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NITE -傷だらけの翼-  作者: 刀太郎
第2章 現在編-悲劇の産物-
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10話 始まりの日-再会するあの時の笑顔-

 小鳥がさえずり、街の騒がしさが一様に消えゆく。いつか聞いた子供の声が微かに聞こえる。銀色の朝の陽の光が瞼の裏まで照らし出す。

 力を込めて頑丈に閉じられた瞼をこじ開けると、そこにはいつもと変わらない景色があった。


 日本で2番目に栄えていると言われる街、ホームランドシティの一角にある月見荘に俺、穂村 仁は住んでいる。

 レイズ解散から1年。気だるい日々を送っていた俺についに変化が起きた。


 不意に玄関の方を向く。気配がした。人の気配だ。


「まさか!もう家賃の取り立てかよ?」


 震えた小声で俺は玄関から目を背けるとそっと忍び足で寝床へ向かおうとした。


「あのぉ、すみません。ここ、穂村 仁さんのお宅ですか?」


 扉の向こうからは若い少年の声が聞こえた。


 ー なんだぁ?取り立てじゃないのか?


 内側へ向いた体を玄関の方へ向けると、俺はまた恐る恐る扉の方へ向かった。

 風が所々吹き抜けるボロボロの扉を開ける。扉の木が軋む音が聞こえる。


 扉から溢れた光の中に1人の若者が立っていた。少年はすらっとした立ちづまいで、どこか凛とした姿をしていた。だが、その一方で頼りない気迫を持っているように思えた。

 少年はくりっとした目で俺を少し見上げた。少し俺より背が低い。黒髪に真っ黒過ぎる瞳。黒のジャケットに身を包んだ少年は黒がお似合いな雰囲気を醸し出していた。


「なんだぁお前。俺に何のようだ?」


 起きたばかりで上手く発声できなかったが、そんなことはどうでもいい。

 それよりも黒の少年は何だかモジモジした様子で言葉を発した。


「あ、あの...」


 自信の無さげな少年の声に俺はため息をまたつくと、


「んだよ。用があんならさっさと言えよ。こちとらな、今さっき起きたばっかなんだ。目覚まし時計もなってない内にだぞ。小鳥のさえずりと朝の陽の光で起きちまったんだぞ。なんだよ、どっかの小説じゃないんだから。」


 間髪なく誰かもしれない相手に向かって愚痴を吐いた。


 「しまった、言い過ぎたか?」とそろっと少年を見る。

 だが、余計に口を閉じてしまったかのような様子の少年は、唇をビクビクさせていたと思うと、急に大きな声で叫んだ。


「お、俺に剣術を教えて下さい!」


 俺は頭が灰色になった。なんかもうよくわからない状況という意味だ。


「はぁ?今なんて、」


「俺に剣術を教えてほしいんです!」


 俺の言葉を遮り少年は強く言った。


「お願いします!」


 俺は少し戸惑った。


「あ、あのさぁ。俺、そんな剣術なんて教えてないし。そ、そういうのはちょっと...」


 ここは引いてもらおう。見ず知らずの他人に剣術なんてそんな...やだよ。普通に緊張するし。


「俺、姉ちゃんに聞いてあなたを探していたんです。あなたがレイズに所属していた強い人だと。」


 俺はいろいろ不思議に思った。そんな奴がなんで俺なんかを...。


「へぇ、そっかぁ。お前どこ住んでんの?」


 怪しい。それが俺が思った最初の感情だ。俺を知っていて、尚且つ俺の居場所まで知っていて、それなのに実の弟をそんなところに。


「えーっと、ホームランドシティC地区6番街3-50です。」


「ふぅん。」


 大丈夫だ。まだ怪しまれていない。んじゃあお次は、


「名前は何て言うんだ?」


 俺は知りたかった。誰がこいつの姉なのか。純粋に、ただ純粋に。


「相澤 紅葉って言います。相澤紅葉。」


ー 相澤 ー


 その言葉に俺は驚愕した。


 俺は無意識に相澤を名乗る少年をどけて玄関を抜けると、慌てるようにさっき知った場所へ走った。

 急に汗が噴き出し、呼吸が苦しくなった。目の前が回りださんばかりの混乱に落ちた俺は他には何も考えずただただ走った。

 俺が向かった先は、ホームランドシティC地区6番街3-50だった。


 久しぶりにこんなに走る。自分でも驚くような吐息を吐きながら走り続ける。

 特に場所がはっきりわかるわけではなかった。だが、走り出せずにはいられなかった。

 俺は何で今走ってんだ?まぁそんなこと考えればすぐにわかるんだが、今は整理がつかない。頭ん中に無数の情報、記憶が入ってくる。だが、それと同時に情報全てが煙のように消えてゆく。まるで、そんなことは忘れろという命令を背くように。

 俺はこの時代にしては珍しい瓦屋根の塀があるところに辿り着く。その塀から朝日が漏れる。再び俺の足が走り出す。


ー この向こうに何かがある。


 塀が途切れているところを見つける。


ー この向こうに、俺が望んでいたものがある、ハズ。


 塀が途切れたところには当然のように門がある。大きな門の奥には広い庭がある。そして、その奥には、


ー 道場がある。


 息が切れて変な声が出る。白い吐息が現れては消え、現れては消えていく。


 朝日が照らし出す道場の行動の奥に、一人まっすぐ立つ人が見えた。俺はその人に声をかけようとした。

 後ろ姿や凜とした佇まい、黒い長髪がふわりと揺れる。

 彼女はこちらへ振り向いてかすれた声で俺に向かって涙ながらに言った。


「あれから2年。やっと…会えたね」

 

 あの日、俺は彼女、相澤 恵美と1年ぶりの再会を果たした。


 なぜ1年も会っていなかったのか、その理由は2029年1月16日にあった。

 一年前の1月16日、超高層ビルのレイズ本部は何者かによる大量の小型爆弾と一つの大型爆弾により、全棟倒壊。死者多数の甚大な被害を出した。

 相澤藤五郎の執務室や待機室のある東棟はおろか、食堂のある西棟、隊員の個人部屋のある南棟、訓練場やCODがある北棟まで、全ての棟はほぼ全壊状態。

 行方不明者は500人以上に登った。相澤恵美の父親、相澤藤五郎とその秘書である桐山もその内に入っていた。

 使用された小型爆弾、大型爆弾はレイズの地下で管理されていた機動隊が使う迎撃用爆弾だった。

 上級管理局の幹部を多数失ったレイズ本部は統率を失い、各地に配置されたレイズ地方局の隊員は混乱を極めた。

 国から与えられた予算は復興に使われ、死んだ隊員及びその日爆発に巻き込まれた死者500人以上の葬儀等でレイズは1週間で解散となった。


 1月16日。あの日、空は黄金色に染まり、雲から差し込む光は周りの工場だけを照らし、正義の巨塔だけが異様に闇に包まれていた。


 俺はその日、レイズ本部の地下1階にいた。先月に起きた事件について調べたいことがあったからだ。

 しかし、そこで俺は不穏な影を見かけた。それが、悪夢の始まりでもあった。



『NITE -傷だらけの翼- 現在編-悲劇の産物-』 始動

10話 始まりの日-再会するあの時の笑顔- を読んで頂きありがとうございます。


1話の最初と最後を再度読んで頂きましたが、レイズ解散の原因になった2029年1月16日については11話で語られます。


次話、11話 始まりの日-赤龍の覚醒- は明日(2/4)となります。


次話以降もよろしくお願いします。

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