18話
妖精牧場に入れられ、取り合えすは自由行動になったので、妖精たちに話しを聞きに行くために歩いて行く。
「明らかに、怪しいよね」
「とにかく、ここにいる妖精たちに話を聞いてみるほかあるまい」
まぁそうだよね。
展開的にエルフの王様とか偉い人に会えるかと思ってたのに、そんな簡単には会えないか。
しかし、広い。
何ヘクタールあるんだろう?
取り合えす、てくてく僕たちは歩いて行く。
おっ、第一妖精発見。
樹の木陰で眠ってる。
妖精の寝顔って子供みたいでかわいいな。
「こんにちは、ここで暮らしてる妖精さんだよね?」
まずは優しく声をかける。
目をぱちくりと開けて、こちらのメンバーを見て、なぜか、あちゃーって顔してるけど、何?
「えっと、どうしたの?僕たちはさっきここに来たばかりなんだ」
「エルフの甘い言葉に騙されて連れてこられたんだね、王様も結構マヌケ?」
はぁっと溜め息までつかれた。
明らかに僕に対していったよね。
初対面でマヌケとは、些か失礼な妖精だね。
取り合えず、こめかみをグーでグリグリ。
「い、痛いよ、王様!いきなり、何すんのさ!ってやめてよ、まだ何にも言ってないじゃん!」
言ってない?はて、僕にはマヌケと聞こえましたが。
寛大な僕は、怒鳴り散らさない、威嚇したりしない、だからニコっと笑顔で対応。
「ほんとに痛いよ!って、笑顔が怖い、目が笑ってないから!誰か助けてー」
反省の色が見えませんね、この子はもうちょっとお仕置きをしようか。
「その辺にしておけ。それからお前も、まずはユキに謝れ」
「ご、ごめんなさい!何かわかんないけど、ごめんなさい!」
よし、謝るなら許してあげよう。
ドーガに言われたからじゃないよ、ちゃんと謝る子には寛大にね。
普段はこんな攻撃的な性格じゃないのになぁ。
なぜか、この初対面の妖精さんには、しないといけない気がしたんだよね。
僕の勘が訴えてるんだ。
間違いではない、と。
妖精は涙目になりながら頭を押さえてる。
「いきなり、ひどいよ!」
「あらあら、初対面でいきなり、『マヌケ』なんて言われたら誰だって怒るわよぉ。ユキ様が動かなかったら私が氷漬けにしてるとこよぉ」
フェルミナさん、それは、いくら妖精でも死んじゃいます。
ほら、妖精も顔を青くしてビビってます。
他の精霊も助ける気がなさそうだし、僕への忠誠がたかいね。
フェルミナの笑顔はとても優しいのに、なぜか今は怖く感じるのは何故?
これは、僕への忠誠が高いのではなくて、フェルミナが怖いから誰も助ける気がないのか?
「ユキ様、なにか変なこと考えてませんかぁ」
「そんなことないよ、フェルミナ。僕のためにありがとう」
これが女の勘なのか、気を付けよう。
「で、なんで僕を見て王様っていったの?」
妖精はきょとんした顔で応えてくれた。
「僕は、もともとユキ様の森で生まれた妖精なんだ。森で、みんなに悪戯して楽しく暮らしてたんだけど、エルフに見つかちゃって。『ついてきたら、妖精もエルフもいっぱいいるから、もっと楽しいよ』って言われて付いてきたら、全然ここ楽しくないんだ」
「悪戯って、お前はパックか!」
「パック?」
思わず声が出てしまった。
君は僕の中で、パックに命名されました。
まぁ言わないけど。
そして、質問にちゃんと答えなさい
お前がパックのはわかったから。
話しの腰を折ったのは僕だけどさ。
何でもないよ、と伝えておく。
「まぁいっか。んで、ここには来たのはいいけどさ、」
と、まだお前の身の上かい!
むだ話が多いなパック。
さすがパック。
もういいよパック。
もう一回、グリグリ。
「王様、痛いよ!暴力反対!ごめんなさい!よくわかんないけど、ごめんなさい!」
身の上は、もういいから。
それでも続く悪戯妖精パックの話し。
もしや、これもパックの悪戯なのでは?
とりあえず、助けを求めて精霊達の顔を見る。
「いい加減にぃ、ユキ様の質問に答えないと氷の彫像にしますよぉ」
とても優しい笑顔で死刑宣告を突きつけるフェルミナお姉さん。
パックの足元に霜がみえる。
近くにいる僕にもひんやりした空気が伝わってくる。
フェルミナはいつの間に、雪女にクラスチェンジしたのかな?
笑顔がとてもカワイイと思うので、僕にもその笑顔を向けないで!
何も思ってないよ!
パックも顔を青くして、頷いてる。
そこからは、従順に話しをするようになった。
僕を王様というのは、あの森では普通らしい。
あだ名みたいなもんだろうか?
王国を名乗ってはいないんだけどな。
でも、ドーガがよく王としての自覚をなんたらかんたら言ってたような気もする。
ここは、否定するとドーガが五月蠅そうだから、黙っておこう。
「で、騙されたってどういう事?」
「ここの樹までが最終ラインだったんだ。結界の」
結界?そんなの何も感じないけど。
精霊達の顔を見る。
みんなも、??って感じだ。
「最初はみんなそんな顔をするよ。どういう理屈か知らないけど、ここから先に出られない。というか、出ようって気がなくなるんだよね~ホント不思議。だからここで新入りが無暗に入らないように見張ってたんだけど、王様たちが入ってくるんだもの、僕の親切も台無しだよ」
ふぅー、やれやれ、と顔を横に振るパック。
お前寝てたろうが。
それで、よく台無しとか言えるな。
これには、精霊達4人も怒りを抑えられなくなったのか殺気だってます。
「こいつは、我に任せてもらえないか、綺麗に焼いてやる」
「ふふふ。ここは私が時を止めるべきでしょうねぇ」
「いえいえ、お二人に手を煩わせてはグラン様に叱られます。ここはノームである私が樹の養分になるように致しましょう」
「ずるーい、シルフの私が風で細切れにしてあげるよ。大丈夫、痛くしないよ」
殺る気だ。
4人の精霊たちは今、気合が違う。
できるなら自分の手で、と決着を望んでいる。
みんな笑顔だし。
僕もイラっとしたけど、みんなが力を出したらホントに死んじゃうから!
ここは、僕が何とか折衷案を出さなければ。
パックもまた、青い顔をして、僕に助けを求めてくる。
「痛ってえ」
とりあえずパックには拳骨を落としておいた。
これしか方法が思いつかない。
悪いのはパック。
「みんなも落ちついて、消すのはいつでもできるから」
「消すって……」
パックには目で黙れと伝えておく。
精霊達は『その際は必ず一言下さい』と言われた。
「しかし、結界かぁ、僕には全く感じなかったけど」
「我もそんな感じはしないな」
とりあえず皆で、出口に行こうと歩く。
「待て!ユキ!」
ドーガに呼び止められて、後ろを振り返ると、なぜかみんな立ち止まっている。
「どうしたの?早くおいでよ、結界の位置を調べないの?」
「我々が立っている所がそのようだ」
???
僕には何も感じられないけど。
ドーガたちは違うようだ。
パックが言っていたように、ここから出る気がまったく起きないそうだ。
僕について行きたいのに、足が動かない。
わかっているのに、動く気が起きない。
夏休みの宿題をやらなきゃいけないのは頭では理解してるけど、初日からやる気は起きないみたいな感じなのだろうか?
夏休み特有の病気かと思っていたけど、そうか、エルフの結界が家に仕掛けられていたんだね。
どうりで、家では宿題をやる気になれない訳だ。
エルフ、恐るべし!
と、まぁ冗談は置いておいて。
どうやら、僕には効いてないみたいだ。
「さすが、王様!鈍感なんだね」
取りあえず、パックには拳骨をプレゼント。
反省という言葉を知らないらしい。
お尻ペンペンの刑とかエデンで作ろうかな、パック専用の法律として。
「まさか、こんな結界があるとはな」
「そうだね。エルフ達は、無理やり妖精を連れて行かないって聞いてたからちょっと信用してた分もあったからね」
「でもぉ、これで明確に私たちの敵になりましたねぇ」
「警戒してた僕たちより、相手が上だったね。でも向こうも僕に結界が効かなかった事は、まだ知られてないし何とか考えないと。きっと、どこかに術者か仕掛けがあるはずだよ」
パックに他の妖精たちの所に案内してもらって、話しをきかないと。
あの、エルフ達。
許すまじ。
それにしても精神に作用する結界とは、困ったもんだね。
僕には効かないけど。
一人で何かと行動しないといけなくなるから、ドーガ達を説得する必要もあるだろうし。
移動中に僕は何故か落とし穴に落ちた。
「あっ!この前、作った落とし穴だ、忘れてた!」
無言で拳骨をプレゼント。
この悪戯妖精め。
マジ、許すまじ!




