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黒の魔染料使い  作者: ソラニン
1章 学年末テスト編
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第四話

合図と同時に四人全員が素面を装着する。


注目すべきは、初めから素面に別々の色が染められている事だ。

「鏡華、試合開始前に能力者全員がああやって最初に使う色をあらかじめ染めてるけど、どうしてなんだ?」

「魔染料決闘は、例えるなら後出しじゃんけんみたいな物です。能力を打ち消すというルール上、どうしても後に魔染料を染めた方が有利になります。相手の色を見てから、それに相性の良い色を染めればいいんですからね。それを防ぐ為に、ああして最初の色を全て染めてからの開始になります」

「ふーん、公平を期す為か」

「それもありますし、試合の面白味を高める為でもありますね。最初の色を打ち消す為に早めに自分の色を使って次の色に変えるか、それとも温存して弱点の色が出た時に一発逆転を狙うか、ゲームスピードと戦略を左右する大事な要素です」

また人差し指を立てている。

教師ごっこが気に入ったようだ。


のっぽの女子Aが銃をかたどった右手の人差し指に青色の魔方陣を展開し、細く鋭い水流をメガネの男子Aに向けて発射する。それはまるで青いレーザーの様に直進していく。


しかし男子Aはそれを避けると、手のひらに黄色の魔方陣を出現させる。

ぐぐっと腕を後ろに構え、そして勢いよく女子Aに向かって突き出す。

すると彼の手の平から稲妻が発生し、ガクガクと電気特有の歪な起動を描きながら女子Aへと向かっていく。

女子Aはとっさの判断で残った青を全て使い切って稲妻に水流を当てるが、稲妻に接触した水は瞬時に霧のように消えてしまった。


稲妻はそのまま女子Aへと向かっていき、悲鳴をあげる暇も無く直撃する。

彼女の体はリンク外の方へと吹き飛び、バトルリンクを囲む様に存在する【能力の被害が外に出ない為の見えない壁】――エンド.ライン.バリア)に叩きつけられて地面に倒れ伏した。


観客が一様に息を飲む静寂の中を、相方のふくよかな体格の女子Bが飛んでいった彼女の名を叫ぶ。

「お、おいおい! あの子大丈夫かよ!?」

発生した稲妻の電圧はおよそ十万ボルトと聞く。

人体にそんな物が直撃したら、天文学的な奇跡でも起きない限り、まず絶命する。


だが鏡華は特に驚いた様子も無く、人差し指を立てて解説する。

「大丈夫です。リンク内で使われた能力は人体へのダメージを軽減するプロテクトが自動的にかかってます。稲妻だってへっちゃらです!」

「でもぶっ飛ばされて壁に叩きつけられた時のダメージはどうなるんだよ?」

「……大丈夫でしょうか?」

自信を持ってピンと伸びていた人差し指が力無く曲がる。


死にはしないが痛い目にはあう。

魔染料決闘とはそういう物だ。

「こりゃあ染料学を教える学校が少ない訳だわな……」

怪我人が大勢出るかもしれない様な科目はそう簡単に行える筈もない。

この学校が如何に特殊であるかが分かる一面だ。


突然、場内が歓声に湧く。

なんと倒れていた女子Aは立ち上がり、よろよろとバトルリンクへと戻っていく。

なんてガッツのある子だろう。


女子Aは危うげな手つきで試験管を取り出し、次の色を染め始める。

「次は赤を使うのか。まあ相手の黄色はまだ残ってるし、妥当な判断だな」

女子Aが赤の魔方陣を右手に展開。

そしてそこから小さな火球が複数出現し、男子Aへと発射されて接近する。


黄色を残している彼では相性から言って反撃は無駄だろう。

電撃を出しても何も出来ずに打ち消されて終わりだ。


しかし展開は俺たちの予想を凌駕する。

背の小さい男子BがAの前に立ちはだかり、右手に赤の魔方陣を出現させる。

「おお、ナイスフォロー! 弱点を突かれた所を別の色でカバーしやがった!」


魔法陣が出現した右手に、二メートル強の火柱が立ち昇る。

火柱は先に向かって細くなっていて、その様は火で出来た槍のようだ。


火の槍を構えると、接近する火球を素早く、そして精確に打ち落としていく。

棒術の様に槍を回して前方に円を作ったり、目にも止まらぬ高速の突きを連射したりと、まるで中国舞踊の様だ。

鮮やかな動きは見た目的にも面白い。


全てを撃ち落とした男子Bは、してやったりといった態度をとる。そこだけはちょっとウザい。

やられた女子Aも素面の下で、悔しさに顔を歪めているだろう事だろう。

そう思われた。


ところが彼女は、ニヤリと笑みを浮かべた。

勝ちを確信したような、そんな笑みを。


「あ、あれは!?」


男子Bに急速で接近する存在があった。女子Bだ。

ふくよかな体からは想像もつかない程の速度で男子Bに急接近する。

彼女はずっと、最初の青を温存していた。

全てはこの時の為に。

 

魔方陣は右手と背中に出現している。右手には水流が一メートル程に固定されて剣を形作り、背中からは勢いよく水流が噴射されている。

それがジェット噴射のバックパックの役割を果たしており、この速度を実現しているのだ。


剣を構えた巨体が低空で急速接近してくるなど、男子二人には想像もしてなかっただろう。もちろん俺と鏡華もだ。


驚いた男子Bは慌てて槍を構えるが、それを女子Bは一閃。火の槍は煙のように消えてしまった

そして恐怖におののいた男子Bへ、女子Bはトドメの一撃を振り下ろす。

水の能力を受けた男子Bの素面からはスッと赤が消えて無くなった。

能力の直撃を受けると能力の発動の有無に関わらず染めていた色が消えるのだ。


すぐに女子Bは男子Aの反撃を警戒して距離をとる。

まるで忍者みたいな身のこなしに、場内がワッと歓声に包まれる。


「これが……魔染料決闘!」


能力を打ち消し打ち消され、ちょっと油断すれば状況が一変している。

手に汗握り、一瞬の興奮に目が離せない。

鏡華も気持ちの昂ぶりを冷ますかの様に深呼吸をする。

「ふぅ……一戦目からこの白熱っぷりとは、驚きです」

「ああ、俺もだ! 他人の戦ってる所を見るのも楽しいな。ワクワクするぜ」


1年の間は座学が殆どで、実際に魔染料決闘をしたのは5回にも満たない。

だからこそテレビやネット以外で実際に見る事の出来るこの機会は興奮を止められない。


「ところで鏡華、今さっき火の槍で火球に対抗していたよな。同色同士のぶつかり合いだと、どうなるんだ?」

「先ほどの様な場合、ぶつかり合う双方の能力の威力や耐久力といった性質によって勝敗が決まるので、完全な実力勝負となります。火球などの遠距離攻撃は基本的に威力も耐久力も弱いので、武器生成などの近接系に当たっても負けてしまいます。もしもそれを見越していたとしたら、火球は相方の近接攻撃から目を逸らす為の牽制だったのかもしれませんね」

「なる程な。相性で負けてても、使い方次第で次に繋げる事ができるのか……」


「それよりも、たっくん!」

突然鏡華の人差し指が俺の鼻先に突きつけられる。

「同色同士のぶつかり合いは相性において基礎中の基礎ですよ!? 先ほどの筆記試験、大丈夫なんですか?」

「だ、大丈夫だって。同色同士の問題は出てこなかっただろ」

「それはそうですけれど……これは春休み中もみっちり復習するべきですね」

「えぇ!? そ、それは勘弁してくれ!」

「いいえ、私はたっくんのご両親からお世話を頼まれているんです。春休みは毎日たっくんの家に行って、勉強を見てあげましょう」

「た、頼む! 後生だから……」

「だ・め・で・す!」

合わせた両手に額を擦りつけても、鏡華はノーとばかりに首を横に振る。

桜色の春休みが、今から灰色の勉強漬け決定とは。

何ともやる気の失せる未来だ。

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