表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NITE -傷だらけの翼-  作者: 刀太郎
第2章 現在編-悲劇の産物-
24/69

24話 豪炎の殺意

 突如目の前に現れた人影は眩く輝く紫の光線に衝突し、光に包まれると、遠くに吹き飛ばされた。


「海坂!!」


 遠くへ飛ばされた海坂は地面を延々と転がり、ばたつかせた腕が引っかかって動きが止まった。

 海坂の姿はさっきまでの人の姿ではなかった。灰色のコートに鱗のような装備が体にひっついているような姿だった。それは禍々しくも、これまでの奴らとはまた違う姿だった。

 俺は結局、これが海坂の怪人態を最初に見る機会となった。


 だが、もう彼はぼろぼろになっていた。


 発動中のスキルを緊急解除し、左足で体の動きを抑えて右足で地面を蹴って、すぐさま海坂の方へ向かう。右手に持つ剣を同時召喚されていた鞘に戻し、全力で走る。

 ぼろぼろになった海坂の元に駆け寄る。


「海坂!...おい!海坂!!しっかりしろ!」


 反応はなかった。強く揺さぶってみるが、ビクとも動かない。


ー やめてくれ。それだけはやめてくれ...


 一度はわかりあい、お互いを知ることができた者。何よりも、自分にはできなかったことを成そうとした彼を俺は失いたくなかった。

 そして、また自分の腕の中で、目の前で誰かが死ぬのは考えたくなかった。


 だが、目の前で徐々にHPバーを削られ、限りなく0に近づいていっている彼を見ると、いても立ってもいられなかった。


 必死の揺さぶりにやっと海坂の瞼がピクッと動いた。


「海坂!おい!起きろ!海坂!」


 小刻みに動く瞼が弱々しさを見え隠れさせている。


「ア、アンちゃんか。...ったく、俺ったら情けねぇな...」


 そうやって笑いかけてくる。


「何言ってんだお前!なんてったって?」


 その問いに海坂は辿々しく答える。


「そんなの...決まってんじゃねぇか。...ダチを...守るため...だろ?」


 一言一言話す度に海坂の力が弱くなっているのがわかる。


「そんな...」


 そして、顔もだんだん青ざめてきた。


「おい!起きろ!...死ぬな!」


 だが、海坂はもう喋らなくなっていた。

 生気がない右腕がだらんと落ちる。痩せこけた頰が微かに鎧の隙間から見える。だが、その上にある瞳からは光を失っていた。


「...嘘、だろ?」


 海坂はずっと一人で悩んで、苦しんでいた。立場は違えどそれは俺も同じだったのかもしれない。でも、あいつは仲間を友達を守ろうと立ち上がったんだ。それなのに、俺は2年も逃避し続けていた。ただあの日出会った豪炎龍と名乗る未知の生命体に教えられた街を散策するだけの逃避行をしていただけなのだ。


ー こいつは、俺よりもよっぽど強い...それなのに...


 現実の理不尽さに嘆いていたその時、


「そんな悲しい顔すんなよ...アンちゃんは、アンちゃんでいてくれ」


 か細い声が聞こえてきた。


「海坂...」


 最後の力を振り絞って、海坂が言葉を話す。


「アンちゃんがレイズ本部を破壊したとは俺は思っていねぇよ。アンちゃんは優しい。そして、俺なんかより強い。だから、俺のダチも、あいつも助けてやってくれ。自分を見失わないでくれよ、アンちゃん」


 ほのかに海坂の体が光り始める。


「やめてくれ。死なないでくれ!なぁ!なぁ!!」


 だが、俺の言葉も虚しく、海坂はゆっくりとその瞼を閉じた。


「最後にアンちゃんみたいなダチ公ができて、俺りぁ、幸せ者だな...」


 そう言い残して、海坂の体は、眩い光に包まれて、その姿をゆっくりと消していった。体の輪郭に沿って光の線が現れ、そうかと思うと、光はそれぞれ散り散りになって消失した。


 海坂が死んだ。


ー 俺は、また誰かを...


 目の前で誰かが死んだ。それだけでこれまでの記憶がフラッシュバックする。

 俺のせいで死んでしまったとつい考えてしまう。もっと早く気づいていれば。もっと力があれば。そう思った日が何度もあった。自殺しようとも思った。ここで死ねば、彼らは俺を許してくれるだろうか?


ー 俺は、また誰かを...


 そうしていつも悩み、苦しみ、自分の運命を嘆いた時、必ず聞こえるのだ。


ー 君は、どうしたい?


 それにいつも俺はこう答えていた。


ー わからない。どうしたいのかも、俺にはわからない。


 そして、謎の声はいつもこう答える。


ー 汝が豪炎を欲する時、我此処に現界す。


 その言葉はいつもそこで終わっていた。


 だが、今の俺は違った。俺は今の感情に、素直に反応し、心の中で放った。


ー 俺は、力が欲しい。全てを守れる、力が...


 そして、謎の声は答えた。


ー ならば、汝に...


 だが、謎の言葉は今度ははっきり聞こえた。


『汝に、豪炎の龍の力を与えよう。そして、我は現界するとしよう』


 その言葉と同時に、体が炎に包まれた。ナイトブレスは灼熱のように真っ赤に染まり、腕に火柱が巻きついてきた。身体中が焼けるように熱い。まるで、初めて炎の力を覚醒させた時のようだった。


ー 熱い、熱い、熱い、熱い...


 そして、またあのときのように、俺の意識は朦朧として、いつの間にか消えてしまった。



 体を炎に包み込んだ仁は周りの誰からも視認できなかった。火柱は天まで登り、荒れ狂うように波打ち、轟音が鳴り響いていた。


 死神と斎藤は突然のことに驚いていた。


「何だ?この現象は?」


 死神は赤く光る目を凝視して呟いた。


「こんなことはありえない。熱が...伝わってくる。これは...一体どういうことなんだ?」


 目の前のありえない状況を死神は理解できないでいた。


 数秒間の後、巨大な火柱の中から大きな影が現れた。その影は、トカゲのような輪郭をしていて、それでいて、巨大な羽がついていた。鉤爪のような尖ったものが炎の奥で煌めき、獣の唸り声が聞こえた。


「これは、龍か」


 途端、炎の中からこれまでで一番大きな轟音が鳴り響いた。


「グルゥオォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」


 炎の竜巻を銀色の鉤爪が切り裂き、パアぁっと火柱は二つに分かれた。

 だが、その中には龍なんてものはいなかった。いいや、いるはずがないと死神は考えていた。

 その代わり、火柱の一番麓、自分と同じ目線の高さに一つの人影を見つけた。

 

「あれは...」


 すると、周りに散り散りになったはずの炎は一気にその人影のところに集まり、その姿を小さくさせていった。

 そして、炎の明るさで視認できなかった人影の正体が太陽の光に照らされ、ついに露わになる。

 豪炎の中、死神が見た男の姿は先ほどまでの奴とは格別に違った。

 黒のジャケットのようなものを着ていた最初とは違い、今は真っ赤なロングコートにその身を包み、黒のラインが縦横に入っている。胸と左肩には真紅の鎧が着けられていて、黒のズボンにはさっきとは違い、白のラインが縦に入っていた。何よりもその男の髪の一部が炎が乗り移ったかのような深紅に染まっていた。そして、ナイトブレスが右腕には龍の頭部と思われしきものが取り付けられていて、龍の口からは反り返った長く細い刄が突き出してした。体の周りには赤色のゲージのようなものがいくつも表示されている。


 死神は言葉を失っていた。


「何なんだ?こいつは?」


 ナイトブレスには物理的な法則は通用しても、化学的な法則は通用しないはずだった。しかし、現に今、死神は彼から発せられる熱い何かを感じていた。


 そして、図らずも斎藤もその光景を目の当たりにしていた。


「何なんだよ!さっきから、海坂も、アンタも...」


 だが、斎藤の言葉に男は反応しなかった。


 その代わり、男は口から白い息を吐き出すと、低く呟いた。


「俺が...俺が...守る...お前を......殺す!」


 その時、男の瞳に映った殺気を感じ取ったかのように、周りに炎が出現した。


「ゴォウ!ゴォウ!」


 そして男はゆっくり歩き始めた。だが、その足取りは重く、一歩一歩踏んでいくごとに地面が溶けるかのように真っ赤に染まっていく。


 死神は久しぶりに自身の死の恐怖を感じた。

 だが、それは一種の高揚感も生んでいた。それがどこから溢れてくるのかはわからなかった。だが、ただ一つ言えることがあるのなら、死神はこの状況を待ち望んでいた。一人の男の死を乗り越え、自らも死神になる決意をした男を目の前にして。


 そのときから、灼熱の業火を魂に持つ男と、死を背負い執行する男の長きに渡る戦いが始まろうとしていた。

24話 豪炎の殺意 を読んで頂きありがとうございます。


海坂が腕の中で死んだ。そして、仁のナイトブレスと体にとある変化が起きた。


次話、25話 処刑者vs破壊者 は明日(2/23) となります。


『そして、彼はもう一度立ち上がった。俺は、ずっとこの時を待っていたのだ』by Unknown


次話以降もよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ