 これは後で知ったことである。


 春野守はC地区コロシアムでタッグ戦に一人で挑戦し、3回連続で優勝している豪腕の持ち主。こいつの剣を一発でもまともに受ければ一週間は体が言うことを聞かないという。


 次に、相澤恵美。彼女の様子は現段階で俺に何か感じさせるものがった。だが、一方で成績は凄まじいものだった。守も凄かったが、彼女は比べ物にならない。D地区コロシアムで個人戦で5回優勝、単身でタッグ戦に挑み2回優勝している。その他にも幾多の賞を受賞している。噂によれば、才色兼備で文武両道の過去最強の女性騎士だと言われているらしい。

 だが、そんな中で気になったのは、その噂の中で聞いた、八方美人の四面楚歌であるということである。まぁ、そんなに優秀なら周囲から嫌われることもあるだろうと俺は考えていた。


 そんな中で俺だけなんの成績もない。今一度再度審議をしてほしい。

 だが、そんな俺の期待も儚く散る。


「穂村隊員、何度言ったらわかるの?早く試験を始めなさい」


 隊長のキツイ言葉が耳に刺さる。

ー わかったよ。やればいいんでしょ。


 俺はここ1ヶ月でやっと覚えたナイトブレスの戦闘系統の使い方を覚えた通り実行し、武器を出す。


『リアライズ、ウッドブレード弐式』


 システム音声と共に木刀が出てきた。ポンと手に乗っかる。意外と軽かった。少し嬉しかった。なんかやる気が出てきていた。


 だが、周りの視線は異様だった。


「お前、他に武器とかないのか?」


 当たり前だ。というか、他に武器って、どこで買うんだよ。


「あぁ。これだけだけど」


 隊長を始め、副隊長や守、ついにはあの彼女まで俺を変な目で見てきた。


「スゲェな、お前。よくここに受かったな。ある意味尊敬するぜ」


 守が決まり悪そうに反応する。


「なんだよ尊敬って。馬鹿にすんなよ」


ー 何をだぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!


 俺は自分で言っていていて恥ずかしかった。これは馬鹿にされるだろ。それはわかっていたつもりだったが、ついいつもの意地っ張りの性格が出てしまった。


「穂村隊員。ふざけるのはいい加減にしてください。ちゃんとした武器を召喚してください。木刀なんて初期装備じゃないですか」


 隊長が真剣に怒ってきた。だが、弁論する余地もない。だって、これしかないのだから。


「すいません。本当にこれしかないんです。本当です。信じてください」


「信じてって言われても…」


 副隊長が何やら端末のようなものを見て驚いている。


「隊長、本当です。こいつ、武器スロットに木刀しかありません。さらには、装備も初期装備のままです。こんなこと初めてです」


 副隊長に助けられた。だが、最も俺が弱いことを確定されたと言ってもいいのだが。それにしても、こんな初期装備なんで入れたのか。


「本当なのかよ。マジか。衝撃だぜ」


 守が不思議を超えて興奮してきているようだった。既に召喚した剣を肩にかけると俺の元にグッと近づいて言いよってきた。


「なぁ、お前。戦い方は知ってるのか?ナイトブレスでの戦い方」


 知らない。


「いや、知らない」


 守の顔がさらににやける。


「え、じゃあ。成績はもちろん…」


 ない。


「ない。ひとつとしてない」


 言ってしまった感はあったものの、誤解が解けたような気がしてすっきりとした。イレギュラー中のイレギュラーが今ここに誕生した。


 ニタニタと笑う守はふと何かを思いついたかのような顔をすると、隊長にある提案をした。


「隊長。こいつ、何にもわかってないようなので、俺が教育係としてこいつを育成してもいいですか?」


 「何を言ってるんだ?俺を育成?一万年早ぇよ、コノヤロー」と、言いたいのは山々だが、今の俺のステータスから察するに、これは良い機会なのかもしれない。


「隊長、俺からもお願いします」


 ここは乗っておいた。今後都合が良い。


「あなたまで。…はぁ。まぁいいわ。しょうがないわね。今回だけ特別に春野隊員を穂村隊員の教育係を任命します」


 隊長が納得してくれたことで、守の表情も元に戻り、テストは再開した。

 そして、同時に俺の訓練も始まった。



ー1週間後ー



「今日は実際に戦闘で訓練してもらう。と言っても、ここには俺しかいねぇからな。だから無論俺と勝負な」


 守が勝つ気満々の顔で俺を見つめる。


「嘘だろぉ。なぁ守、いくらなんでも早すぎるんじゃねぇのか?まだ俺ろくに連撃もできないんだぞ」


「大丈夫さ。仁ならできるって。ま、勝つのは俺だけどな」


 ここ1週間、俺はひたすら守と一緒に訓練を続けた。そんな中で俺は守と仲良くはなった。まだまだ気にくわねぇところはあるが、それでもいい奴には間違いなかった。互いを呼び捨てにするほどの仲にも慣れたみたいだ。自然と呼び捨てにする。


「じゃ、始めよっか。使う武器はどちらもメタルソード。装備も一緒のだ。デュエル方式でやる。いいな」


「あぁ。どこからでもかかってこい」


 ここ1週間の成果を見せてやる。俺もやる気満々だった。


『3、2、1、ポーン。デュエルスタート』


 開始音と一緒に守が一気に迫ってくる。


「反応が遅いぞ」


 俺は急いで避けた。

 だが、守の勢いは一方通行ではなかった。一直線に伸びた剣尖はその道を正確に俺の方向に向けた。


「行くぜ。メテオストライク!」


 守は俺が相手なのか、下級スキルを発動した。俺はもちろんその技を避ける。


「それくらい、俺でも避けれるぜ」


 だが、守はあのニタニタ顔をやめはしなかった。守は紙一重で技を避けた俺を狙っていたのだ。守はわざと下級スキルを繰り出し、相手が油断したところを狙ってきたのだ。


「甘めぇな」


 守の連撃、ダブルストライクが発動する。メテオストライクに続いて連続でスキルを発動すことで起こる連撃技だ。

 貫通系の技であるメテオストライクとは対照的な斬撃系の技であるストームスラッシュを出してきた。


 俺はえも言えぬ内にやられてしまった。装備が粒子となって爆散する。目の前に表示されていた体力ゲージが0になっていた。

 負けたのだ。俺は一回の攻撃もせずに守に負けてしまったのだった。


 負けて落ち込む俺に守はいつものように言う。


「ドンマイ。次は頑張ろうぜ」


 そう言って手を差しのばしてくる。不思議な奴だった。他の隊員からは感じられなかった雰囲気。決して軽いわけではなかった。勝負や訓練は誰よりも真剣だ。といって、熱血バカでもなかった。


 俺はいつも通りにその手を取った。


「あぁ。次は一撃を与えられるように頑張るさ」


 俺はなんとなく、どこかでこんなところなら天職にしてもいいなと思っていた。


 だが、神様ってもんはある時、余計なもんを与えてくれるらしい。



ー二日後ー



 緊急出動警報が初めてなった。レイズ、機動隊の出動要請だった。これが初めての仕事と言えた。俺は守、そして恵美と一緒に機動隊の装備に着替えると、隊長の元に集合した。


「これがあなたたちの最初の初任務となります。やることは大会や試合と同じだとしても命がかかっているのは確かです。真剣に行動し、速やかに任務を全うしなさい」


 責任感のある隊長の言葉は最初はきついとは思っていたものの、今はとても心強く聞こえる。それが背中から伝わってくる。


 俺たちは出動用のトラックに乗り込んだ。他にも第二機動隊や第三機動隊もいた。皆重厚な装備を体につけている。

 守によると全てリアルの鍍金でできた渦中なのだそうだ。ここまでくると、もうただの軍隊になるな。ま、軍隊なのだが。


 トラックが目的地に着くまでの時間は自分でも驚くほど緊張していなかった。それよりも、興奮や感動が心の中を満たしていた。

 急にトラックが止まる。車の中にアナウンスが入る。


「目的地に到着した。直ちに打ち合わせ通りに行動。犯人グループを見つけ次第、隊長を通して所属の機動隊に連絡すること。また、近くに別隊がいた場合は合流して待機すること。くれぐれも余計なことはしないこと」


 隊長の言葉がアナウンスとしてトラックに響く。続いて副隊長がアナウンスを取る。


「犯人グループの最新の情報を伝える。犯人たちは人質を捉えている模様。だが、人質は第三機動隊に任せる。他の機動隊は人質は無視してでも犯人グループを捕まえてくれ」


 俺は衝撃すぎて思わず立ち上がってしまった。


「そ、そんな!」


 突然立ち上がった俺に視線が集中する。守が俺の腕を掴む。


「やめとけ」


 ただそれだけ一言言うと、守は俺の手を強く引っ張った。俺は体のバランスを崩し、元の場所に戻る。


「なんで止めるんだ」


 俺は守に訴えた。


「俺も思うところはあるが、これが上の決定なんだ。俺たちは犯人グループの殲滅だ」


 守のまっすぐなところはここでは役には立たなかった。そう勝手に思っていた。


 第一機動隊は予定通りに犯人グループの捜索に入った。目的地とされていた場所はコンビナートだった。コンテナがいくつも重なることで視界が一定の方向しかない。

 俺たちは神経を研ぎ澄ませ、辺りを注意しながら進んでいった。


「こちら、第二機動隊。こちら第二機動隊。犯人グループを発見した。中心に人質が一名います。女性です」


「了解。第二機動隊はそのまま待機。第一機動隊が到着次第特攻」


「了解」


 第二機動隊の返事が耳に掛けたイヤホンから聞こえた。しかし、その内容は俺には非人道的に聞こえて仕方なかった。


『第一機動隊が到着次第突入』


 これはただの作戦指揮ではない。これは裏を返せば、人質を救出する第三機動隊が来なければ人質は無視するという作戦指揮にとれる。

 第一機動隊は優秀な人員が多いのはわかるが、それは必ずしも攻守共に優秀とは限らない。ここにるのはどちらかと言えば攻撃の方が優秀だと思う。


「守、人質はどうするんだ?」


 守に聞きかける。


「人質は...、上の命令だ。俺たちは人質のことよりも犯人グループを優先する。それだけだ」


「なんでなんだ。犯人グループもそうだけど、人質も優先するべきじゃないのか?」


 もう一度守に問いかける。


「なんでなんだ?」


 強く、強く問いかける。


「穂村隊員!静かにしなさい!ここが戦場だってわからないの?」


 隊長の逆鱗に触れてしまったようだ。ここは静かに黙らないといけないみたいだった。


 守もいつの間にか黙っていた。


 俺は警察とはこんなものなのかと心の中で疑問を抱いていた。

 人質を助けないとは一言も彼らは言っていない。だけど、人質優先は基本じゃないのか?いつも観てる刑事ドラマではもっと人質とかそういうのを重視していたはずだ。実際の警察が、もしそんなことを全く思わない冷徹な機関だとしたら、今すぐにでもそんな組織抜け出したい。


 つかの間のうちに第一機動隊は現場に到着した。俺を含める七人はそれぞれの配置について第二機動隊との連絡をとった。


「こちら第二機動隊。第一機動隊の到着を確認。第三機動隊の到着はまだか?現在の位置は?」


 第三機動隊からの返答がくる。


「こちら第三機動隊。現在座標607、399。204番コンビナートを移動中」


 レイズ、及び機動隊は行動する際、あらかじめ計測して算出されたグラフのようなマス目状のマップ(基本的に900×900×4)を使って行動する。現在の位置はマップから読み取った座標を言う。

 これは、もし外部から通信がジャックされていた場合の時を想定し、出動前に独自のマップをアドホック通信によって送信している。

 現在第三機動隊は作戦行動範囲座標中において、縦607、横399。俺たちがいる106番コンビナートは縦-130、横254に位置している。つまり、人質を救出する第三機動隊は現場まであと縦737、横145進まなければならない。

 予想でも相当かかると思える。


「了解。第三機動隊は引き続きこちらへ急行、同時に第二機動隊、並びに第一機動隊は第三機動隊の到着を待て」


 少しは人質のことも考えてるのかと安心した。


 しかし、事態はそう簡単には終わらない山だった。

 新たに通信が入る。次は作戦行動指揮総合事務局、CODからだった。


「全隊員、並びに各隊長、副隊長に通達します。犯人グループの過去の行動をリサーチした結果、新たに判明したものがあります」


 CODのオペレーターが少し間をおいて続ける。その声は事の深刻さを醸し出していた。


「犯人グループは3日前、非合法の取引においてレッドスローターを三体購入しています。レベルは三体とも50。武器はわかりません。その後のカスタマイズによってはさらに...」


 そこでオペレーターは黙ってしまった。判断を委ねられた隊長達はそのまま話を続ける。


「レッドスローターか...。厄介なことになったな。対軍用のカスタマイズモブを所持しているとなると、相当なSTRがないと押しきれんぞ」


 第二機動隊隊長が唸る。


「では、ここは第一機動隊で対処をします」


 依然と動揺もしない我らの隊長はレッドなんちゃらの対処を自らの第一機動隊に委ね、第二機動隊を対人用に切り替えた。


 レイズの機動隊は大きく三つの能力で分けられる。攻撃ステータス特化の第一機動隊。潜伏ステルス特化の第二機動隊。護衛・回復ヒーリング特化の第三機動隊。前衛に第一機動隊、背後に第三機動隊を配備し、敵の背後に第二機動隊が回り込み、第一機動隊の補助、並びに迎撃、遊撃を行う。

 よって、主に第一機動隊は戦闘において欠かせない値であるSTRが高い者が起用される。そして、第二機動隊は特殊スキルを持ち合わせた者が配備されることが多い。第三機動隊はヒーリングスキルを所持する者を中心に、DEFが高い者が起用される。


 この際、くどいほど言ってきたが、俺はこのどれにも当てはまらない。


 隊長は全隊員に行動を支持すると、最後に改めて俺たちに説明した。


「いいか。今回はレアケースにつき、特別に個人武器、並びに特有スキルの使用の自由を許可する」


 守がこっそりガッツポーズを決めた。

 正直言って彼にはレイズで与えられる戦闘用の装備が弱すぎたのだろう。


 しかし、相変わらず平井恵美、彼女は平然としていた。


 そんなことを考えていた俺に向かって隊長がムッとした顔で、


「穂村隊員、あなたには今回は待機してもらいます」


 突然のことに驚いた。


「な、なんでですか?!」


 思わず睨み返してしまう。


「あなたわからないの?対軍用カスタマイズモブは常人じゃ対処できないの。はっきり言って、あなたには荷が重すぎますし、怪我をしてもらっても困ります」


 ごもっともな意見に俺は反論できなかった。


 そう、第一機動隊はレイズの中で最も強い。第一機動隊、それは最強を意味するのだ。

3話 第一機動隊、それは最強を意味する を読んで頂き誠にありがとうございます。


はやり仁が入隊したのはツワモノだらけの化け物チームだったのですね。守との訓練の成果は初任務で発揮されるのでしょうか?


次話、4話 炎の覚醒者 は明日(1/29)となります。

順調な初任務に異変が...?(ネタバレはよくないですねw)


どうぞ次話以降もよろしくお願いします。

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