2話 政府最高機関犯罪対策チームへようこそ
2028年4月1日 二年前
気がついたら、俺は近未来感溢れるエレベーターに乗っていた。他にも乗車している人がいた。どいつもこいつも俺と同じような格好をした奴らばっかだった。
ふと、知らないうちに手の中に入っていた小さな紙切れが指の中から顔を出した。
紙切れには『1番隊 ウェスタンタワー6階第1機動隊室206』と書かれていた。
「んだこれ?部屋の番号か?」
独り言をボソッと呟く。周囲の人間の視線が俺に集中する。俺はその目線にゾクッとしてそのまま黙りこくってしまった。
エレベーターが3階に到達した時点で、エレベーターに乗っていたのは俺を含め、立ったの二人だった。
もう一人は誰なのかと俺は後ろを振り向いた。すると、そこにはあの大部屋に入ってきた時に最初に目があった女の人だった。
彼女は振り向いた俺に対し、何も言わずにただただ下を向いていた。
ー 変な奴だな。ま、俺からしてみればここにいる奴全員頭イってる奴ばっかだと思うがな。
俺はここレイズ本部に入ってきてからというもの、何か変な気を感じていた。第六感というやつだった。とっても変な気だった。まるで何かと皆戦っているような。
最初は単に遅刻した俺への冷たぁい目線だと思っていた。
しかし、最後にはその予想は完全に消えていた。俺なんて見てもいない。俺が遅刻した時点で、俺は目線すら向けられていなかったのだと。そう感じたのだ。その感覚が不思議で不愉快だった。何でこんなことを感じならなければならないのかと。
俺はここに来るまでは、どんなところなのかと期待を膨らませていた。だが、期待はその下の下をいっていた。正直に思った。ここは俺がいていい場所じゃない。少なくとも、俺は望んでいない、と。
期待の度合いを表示するのに風船があるとするならば、まさしくそれはパンクと呼べた。期待のしすぎ。現実との対比の差。それらが俺にどっしりのしかかってきた。
エレベーターの表示を見ると、そこには⑥のボタンしか点灯していなかった。
ー この女、俺と同じ階で降りる。
まずいとは思わなかったものの、どこか気まずさを感じていた。
入隊式で俺に見せたあの顔。決して異常とは言えない顔であったが、確かに俺はあの時あの顔から『寂しさ』というものを感じた。それを解決してあげようとは思わないし、したくもない。こう言っても、俺はどちらかといえば面倒くさがりな性格の方だった。無論、女の子の涙には弱い体質は持ち合わせていない。
だが、さすがの俺でもそのあと二人きりとなるとそんな気持ちも揺らいでくる。俺が干渉していいものなのかさえわからない。そんな人の話を聞くなど言語道断だ。
そうこうしているうちにエレベーターは指定された6階に到着した。重厚な金属ベルトが動く音とともに目の前のドアが開いた。チーンという音が鳴り響く。
俺はそそくさと降りようとした。だが、そんな俺を置いて彼女は先にエレベーターから降りてしまった。
俺は彼女を追うようにエレベーターから降りた。二人分の人間が降りたことでエレベーターから安堵の声が聞こえた。
彼女は俺なんか見向きもせずに目的地であるところに向かって進んでゆく。俺は自分の目的地であるウェスタンタワーの第一機動隊室206がどこにあるのかすらわからなかった。だからか、俺は自然と彼女についていった。
彼女は近未来感溢れる廊下をコツコツとハイヒールを鳴らして歩いてゆく。彼女の手の中にも俺と同じ紙切れがあった。
しばらく追ていったが、一向に彼女は目的地に着かなかった。方向音痴なのか、それともそれだけ遠いのか。だが、依然として彼女は足を止めはしなかった。多分、後者が正解なのだろう。俺はそれを信じ、自分の目的地のことなんてとうに忘れて歩いていた。
彼女が曲がり角を曲がったところを見て俺はそのあとを急ぎ足で追った。曲がり角に差し掛かったその時、俺は前方に人がいることに気づいて急停止した。
彼女だった。俺は慌てて彼女からは離れると、彼女の目の前にある大きなドアに目を向けた。
「第一機動隊室 部屋番号206。…って、ここ、俺の配属先じゃねぇか」
ー ってことは、まさか…
彼女は俺の予想どおり、そのドアノブに手をかけた。
ー アンタの配属先って、ここかよォォー
顎が外れかけた。
彼女がドアからまたもや光が溢れ出してきた。最近、照明が明るいところが多い気がするのは俺だけだろうか。
ドアの向こう側にはこれまでよりも一層近未来感溢れるオフィスが広がっていた。そして、そのオフィスには二人の人が既にいた。
「あ、来たわね。三人とも、早く席に着きなさい。朝の点呼はもう始まっているのよ」
ー 三人?この人、頭おかしいんじゃねぇのか?三人もここにいねぇじゃねぇか。俺と、彼女と……
振り返ると、当然のようにそこにはもう一人いた。俺よりも少し背が高い、男性が。
ー すいませんでしたぁぁ!俺が頭おかしかったですわぁぁ!
俺は更に外れそうになった顎を必死で外れないように意識しながら、青ざめた。
「んだよ、そんな驚いた顔して。そう青ざめるなよ、遅刻野郎」
その男は俺の肩に手をポンと置くと、前を歩いって言った。
「な、なんだよ。遅刻野郎って」
「遅刻野郎は遅刻野郎だ。あの入隊式に遅刻するなんて、大した奴だな。少しは面白そうだ」
男はニヒッと笑うと、自分の名前があるデスクに向かった。
隣にいた彼女もそんな会話は無視して自分のデスクに向かった。
「そこのあなた。早く席に着きなさい。点呼まで遅れるつもりですか?」
高身長ですらっとした背筋がキマっているキツそうな女の人が俺に向かって言った。
俺は急いで自分の名前が書いてあるデスクに向かった。デスクは綺麗に片付いており、机の上には一週間前に俺がオフィスに置く物を入れたダンボール箱が一つ置いてあるだけだった。
女の人は俺が自分のデスクに来たことを確認すると、反対側にいたもう一人の方に頷いた。すると、もう一人は大きな声で話をし始めた。
「よし。それでは朝の点呼、及び新入隊員の紹介をするとしよう。まずは最初に、こちらから自己紹介をするとしよう。隊長、よろしくお願いします」
大きな声で話し始めたもう一人は、大柄な男で、見るからにガタイの良さが伝わってきた。
隊長と呼ばれたさっきまで俺や他の二人を部屋の中へ入ることを催促していた女の人が俺たちの前に立つ。
「ゴホン。私はこの第一機動隊の指揮、責任を任されている、坂田 冬美という。以後、隊長と呼べ。以上です」
無愛想な口調に俺は真っ先にこの人はタイプじゃないことに気づいた。
次に、大男が自己紹介をした。
「えー紹介が遅れた。私は第一機動隊の副隊長を務めている須郷 雅紀という。私も、副隊長と言ってくれて良い。最初はわからないことが多い。なんでも聞いてくれ」
眉間にシワを寄せて部屋目一杯に広がるほどの声量で自己紹介をした。
ー 聞けるかァ!気が引けるわ。つーか、さっきからこのおっさんの特徴、声しかねーし。
兎に角にも、異様な雰囲気はあの会場だけではなかったようだった。もっとも、ここはあそことはまるで違う気がするのだが。だが、俺はそうであったことに心のどこかで安心していた。
坂田と名乗る隊長は、副隊長が自己紹介を終えると、俺たちがいるところ以外を執拗に見渡し、ハァとため息をした。
「いないか。…まぁあいつはもういい。それでは、新入隊員の自己紹介をしてもらう。じゃあ、そこの遅刻魔。あなたからしなさい」
ー なぁっ?!遅刻魔とは失礼な!
俺は少し不機嫌そうな顔を隊長に向けた。その後、すぐに元の表情に戻って自己紹介を始めた。
「えーっと、この度、第一機動隊に所属となった、穂村 仁と言います。えーっと、頑張ります、よろしくお願いします」
そう言って俺は頭を下げた。予想どおり、拍手なんかは一つとして起こらなかった。これが社会というものなのか?笑顔で受け入れてくれるのは学校までってか。
続けて、さっきの男が自己紹介を始めた。
「この度第一機動隊に配属になった、春野 守と言います。精一杯頑張ります。よろしくお願いします」
もちろん、こいつの紹介の後にも拍手は起こらなかった。
そして、最後にあの彼女が自己紹介をした。
「この度第一機動隊に配属になりました、相澤 恵美と言います。よろしくお願いします。」
澄んだ瞳がその時も、あの時も、曇天に覆われていたのを、俺は知っていた。
2話 政府最高機関犯罪対策チームへようこそ を読んで頂き誠にありがとうございます。
レイズ本部に入った初心者の穂村 仁。彼のこれからが気になるところであります。
次話、3話 第一機動隊、それは最強を意味する は、1/28となります。
レイズ第一機動隊何なのか?さらに、仁たちの初任務が始まります。しかし...
どうぞ、次話以降もよろしくお願いします。