87話
噂では僕はオリエンスさんの領地を壊滅に追い込んだ緑の災厄の悪魔となっているらしい。
それで、この子供は無理やり働かせられている父親を助けるために僕に石を投げてやっつけようとしているらしい。
「アイクさん、この噂ってもう街中に?」
「子供が知っているぐらいですから、多分もう街中に広がっているかと……。」
なんでそうなるんだー。
確かにオリエンスさんの領地の1/3は緑で飲み込んでしまったがちゃんと元に戻したのに。
「とりあえず、君のお父さんを無理やり働かしたり、人質には取っていないよ。何なら今日は君は上がっていいよ」
と子供の父親の衛士さんに声をかける。
「いえ、大丈夫です。すぐに子供を家に帰しますので」
と、なんだか衛士さんは子供に言い聞かしているみたいだ。
父親のために勇敢にも僕に挑んだ勇気はすごいと思おう。
ただ、挑まれた僕の精神的ダメ-ジは大きい。
僕はふと、気になって他の衛士さんにも聞いてみた。
「もしかして、他の衛士さん達も無理やり命令されて仕方なくついてきてます?」
「そ、そんなことはありません、我々は、しっかりと領主パイモン様に言われてこの任務に就いていますので」
この人今、かなり焦って答えたな。
パイモンさんなんて答えて、この人達に命令を下したのだろうか?
取り合えずは、今日はここまでにして、も引き上げよう。
なんか疲れた。
夕食時、パイモンさんと一緒に食事を取る。
「パイモンさん、緑の悪魔って知ってます?」
「お、オリエンスがユキさんに着けた名前ですよね。僕はそんな事思ってませんよ!むしろ緑の英雄ですよ、この魔界に緑を復活させようとしてくれているんですから。流石、世界樹の化身ですよね!」
と早口でいいっ切った。
噂の出どころはどうやらパイモンさんみたいだな。
大方、あの手紙にオリエンスさんが大袈裟に書いたに違いない。
「たぶん、手紙にいろいろ書いてあったのでしょうが、オリエンスさんも大袈裟に書いたんですよ」
「もしかして、街で何かありましたか?」
「なんでも僕が、オリエンスさんの領地を壊滅させて、衛士さん達を無理やり人質に取って働かせていると子供に石を投げられました。はは、子供って何でも鵜呑みにするから大変ですよね。あっ、もちろん子供には何もしてませんからね」
「えっ!それは、誠に申し訳ございませんでした!すぐに家族もろとも謝罪に来させますので」
「いえ、そこまでは、いいいですよ。ちゃんとその場で謝って貰いましたから」
「そうですか、ユキさんの寛大な心に感謝します(よかったぁ、ユキさんを怒らせてなくて。全く何処のどいつだよ、寿命が縮んだわ)」
「それで、明日からなんですが、僕の護衛のアイク達には鍛錬に入ってもらうので、明日からは、僕と街の衛士さん達だけで緑化に移行したいのですがかまいませんか」
「鍛錬ですか?」
「はい、そうです。僕が生み出したウッドゴーレム達とアイク達の鍛錬を行いたいのです。良ければ、パイモンさんもご覧になりますか?」
「ぇぇえええ!ウッドゴーレムを生み出して、ユキさんが離れても大丈夫なんですか?そこは、明日は休みにして一緒に鍛錬を見学しましょうよ」
「何度もしているので、僕が居なくても大丈夫ですよ。ウッドゴーレムにも非殺傷を命じておきますので」
こうして、次の日からはアイク達とは別行動をとることになった。
僕の方は順調に緑化が進み、魔界式エコプラントが二日間で整いつつあった。
☆★☆
ユキが緑化活動をしている頃。
ウッドゴーレムの模擬戦をパイモンは見る事にしていた。
ユキの力の一端を確かめる為にも必要だと思っていたからだ。
ユキが生み出したウッドゴーレムは1体だけ。
通常のウッドゴーレムなら、パイモンにとって脅威にはならない。
それは、アイク達、護衛の部隊も同じだ。
なのにアイク達護衛の全員が本気だとわかる。
パイモンはたかが1体にどんだけ本気を出す気なんだと内心馬鹿にしていた。
「では、始めるぞ!」
「「「応!」」」
とアイクと護衛達。
その戦闘は凄まじかった。
ウッドゴーレムは全体攻撃として、蔦を使って、全方位を包み込む。
それをアイク達は剣で切りながら前に進むが、中々前に進めずにいる。
そこを更にウッドゴーレムの根っこからの攻撃。
これに対応できてるの一部の護衛とアイクだけだ。
「なんでウッドゴーレムがあんな攻撃してのるの!? 初めて見たよそれにアイクも前より強くなってる」
そしてアイク達は密集体型に一度なると素早く炎の魔法を放つ。
そして一瞬にして、散開して、蔦を焼き払うと、接近戦に持ち込むがウッドゴーレムの防御力の前に中々有効だが与えられない。
「ウッドゴーレムってあんなに、硬かったっけ?」
パイモンは通常のウッドゴーレムより強い事を認識し始めた。
手紙にはあのウッドゴーレムが10体いたという。
あんなのが、10体もいたのか?
そしてあれにユキが加わると、更に強くなるという。
約1時間もの死闘の末、漸くウッドゴーレムがが倒れた。
「やっとだ倒せたぞ!」
アイク達護衛のメンバーが疲れ果てて、その場で大の字になって寝転ぶ。
パイモンはアイク達に近づく。
「いつもあんな鍛錬してるの?」
「野営以外は鍛錬に費やすようにしております」
「いやいや、君たち護衛でしょ。いくら僕の部下をユキさんの護衛に付けているからって、そんなにへとへとな状態でいざって時に戦えないでしょ。やっぱりユキさんってそんなに強いの?」
「確実に我々よりは強いでしょう。それにユキ様はウッドゴーレムを何体でも生み出せる可能性が高い。それにトレントが加わるのですから、ユキ様一人ですでに軍団を引き連れているようなものです」
そんな化け物を護衛する必要があるのか?
いや、彼らはストッパーの役目を自分達から買ってでているのだろう。
オリエンスの領地では、ユキは少し暴走状態であったとも書いてあった。
いざまたどこかで、暴走した時に少しでも抑えられるように鍛錬をしているのだろう。
パイモンも悪魔だ、いざ戦闘になれば前線でも戦える実力はある、ただ、性格が少しばかり臆病なだけである。
そんな、パイモンが珍しく明日は自分もウッドゴーレムと戦ってみようと思えた。
やはり自分の肌で感じた方がユキの実力を図るのは早い。
次の日は、ユキはいつも通り緑化活動に出かける前にウッドゴーレムを1体生み出した。
「あ~、ユキさんちょっといいかな?」
「おはようごさます。パイモンさん。どうかしましたか?」
「そのユキさんが生み出せるウッドゴーレムをもう1体生み出して欲しいんだ。僕も一度手合わせしたくなってね」
「構いせんけど、1体だけじゃ、パイモンさんにとって鍛錬にもなりませんよ」
「いや、そこは1体で十分だから! ね!」
「分かりました、性能を知りたいんですね」
そうして、ユキはもう1体ウッドゴーレムを生み出し緑化活動に出かけて行った。
早速パイモンはウッドゴーレムと対峙する。確かに蔦の攻撃や根っこの攻撃は、初見では中々見抜けずに対応に送れるだろう。
しかし、パイモンは昨日のアイク達の模擬戦を見ていたので余裕をもって躱し、蔦や根っこの攻撃を切り裂いていく。
ここまでは順調にいっている。
パイモンはウッドゴーレムに、一撃で仕留められように力を込めて殴りつけたが、ウッドゴーレムにはひびが入っただけで、まだまだ動けるようだ。
「思っていたより硬い! これがユキさんが生み出したウッドゴーレム」
救いはウッドゴーレムの動きが遅いことだろうか。
パイモンはスピードを駆使してなんとかウッドゴーレムの粉砕に成功した。




