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16話

 「僕は、エルフの国、エルドラードに行こうと思うんだ」


 全員が呆然として口を開けてパクパクしてる。

 最初に再起動したのは、ミントだった。


 「ご、ご主人様、確かに付いて行くとは言いましたが、エルフの国ですか?」


 次に再起動したのは、顔を赤くしたドーガだった。

 

 「さっきまでのは、なんだったのだ!お前はエデンの王としての自覚を持つのではなかったのか!」


 他のみんなも「エデンはどうするの」だとか「危なすぎる」などなど。

 なかなか熱くなっております。


 「何も移住しようってわけじゃないよ。エルフ達の現状を知る必要があると思うんだ」


 「偵察なら僕たちシルフに任せればいいよー」


 「確かにシルフならある程度は、大丈夫だと思うよ。でも、実際に国に入って、住んでる人達と話すことは難しいでしょ」


 「それはそうかもしんないけどさー」


 フィーネが口をとがらせて拗ねたように言った。


 「しかし、ユキがわざわざ行く必要はないだろう」


 ドーガも呆れ口調だ。


 「エルフ達と約束をしたのは、僕自身だ。僕が行かなきゃ、疑われるのは目に見えてる。これはチャンスでもあるんだ」


 そう、チャンス。

 日本語で好機。

 いや、チャンスも今や日本語みたいなもんか。

 まぁこれはどうでもいいとして。

 この機会を逃す手はない。

 

 「ユキ様はエデンの主、その主みずから偵察に行くなんて聞いた事もないですよ」


 グランも呆れているようだ。

 でも、大阪のオバサマ達は言っている。

 余所(よそ)は、余所(よそ)(うち)は、(うち)!と。

 名言です。

 これを言われた子供は無理やり納得させられる、強制魔法。


 「それに僕一人で行く気はないよ。一緒に行く、メンバーは必要だと思ってる」


 メンバーが必要。

 その声に真っ先に反応したのは、ポチ、クロ、シロの3人だった。


 「ならば、是非!」


 「俺が行く!」


 「旦那様にはわたくしが必要です!」


 「ありがとう、気持ちは嬉しいんだけど、今回は遠慮してほしいんだ」


 3人には悪いけど、エルフ達が警戒するしね。

 見た目が獣人だし。

 3人ともすごい残念そうにしてるけど。

 

 「では、我ら4人が付いて行こう」


 ドーガ達、精霊が頷いてる。

 でもね、


 「さすがに、4大精霊の王の4人が付いてくるのはダメだよ。エデンの守りが薄くなるのはよくない」


 それからは、何人で行くか、メンバーはどうするかをみんなで話し合った。

 メンバーが決まったのは、夕食前、日がだいぶ落ちてからだった。


 エルフの国に行くメンバーは、


 ドーガ、フェルミナ、の精霊王二人に、フィーネとグランの配下の2人の精霊。

 僕を合わせての5人でいく事になった。

 

 僕たちがエルフの国に行ってる間に、森の妖精や魔獣達をエデンに入れてあげようと思ったけど、それは賛成されなかった。

 いきなり、森から魔獣や妖精が消えたら怪しまれるし、魔獣たちは実際に防波堤にもなっているとのこと。

 その代わり、森の巡回を強化するようにして、なるべく戦闘は避けるように(こと)づけた。






 エルフ達との約束の3日後の朝。

 僕たちはエデンを出てエルフと出会った場所へ。

 荷物は殆どないない。

 妖精がリュックなんて背負ってたらおかしいもんね。

 だから、ボロに見えるような麻袋に色んな種を入れて持ってきた。

 後、水筒|(竹でできたもの)も一応ね。


 そういえば時間とか決めてなかったけど、大丈夫だろうか?

 

 約束の場所にはすでにエルフ達が待っていた。

 僕は3日前に会った、隊長さに近づいて皆を紹介した。


 「お待たせしました。この子たちも付いて行くそうです」


 「ほんとに精霊がくるとは。しかしこの前の妖精達の姿が見えないが」


 「そのことについて、お願いがあるのです」


 「ふむ、なにかな?」


 「僕たちは、エルフの国を知りません。だから、まずはあなた方エルフの国を見てから決めたいのです。本当にこの地より、素晴らしいのであれば、他の妖精たちにも声をかけて、移住を検討したいと思っています」


 僕たちが住むエデンより優れていたら、そこに移住する者も現れると思う。

 その時は、気持ちよく送ってあげよう。

 僕の家は、エデンだけどね。


 「なるほど、君たちは差し詰め先遣隊という事か。安心するといい。きっと気に入るよ」


 隊長さんはそう言って、部下のエルフ達に指示を出し始めた。


 「それで、君の母屋ともなる、樹はどこなのかな?」


 「ごめんなさい、実は嘘を言いました。僕はこの森で生まれけど、ドライアドとはまた違うのです」


 「どういう事かな?」


 隊長さんは警戒を強めているように見える。


 「僕は、トレントの新種なので、母屋となる樹は無いのです。あの時はそういわないと退治されるんじゃないかと怖かったので」


 「なっ!では、君は魔物なのか?」


 トレントはやっぱり魔物扱いなのね。

 うちの子たちは大人しいんだけどな。

 隊長さん、腰に差してある剣に手をかけないで、ドーガが目で殺るか?って聞いてきてるから!

 助け舟を出してくれたのは、フェルミナだった。


 「この子は、トレントやエルダートレント達の上位種にあたるのよぉ。そこら辺の妖精や精霊より格がたかいのぉ、だから手を出すなら、私たちとも敵対する事になるわねぇ」


 相変わらず、おっとりした口調だけど、フェルミナは助け舟ではなかった。

 それは、脅しって、いうと思うんだ。

 他のみんなも当然のように僕を護るように囲みだした。

 エルフ達との間に変な空気が生まれてる。

 隊長さんも変な汗かき始めてるし、このままではまずい。


 「お、落ちついてよフェルミナ。友達だから気を使ってくれてるんだよね」


 僕はフェルミナを宥めて、隊長さんと向き合う。


 「あなた方からすれば、僕は魔物かもしれませんが、害するなら、最初に襲っています。わざわざ、こんな事はしません」


 嫌な沈黙が流れる。

 ふぅーっと隊長さんは息を吐き、腰の剣から手を放した。


 「すまなかったな。あなたが、上位種といのは以前の植物を育てるのを見ても理解できる。無礼を許して頂きたい」


 そういって、隊長さんは頭を下げ、その場は収まった。

 出発前からこんな調子で大丈夫だろうか?


 森を抜けるため、僕たちは今だ森の中を進んでいるが精霊たちは、相変わらず僕を護るような立ち位置を保持している。

 そんな僕たちをエルフの人達はさらに囲むように先導をしている。

 何より、会話がなく、ただ歩いてるだけなので飽きてきた。

 我ながら、緊張感が続かないなぁと思う。


 「あの、どこまで歩くんですか?」


 僕は近くにいるエルフに声をかける。


 「一晩は森の中で過ごしますが、このまま真っすぐ進めば、明日には森を抜けれるでしょう。何もなければですが」


 1日であそこまで来たのか。

 さすが森の民なだけあるね。

 いっその事、木々達を動かして歩きやすくすればもっと早くつけるのではないだろうか?

 

 「僕が木を動かした方が移動できるよね?」


 僕は小声で、ドーガに話しかける。


 「やめておけ。エルフは森がいう事を聞かないと言っていたのだろう?下手にユキの能力は使わない方がいい」


 それを聞いていたのかフェルミナも話しかけてきた。


 「ユキ様の力と言えば、癒しの力も使わない方がいいですねぇ」


 「怪我くらい治してあげてもいいんじゃないの?」


 「ユキ様の力は強力すぎるんですよぉ。もしもの時は私とシルフでしますから余計な事はしないでくださいねぇ」


 フェルミナはおっとりしてる割には、はっきり言うね。

 余計な事とか、僕は皆の事を思って行動してるんだよ。

 小さな親切は大きな感謝をされる事もあるはず。

 だからいざって時は、僕も自分で動かなければ。


 「何を考えているか知らんが、まずは我らに聞いてから行動しろ。くれぐれも自分の判断で動かないことだ」


 あれ?心を読まれましたか?

 ドーガに釘を刺されてしまった。


 森の中を歩き続けて、日が傾き始めたころに野営の準備が始まった。

 異世界で初のキャンプです。

 ていうか、人生初のキャンプ。

 不謹慎かもしれないけど、ドキドキだよ。

 キャンプファイヤーとかするのかな?


 一人のエルフのお兄さんが近づいてきた。


 「一応、皆様のテントも用意いたしましたが、ご利用されますか?」


 なんで聞くんだろ?

 それはもちろん利用するでしょ。

 地面でそのまま寝る気はありませんよ。

 普通はすぐ案内してくるもんでは?


 「我ら精霊はそういったものを普通、使用しませんので」


 耳元で、ノームの精霊がこそっと教えてくれた。

 確かに、精霊は土地に居つくもんな。

 でも僕は精霊になってようが、妖精になってようが、魔物扱いされようが、テントで寝ます。


 みんなのテントも用意されていたが、テントを利用したのは僕だけだった。

 

 

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