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NITE -傷だらけの翼-  作者: 刀太郎
第2章 現在編-悲劇の産物-
13/69

13話 恨みのブルース

 2030年 12月16日 


 冷え込んだ道場に俺たち3人はいた。


「来い」


 息を吐けば視界が白に染まり、手を動かせば悴んでいるのがわかる。

 目の前の少年が木刀(正式にはウッドブレード)を自身のナイトブレスから召喚する。


『リアライズ ウッドブレード』


 ナイトブレスから血の気のない電子音のような声が鳴り響く。

 剣を強く握りしめる音が聞こえる。


「行きます!」


 少年が床を蹴る。ものすごい勢いで突進してくる。


ー すばやさは姉弟揃って優秀と...


 だが、少年の攻撃のリーチ範囲内に入る前に俺は素早くその場から後退し、瞬時に木刀を召喚する。


『リアライズ ウッドブレード・セカンド』


 『セカンド』という言葉に驚いたのだろうか、少年は目を見開いた。その反動でか、少年の剣の剣尖が少しずれた。

 俺はその隙を逃さずして、右手に持った木刀で少年の剣を左に薙ぎ払う。


「カロン!!」


 彼が気付いた時には彼の手の中には剣はなく、一瞬にして少年の剣は遠くの位置に落ちていた。


「............」


 少年は黙りこくる。


「どうした?手も足も出なくて驚いてんのか?」


 まだ、少年は黙っている。だが、数秒の後、彼は口を開いた。


「いいえ、そうではないんです。先生の剣が速すぎてわかりませんでした。でも、だからこそ...今、すっごい興奮してます!こんな人に教えてもらえることに嬉しくて...」


 すごく嬉しい言葉でもあるが、


「おいおい。...なぁ、恵美。お前が教えた方がいいんじゃねぇのか?」


 そばで見ていた女性がふぅとため息をついて答える。


「昨日も言ったじゃないの。紅葉は強襲型がいいって言ってるの!」


ー おいおい、ブラコンか?


 こっちこそため息をつきたくなってしまうが、彼女きっての頼みだから仕方がない。

 だが、一つだけ、たとえ彼女の頼みでもさすがに反対するものがあった。


「まぁそれはいいとしてもさぁ...」


 道場の出入り口の方向を見る。扉の近くに一枚の張り紙があった。

 その張り紙にはこう書かれていた。


『相澤道場 開講! 指導:穂村 仁 誰でも募集!』


「あの張り紙は何だ!!俺は生徒を募集した覚えはねぇぞ!」


 張り紙を指差して叫ぶ。

 だが、2人とも表情1つ変えず淡々と話をし始める。


「そんなの道場なんだから、門下生を募集するに決まってるじゃない」


 上から目線で胸を大きく外らせ、腕を組む。

 紅葉も生徒のくせして威張る腐っている。

 この姉弟はやはり似ている。問題なところが。


「でも、こんなところに生徒なんて来ねぇぞ」


 遠慮がちに言ったが、実のところ嬉しい部分もある。

 2年前に守に教えてもらった強襲型がこんなところで生きるのだと思えたからだ。


ー 守にも教えてやりてぇぜ。お前の又弟子ができたってな。


 恵美と紅葉がポスターの見栄えに話の花を咲かせている。


「おうおう、俺の話は無視と...」


 やれやれと召喚した木剣をナイトブレスを操作して消す。


『デコンポーズ ウッドブレード・セカンド』


 両手をポケットに突っ込んで2人の元に向かう。


 その時、


「だったら、俺がなってやるよ。...お前の門下生になぁ」


 逆立った赤みを帯びた黒髪で尖った目をしたその男は腕を組んで入り口にいつの間にか立っていた。


「お前...」


 俺はそいつを知っていた。

 恵美と紅葉が口を開けてこちらとあちらを見返している。


「久しぶりだなぁ、人殺し...」


 紅葉がビクッと反応する。


「仁さんは人殺しじゃありません!」


 反論してくれた紅葉の目には曇りがなかった。


「誰だか知りませんが、仁さんは人を殺すような人じゃありません!」


 だが、男は一切怯むことはなかった。それどころか...


「お前に何がわかる?小僧」


 威圧するかのようなものの言い方が紅葉を圧倒する。


「それは...」


 紅葉が黙ったところで男はもう一度こちらを見た。


「なぁ、覚えてるだろ?俺を」


 覚えていないと言うと嘘になる。だが、彼に関する記憶はあまりいい記憶ではなかった。


「知らねぇな、お前みたいなチンピラは」


 あえて挑発したのには理由がある。


「んあぁ?今なんつった?もう一回言ってみろ」


 彼の琴線に触れたのか、組んでいた腕はいつしか降ろされ、握った拳の強さは増している。


「だから、知らねぇって言っただろ」


 ついに男は目を大きく開き、怒りに満ちた瞳で俺を睨んだ。


「今の言葉、蓮にも言えんのか!!!!!」


 叫ぶと同時に男は右手を横腹に持ってくると、腰をかがみ、地面を蹴ってものすごい勢いで俺に迫ってきた。

 身の危険を感じた俺はとっさに臨戦態勢を取り、攻撃に備えた。

 俺と彼との間が1メートルを切ったところで、彼の右手がまっすぐ俺の溝落ちを狙って伸ばされる。拳が俺に触れる瞬間に俺は紙一重でそれをかわした。

 だが、俺がかわすのをわかっていたかのように、彼の腕が右に迫ってきた。

 彼の右腕が俺の左脇腹に激突する。


「ぐふっ...」


 紙一重でかわしたからこそ、俺の体はいとも簡単に横に倒され、右に転げてしまった。


「仁!」


「仁さん!!!」


 二人の声が聞こえるが、それどころではなかった。


「余所見すんじゃねぇ!」


 続けて来た蹴りを必死で両手で受け止めたが、そのまま体は右へ右へと押されていった。


「どうした!そんなものか?」


 体を動かそうにも、体がずっと蹴りつけられているため、すぐには動かせない。

 ただ、このままやられ続けるわけにもいかなかった。


ー しかたない...


 俺は最後の蹴りを受け止めると、右肘で床を突いた。同時に彼の右足にがしっと摑みかかる。


「うっ... 」


 振り払おうと足を振り回すが、逆に俺はその反動で彼を押した。

 バランスを崩した彼は後ろに倒れた。

 転倒した彼に覆いかぶさる。


「なっ、何すんだぁ?」


 俺と彼はそのまま道場の奥に転がっていった。

 だが、力づくで俺を振りほどいた彼は素早く後ずさりした。

 すると、彼は右手のナイトブレスを素早くフリックする。


『リアライズ レッグアーマー』


 レッグアーマーとは格闘専用の足につける武器だ。

 彼の得意技は確か格闘だったはずだ。それも、キックが得意。

 彼はポケットに手を突っ込みながら縦横無尽に上段蹴りを次々繰り出してくる。

 俺は必死にそれを避けていく。


「くっそ...」


 俺も戦いをいち早く終わらせるべく、ある一つの武器を召喚する。


『リアライズ ハンドアーマー』


 ハンドアーマーも格闘専用の腕につける武器だ。

 俺の得意技は強襲型の片手剣技だが、中学高校では空手部だった。格闘はお手の物だった。

 だが、俺の武器を見た途端、彼は憤怒の顔の色を強くし、怒り狂ったように攻撃速度を上げた。


「その武器を、使うなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 強い蹴りが俺の腕に命中する。

 だが、命中したところに俺は意識を集中させる。左手に彼の体重が乗っていくのが感じられる。それに合わせ、俺も全集中力をそこに注ぎ込む。


ー バースト アフェクション。


 途端、俺の右腕が発光し、衝撃が走る。風が巻き起こり、今にも爆風で飛ばされそうだった。

 ごうごうと風の音がする。突風が道場に突き抜ける。恵美と紅葉が柱にしがみついて飛ばされないようにしている。


「なっ...!!」


 続けて心の中で叫ぶ。


ー リミット バースト。


 一定の制限を解除するスペルワード。俺は全力で叫ぶ。


「リミット・バースト!!!」


 激しい閃光に視界を奪われ、気づけば俺の視界に入って来たのは、倒れている彼と、横たわった俺の体だった。


ー 相打ちってところか...


 俺はゆっくりと起き上がると、ナイトブレスを見た。

 時計は10時30分だった。俺が紅葉に特訓をしていたのが10時ちょうどだったから、ものの数分しか気は失っていないようだった。

 目の前に横たわる彼の姿を見て思い出す。


 一年前、カルデァルシティで起こった事件。

 バーニングドラゴンに言われた三つの都市の内の一つがカルデァルシティだった。

 あの日は雨が降っていた。黒々とした曇天が空を埋め尽くしていた。

 俺は一人、怪しい人物を探しに薄暗い路地ばかりを詮索していた。


 その時だった...


13話 恨みのブルース を読んで頂きありがとうございます。


突然現れた謎の男。彼が仁に喧嘩を売る理由はなんなのか?はたまた、仁が彼を邪険にする理由は何なのか?

全ては1年前にカルデァルシティで起きたある事件だった。


次話、14話 Unlimited Sadness は明日(2/6) となります。


次話以降もよろしくお願いします。

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