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見上げた空は、ゲリラ豪雨でした。  作者: ぺんぎん村長
3/3

日本は有り金を奪っていくスタイル

実際に、集団で現れたら警備兵呼ぶよね。

ゲームだから、という油断を狙ってみた。

「ダイブ。」


体が吸い込まれていくような感覚。焦燥感に似た気持ちで、早く、早く、と心待ちにしてしまう。視界いっぱいに映るのは電脳空間、時折、中空を駆ける光は情報のやり取りでもしているのだろう。そんな空間が塗り替えられていく。自らが立っている場所から広がっていき、床を、壁を、天井を、白一色で造り上げる。


「私はここに来たことがある、なんて言ったりして。」


シリアスな雰囲気を出しているわけではないが、再びこの光景を見ると何故か帰ってきた、なんて考えたりする。起動時の最初しか見られないからだと思うが。


チリリン。呼び鈴の音がする、どうやら準備ができたようだ。白い部屋の真ん中、台座の上にアジの塩焼きが鎮座している。手前には箸と緑茶。これはサーバーによって違いがあるが、大体は食べられるものが出てくる。シュールストレミング、くさや、ホンオフェが9割の確率で出てくるらしいが、何もないほうが稀だ。個人的な感想だが、アジの塩焼きはそこそこの美味しさだと思う。脂と塩が絡み合い、アジの身の食感と一緒に味わえるのはとても気分がいい。米はない、食べたければ探せと言いたいのだろう。ご丁寧なことにメッセージカードが

置いてある。


『ご飯は別途用意してください。』


運営は根性が捻じ曲がっているのだろう、私は塩焼きには米が欲しくなる。わざわざ用意してくださいなんて書いてあるくらいだ、どこかにあるのだろう。ああ、塩焼きを食べ終えてしまった。


「ズズズッ。……はぁ、ごちそうさまでした。」


『お粗末さまでした。では、この世界へようこそ!!案内を務めますは、このボク、ドットちゃんデス!!』


「……ああ。よろしく、ドットちゃん。」


忘れていた。そういえばドットちゃんと言う名前だった、本当に懐かしい。


『はいはーい、じゃあβを引き継ぐ?』


「もちろん。」


『ではでは、案内いらないね猫嬢。うん、行ってらっしゃい。』


「うん、行ってきます。」





『称号、最初に大地に降り立つ。』

『称号、再来の小さな浮雲。』

『称号、大厄災の寵愛』


「称号はいいけど、なんか納得いかないな。」


最初に大地に降り立つ

成長補正、大。


再来の小さな浮雲

天候魔術の再習得。天候魔術のみMP消費半減。


大厄災の寵愛

天候魔術の自身への地形ダメージ無効。天候魔術の固定ダメージ化。ダメージ量、半減。天候魔術の状態異常、大。


「……ん?んん?……ああ、引き継ぎだからか。称号にまとめたということか。」


ゲームの始まりというと、大体が城、草原、ぼろい町というイメージを抱く。もちろん偏見だ。また、ゲームはお約束と言うものを我が身を差し出しても取りに行く被虐じみた選択を選ばせて来る。もちろん偏見だ。そして彼女、猫嬢がいる場所は街の外、所謂戦闘フィールドと呼ばれる場所。もちろん平原だ。


「メッセージ。」


ゲームを円滑に進める最低限のツール、そのうちの一つにメッセージがある。名前通りに連絡する、連絡を受け取る時に使われるのもので、今現在フィールドにいることについて連絡されていないか確認するために起動する。


『はろー?ドットちゃんだよ?βテスターの皆に連絡です。テスターだった皆は最初だけのハンディキャップとして、街の外からのスタートとなります。装備やお金といったものは引き継ぎした時に初期装備として修正を受けた上でストレージに入れているので、ある意味ではスタートダッシュかもしれません。しかし、街に入らずにデスペナルティを受けるとアイテム全損、一定時間のステータス半減で街に飛ばされるので気を付けましょう。』



このゲームは、いや日本サーバーは拠点として始まりの街を使うという発想を、悉く邪魔してくるスタイルでゲームを始めて感動なんてしていると、


「そこの不審者ども!こっちへこい!」


なんて言われる。街の広場に集団転移してくる連中は不審者極まりないという理由で、β時代は全員が前科一犯の判定をくらっていた。日本サーバーの責任者曰く、


「あなたは、突然家に上がり込んで来た、凶器持ちの赤の他人と仲良くできます?」


つまり、始まりの街の住人から見て、プレイヤーは豚箱へ出荷したくなるような輩なのだ。もうブーイングの嵐である、抗議殺到である。しかも娑婆の空気を吸うために、有り金を全て毟り取られなければならないのだ。ここで初めてのクエストが出されるのだが、



『金なし、職なし、住む場所なし!!


冒険者ギルドへ登録して、身分証を手に入れよう。


報酬

ギルドの依頼を受けることができます。

職業を持つことができるようになります。

始まりの街を拠点として使用できます。』



ゲームだからといって油断は禁物、日本プレイヤーが初めに学んだことだった。こうして日本クレイジーが形成されていくようになる。そんなβ時代があった日本のβプレイヤーは、むしろ街中スタートでなかったことに大いに感謝した。歓喜した。ハッハー!俺たちの苦労をお前たちも味わえ!!なんて叫びながら、街へ入ろうとするβプレイヤー。


「ああ、すまない旅人たちよ。今現在、この街は拡張工事をしていてな。臨時通行税を課しているのだ、すまないな。」


声をかける門番、絶望した顔をするβプレイヤー、発生するクエスト。



『安心し、気を抜くあなた、無一文。


冒険者ギルドへ登録して、身分証を手に入れよう。


報酬

油断しない心構え』



ああ、日本クレイジー。ここに慈悲はない。


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