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悩める人

作者: ぜらにうむ

彼が笑った顔を、私は今でも思い出せない。



私が彼をどうして好きになったのか?




明確な理由がわかれば次にいかす事も出来るのに、こればっかりは本当に。




自分の事だが、わからないのだ。




はじめに私を好きになってくれたのは、彼の方だ。




それは間違いない。



なのに、いつからか私達の歯車は狂い始めてしまった。




恋は盲目というもので、勘の鋭い私の勘は“恋”や“愛”だなんていうまるで夢の世界のようにも思えるものに、いともたやすくつぶされた。



体内に砂糖の袋を大量に放り込まれたかのように、私はぶくぶくと幸せ太りをし、そしてそんな私を彼は可愛いと愛でた。



私が何をしても、悩んでも、彼は私に自信と勇気と愛情を与え、しかし彼には何も響いていなかったようにも思う。




彼が私の話を聞いてくれるからといって、彼はいつも深海の底にいるように、とても暗い狭い場所に閉じ込められているかのように窮屈な人だった。




人一倍自由を求めているくせに、いつだって自分で自分の首をしめ、苦しめていた。




そしてそれに自身で気が付きながらも、どうにも出来ないともがき苦しんでいた。



私はそんな事ないよ、なんて彼をさらに追い詰めていたのかもしれない。



だって、私は彼に何も求めていなかった。



ただ傍に居て、のびのびとしていてくれさえすれば。




期待されたいだとか、そんな事を求める人じゃない事も知っていた。




彼は、一度も私を見ていなかった事に私ははじめから気が付いていたのだ。




しかし、認めたくなかったし、彼もそれに気が付かずに私の傍に居てくれたらいいな、そんな献身的な気持ちにまでなっていた。




自分をダメにする行為だとわかっていた。



しかし、彼と居る事は私にとっての幸福以外の何者でもない。



彼が社会的に見ればとんでもなくダメな人だという事を、私は理解した上で、それでも夢中になってしまった。




色々な心配はあった。



将来の事、彼の事。



彼は、私に夢中だった。

それは間違いではない。


私も彼に夢中だった。


逃れられない事実だ。



いつからだろう?




“私”よりも彼の“闇”が強くなってしまったのは。




私の存在は彼にとっての現実逃避だった。



そして、そんな私は“彼”という最大の凶器を手にした事でどんどん光が増していった。




彼の中で、闇が肥大していく。

彼の敵は私ではなく、彼だ。

私が何か口に出したわけではない。

私が何か求めたわけでもない。




彼はいつからか、私を眩しがるようになった。

目を細め、いとおしいと見つめてくれていた彼は、目を瞑ってしまった。




…僕なんかじゃ、彼女を幸せに出来ない。言葉で直接言われたわけではないが、彼はきっとそう思っていたのだと思う。




いつからか、彼は私を避けるようになった。




私が特別何かをしたわけではない。




私を愛する気持ちに嘘はない。




ただ、屈託なく笑う私の笑顔や言葉は彼をどんどん傷付けていった。




彼の存在で救われる私と、そんな私をつくったのは彼なのに、そんな私に傷付き苦しむ彼。




とうとう彼は、私の前から姿を消した。



私は嘆き、悲しんだが、後悔はしなかった。




私に出来る全ての事をしてきたからだ。



これでダメになるようなら、仕方ないとさえ思っていた。




彼は元気だろうか?



彼の笑顔が今でも思い出せない。


笑っているのに、どこか泣いているような、憂いをおびた彼の横顔は今でも鮮明に思い出す事が出来るのに。

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