11話 始まりの日-赤龍の覚醒-
「ズガガガガガガガガガガガガガガーーーーーーーン!!!!!!!」
気づくと俺は大量の瓦礫の中にいた。と言っても、運良く瓦礫は俺の手足胴体の上にはなかった。 俺はすぐにその場を抜け出した。
だが、俺の視界は瓦礫の土煙と辺り一面を覆う炎でぼやけ、今どんな状況で、他の人はどうしているのか、今自分は何をするべきなのか、全てが朦朧としていた。
そんな時、俺の右腕が微かに光り輝いた。臙脂色のその光はまるで自分の腕が燃えているようだった。
「う、うわぁぁ...」
手に纏わりつく炎の光を振り払おうと腕を振り回す。
すると、ふいにどこからか声が聞こえた。
「青年よ。おい、青年よ...」
「...誰、だ?」
どこからともなく聞こえる謎の声に俺は戸惑いながら答えた。
「第二実験棟に行け。レイズ本部北棟の近くにある地下通路から行ける。早くそこに行け」
力強くもどこか優しさのある声が俺だけに囁きかける。
「恵美は?他の奴らは?隊長は?紗弥加は?......どうなったんだよ」
なぜかそれに謎の声は答えなかった。
「なぁ...どうなんだよ!!」
ちりちりと炎が燃える音だけがし、ときどき砂が落ちてゆく音がした。
しばらくの沈黙の後、謎の声は答えた。
「第二実験室に行けば、そこで全てを教える」
第二実験室、そこに行くと決めた理由は二つあった。
一つ目は、謎の声のいう"全て"を知る為。二つ目は、レイズの内通者の残党を探る為だった。
「........................わかった。行く」
何故、第二実験棟なのかと言うと、そこが当時レイズにいた敵組織の内通者の情報交換場所と情報があったからだ。
それから俺は謎の声に支持されるがままに第二実験棟へ向かった。
俺は棟の中に入ると、すぐさま3階の研究室に足を運んだ。そこにあるメインサーバーからなら棟内の監視システムを秘密裏に操れたからだ。
しかし、呆気なく研究室は荒らされていて、メインサーバーも破壊されていた。
やむなく研究室を後にした俺は、次に第3ホールに足を運んだ。
だが、第3ホールに入った俺に待っていたのは異様な光景だった。
俺はホールの中心に赤く燃え盛る浮遊体を見つけたのだ。
俺はそっと近づくとその炎の中を確認した。
ナイトブレスだった。赤い色のナイトブレス。見たこともないブレスだった。
それに見入っていた俺に何かが反応したのか、赤いナイトブレスが急に光りだした。
「な、なんだ?この光は?!」
眩しい光が俺の視界を閃光で包み込んだ。
気付いたら俺は白い部屋みたいなところにいた。
「目を覚ましたか。青年」
突然、どこからともなく声が聞こえてきた。さっきまで俺を誘導していた声だった。驚きのあまり、声が震える。
「こ、ここは。ど、どこだ?」
俺の声を聞いたのか謎の声は言葉を続けた。
「ここは私の中だ。我が名は、バーニングドラゴン。豪炎の灼熱龍と呼ばれている。青年、名はなんと言う」
それを聞いてとっさに「穂村 仁」と答える。
「そうか。仁というのか」
なんのことかさっぱりわからないまま、俺はそのバーニングドラゴンというやつの声に耳を傾けた。何にせよ、この謎の声の主がこの事故に関わっていることは確かなようだった。
「では、今の状況を説明しよう。先ほどの爆発はある組織の仕業だった。彼らの組織の名はわかっていない。とにかく、私は今すぐにでもこの場から立ち去り、奴らを追わなければならない。君にしてもらいたのは、私をここから出すことだ。そして、願わくば、私と契約してほしい。いや、正確に言うと、私の意志を継いでほしいのだ」
謎の声の言葉の意図するものを推察するに値する想像力は俺にはなかった。着々と進む。
「そのぉ...。お前だけでは無理なのか?」
勿論、俺もその犯人を探しにここまで来たのだ。手伝わないとは言い難かった。しかし、この謎の声の言うことも、すぐには信じられなかった。
「残念だが、私はこの場から動くとはできない。そこで、君の持っているナイトブレスに移動したい。しかし、私は他のブレスにコンバートすることで、自己の意識を封印してしまう。開放する方法はまだ知らない」
謎の声は俺の不安や疑問を無視するかのように話を進める。
「実は私意外に4体のドラゴンがいる。私はバーニングドラゴン。そして、残るのは、神速の氷結龍『ブリザードドラゴン』怒号の疾風龍『ハリケーンドラゴン」光剣の機械龍『シャイニングドラゴン』。そして、問題なのは次の最後の龍、暗黒の黒煙龍『ダークドラゴン』。彼は、いや彼女は我々5体の龍を裏切り、悪の組織側についたと思われる。彼女の裏切りにより、我々はこのような姿になってしまったのだ。だが、私は不幸中の幸い、この爆発でメインサーバーが破壊されて、一時的に解放されたのだ。今しかない。穂村 仁といったな。頼む、私に協力してほしい」
俺は本当に何がなんだかわからなくなった。
しかし、俺にはなぜかそれが自分の使命だと感じた。
もし、バーニングドラゴンという謎の声の言う通りにし、もし内通者の居場所がわかれば、それは俺の最終目標を達成するすることになるからだ。
俺は、二人の手向けにも、あいつを見つけ出し、倒さなければならない。その理由で十分だった。
「...わかった。その願い、受け入れてやる」
つばを飲む。
受け入れるとは一体どういうことなのか。俺にはまだわからないことばかりだった。
「いざ、陣乗に参る。」
謎の声が白い部屋に響き渡る。
すると、白い空間は一気に赤く崩れ、その破片は俺のブレスの中に吸収されていった。
「よくぞ決意した。奴らの潜伏先としてあげられているのは、エキスポシティ、カルデァルシティ、そして...ホームランドシティ」
赤と白の閃光がホール内を埋め尽くす。
ー 身体中が熱い。これが灼熱の龍の力なのか?
体に熱の塊が鎖のように巻きつき、耳には熱風が吹き荒れる音が聞こえる。肌には熱い風が当たり、熱い感触が脳に電気信号として送信される。
爆音と爆発と炎に包まれ、あの時、俺は新しい俺に生まれ変わった。
いいや、あの時、昔の俺は死んだのだ。炎に焼かれ、殻をぶち壊した俺の翼は焼け切られた。
もう、俺には守るものなどない。全てを失い、全ての責任を押し付けられ、傷だらけの翼はもう飛ぶことを忘れた。
謎の声の主、バーニングドラゴンの言ったとおりの場所に恵美を探しに行った時。彼女は既にそこにはいなかった。正確に言えば、彼女は死んでいたのだ。
そして、爆弾についていた通信機の発信源は北棟の地下1階にあった。
全責任は、当時監視カメラに映っていた、第一機動隊隊員、炎の覚醒者、穂村 仁。俺になった。
だから、あの日、もう一度彼女に出会えた時、俺の思考回路は停止し、ただただ大粒の涙がこぼれた。
「生きててくれて、ありがとな」
その言葉だけがあの日言える唯一の言葉だった。
俺の翼はまだなくなっていないのだと、確信できたからだった。
時の運命の歯車が回り始めた。
→『11話 始まりの日-Part3-』に続く
11話 始まりの日-赤龍の覚醒- を読んで頂きありがとうございます。
なぜ彼女は生き返ったのか?バーニングドラゴンとは一体何者なのか?それはまだ明かされません。
ついに物語が始まりだしました。『NITE-傷だらけの翼-』はここからが本当の本編です。みなさんお楽しみにしていてください。
次話、12話 始まりの日-The beginning- は明日(2/5)となります。
次話以降もよろしくお願いします。




