第三話
俺達の高校--染料館学院は、染料学を専門的に学べる日本最大級の高校だ。
町の郊外にサッカー場五十個分もの敷地を持ったこの学校は、各学年7クラスを内包したクラス棟、職員室や音楽室等の専用教室や広い階段教室のある職員棟、この二つの建物が敷地の中心に並列して建てられている。その周囲にプールや校庭・体育館等の主要施設の他、魔染料を使って戦うスポーツ--魔染料決闘を行う専用アリーナが用意されている。
染料学の実技試験はこの専用アリーナで行われる。
午前中の筆記試験を終え、今は昼休みを終えて5限目。
開閉式天井が開かれて傾きかけた早春の陽射しが射し込むアリーナは、周囲を50段近くの観客席が囲み、その中心に一面コンクリートで整地されたフロアが広がっている。
更にそのフロアにはサッカーコート半面分もの大きな長方形のライン――魔染料決闘のバトルリンクが三面分用意されている。
だが今はそのバトルリンクも、フロアに集められた一年生全員の足元に隠れて見えない。
生徒たちはそれぞれ試験疲れに肩を落としながらも、前方の台に立つ体育会系らしい大柄な体格の教師へ視線を集中している。
「これから、染料学の実技試験を執り行う!」
マイク無しでも全員に聞こえるのではないかという程の大声に、前に並んでいる生徒が耳を塞いでるのが見える。
「私たち、列の後ろの方で良かったですね……」
俺の一つ後ろに並んでいる鏡華が耳打ちしてくる。
「全くだ……ありゃしばらく耳に響いて試験に支障が出るんじゃないか?」
前方の生徒の阿鼻叫喚など目に入らないのか、教師は声量を変えずに説明を続ける。
「改めて説明するが、染料学の実技試験は魔染料決闘だ。二人一組のチームに分かれ、こちらの指定したチームと魔染料を用いて戦ってもらう」
補足すると、魔染料での戦いとは能力者同士での能力のぶつかり合いである。
先程使ってみせた水や電気などの色ごとの特性を能力として操り、それを相手の能力にぶつけて力を弱め、打ち消す事で勝敗を決する。
そこには明確な相性という物が存在し、水を発生させる青は火を起こす赤を打ち消し、赤は電気を起こす黄色を消して、黄色は青を消し去る。この赤青黄色の三つの基本色は三竦みの関係となっている。
「勝敗は直接攻撃により相手を戦闘不能にする、もしくは最後まで魔染料が残っている方を勝利とする。それではさっそく一戦目を執り行う!」
大音響から解放された生徒たちは足早にフロアを初戦の生徒たちに明け渡す。
俺と鏡華は観客席の最前列からバトルリンクの一つに視線を集中する。
手前側には別のクラスの女子が二人(のっぽの方を女子A、ふくよかな方を女子Bと名付ける)と、それに向かい合う様に反対側に男子二人(メガネを掛けてる方を男子A、背の小さい方を男子B)が立っている。
スポーツとしての公式試合になると魔染料決闘に男女の差でクラスを分けられるのだが、これはあくまでも試験。
どれだけ魔染料を上手に使ったが判断されるので、男女混合で組み合わされる。
そして、バトルリンクの四人は身構える。
第一試合が今、始まろうとしていた。
「決闘開始!」
審判係りの教師が手刀を高々と挙げ、魔染料決闘が開始した。