13話
さてはて、今だ森の中にいる僕は、そろそろ帰ろうかと思う。
日が傾きだした今なら夕方前にはつくはず。
「みんな、今日は帰るね。またクッキーでも持ってくるよ。それとお前たちも!今度はもっと近づいておいで」
僕は、近くにいる妖精と、一定の距離から僕を見てる子たちに声をかける。
前回言った、足が3本の鳥、腕が4本のサル、頭が2つある狼、尻尾が3本のリス。
ファンタジーの動物?
見た感じは退治されそうな魔物にも見えるけど。
「ユキ様たいへんたいへんたいへんたいへんたい!」
1人の妖精が叫びながら近寄ってきた。
“大変”なんだよね?
最後は“変態”に聞こえたよ。
うん、間違いなく言ってるね。
年頃の男の子に向かって変態とは、失礼な妖精だ。
僕は、ちょっと内気で妄想することもあるけど。
女の子には紳士でいるつもりだよ。
チラ見は変態に入らない………はず!
よし、ここは、紳士な態度で妖精さんを迎えてあげようじゃないか。
「そんなに、慌てて、どうしたの?まずは落ち着いて」
よし、かなり優しい紳士が出来上がったね。
そう、紳士たるもの落ち着きが大事だ。
「あのね、エルフの人達が近づいてきてるの」
「なんだってー!」
これは、やばいんじゃないか!早く逃げなきゃ、僕じゃ絶対勝てない!
逃げる?どこに?そんなのエデンだろ!
落ち着け!僕!
さっきまで紳士だったじゃないか!
深呼吸して、冷静に逃げれば大丈夫、な、はず。
「よし、すぐここから、離れよう!そうしよう、そして、みんなも逃げるんだ!」
「ユキ様、落ち着いて。そんな大声出したら見つかっちゃう」
妖精さんに注意されてしまった。
僕、戦闘に向かない人物だよ。
落ち着けない。
誰か助けてほしい。
僕の思いが通じたのか、今まで近寄って来なかった動物たちが僕の周囲に集まりだした。
「この子たちも戦ってくれるみたい、私たちもできるだけ頑張るね!」
と、妖精さん。
いやいやいや、僕、戦えないから!
周囲を固めないで!
逃げれないでしょ!
というか、エルフも妖精狙ってんじゃないの?
ここに、妖精いたらまずくない?
あっ!
きちゃったよ、エルフ。
「貴様、人間だな!この森で何をしている!」
「あいつ、魔獣を従えているぞ!みんな気をつけろ!」
「妖精が数匹捕まってるみたいだ、応援を呼べ!」
「人間め、絶対逃がさん!」
エルフさん達、勘違いだ。
僕は妖精なんて捕まえてない、喋ってただけだ。
エルフさんたちの数は5人か。
でもさっき一人が仲間を呼びに行ったみたいだし、まだ増えそうだな。
どうやって逃げようかな?
てか、逃がしてもらえるかな?
「妖精が人質にとられてる、各員、勝手な行動は慎め!」
リーダーっぽいエルフが号令をかける。
エルフたちは、剣や弓を構えてこちらを睨んでる。
睨まれてるの基本、僕一人みたいだけど。
向こうは、僕が妖精たちを人質に取って見えるらしい。
この状況をなんとか使えないかな?
とりあえず、会話して、誤解をといて、退却する方向で。
「あんたたち!そんな人数で勝てるつもりなの?悪いことは言わないわ、ここから立ち去りなさい!」
妖精は言ってやったわ!と、腰に手をあて、どや顔で、ない胸を張っている。
その姿はカワイイけど、今の発言を聞いて、余計にエルフたちが、僕を睨みつけているよ。
どうやら、エルフたちの中では、
『それだけの人数では、私たちを助ける事は出来ないから、私たちの事はいいから逃げて!』
と、脳内変換されているのではないでしょうか?
「くっ、そこまでの奴なのか、奴から目を離すなよ!」
妖精よ、何してくれてるんだ!
エルフの警戒がさらに上がったじゃないか!
「エルフのみなさん、落ち着いて下さい。僕は誘拐なんてしていません!」
「だまれ!人間の事など信用できるか!」
やっぱり話を聞いてくれそうにない。
そうこうしていると、お仲間のエルフも来たみたいだ。
人数が増えて、12人。
じわじわと僕たちを包囲していく。
でもここは、根気強く粘るしかない。
「話を聞いてください!僕は、人間ではありません!」
そう、僕はもう人間ではない。
「僕は、植物人間です!ドライアドみたいなもんです!」
僕の発言に半分ぐらいが頭に??をつけてるね。
「森の妖精、ドライアドは魔獣を従えたりせん!」
と、隊長さん。
「僕は、新種なんです!新しくこの森に生まれたのです!」
「信じられるか!なら証拠を見せてみろ!」
証拠って、そんなものないがな。
証拠になりそうなもの?
その辺の樹に触ってトレントでも生み出す?
トレントもこの世界で魔物扱いの可能性でかいしな。
そういえば、一つあった。
僕が動こうとしたら、
「動くな!」
と、弓を引き絞り、僕に矢をむけた。
動かずには証拠を見せれないんですけど。
「う、撃たないで。今証拠を見せますから!」
僕はポケットから種を取り出した。
昼食の時に、植えて食べようと思ったけど、お腹いっぱいになったから、そのままにしてた種だ。
僕はみんなの前にでて、種を土に植える。
水筒を取り出して、中の水をかける。
そこに手を付けて、少しのマナを送る。
すると植えた植物は急速に成長して、実をつけた。
僕が、植えたのはイチゴ。
イチゴは赤い実をつけ、まさに食べごろまで、成長して、止まる。
僕は、なったイチゴの実を手に取り、食べてみせる。
甘酸っぱくておいしい。
けど質は畑で取れた物に比べると落ちるな。
エルフたちは、おおーと声を上げている。
どうだ、納得したか?
「あなた達は、妖精を保護していると聞きました。僕もこの妖精たちもこの森で暮らしているだけなのです。どうか武器を収めていただけませんか?」
「しかし、植物をそんなに早く育てる妖精など聞いたこともない」
「ですから、僕は新種なのです」
「では、その魔獣たちはなんだ」
「魔獣ですか?えっと、この魔獣たちはですね、そうですね、この森を守ってくれるために協力してくれているのです!そう、協力です。だから、ここにいる、妖精や僕を護るようにいるのです。ほら見てください」
僕はそういって、後ろの頭が2つある狼の体に恐る恐る手を伸ばす。
噛むなよ、絶対噛むなよ、ふりじゃないからな!
結果、噛まれることなく、体をなでれた。
こんな、タイミングでモフモフを味わえるとは思わなかったな。
なんか尻尾振ってるし。
うん、なかなかの手触りだ。
後で、お風呂に入れてあげよう。
ちょっと堪能したらないが、後ろ髪を引かれる思いで立ち上がる。
だいぶ、納得してくれたかな?
隊長エルフが武器を収めると、他のエルフたちも武器を下げた。
「では、あなたは、本当に妖精なのですね。能力的にもぜひエルフの国に来てほしいが、ドライアドの新種ということなら、あなたの樹はどれなのですか?」
樹って、そこまでは考えてないよ。
ドライアドは、確かに樹に宿るもんな。
まさか僕自身が樹みたいなもんですって言ってもさすがに説得力ないし。
「どうしたのですか?」
「いや、あの、そうですね。僕の樹を教えていいものかどうか、別にみなさんを信用してないわけじゃないですよ」
エルフたちは武器を下しているが、相変わらず、距離はある。
魔獣たちを警戒しているのか、まだ、僕を信用してないか。
相手の考えがわからん。
「まぁ、いきなり武器を向けられて、そういう気持ちになるのもわかりますが、あなたのような能力の高い妖精が万が一にも他国に害を及ぼされでもしたら大変です。移動は大変でしょうが保護させていただきます。あなたの樹も傷一つ、つけません」
ん?なんか強制的にお持ち帰りするように聞こえますけど。
隊長さんの言葉使いも和らかくなってるし。
「我らエルフは、森の民でもある。いつかこの森もすべてエルフが手に入れ、他国からの侵入を阻みます。そうすればあなた方、妖精も安心して暮らせるのです。それまでは、我らがエルフの国、エルドラードでお待ちください」
エルフの隊長さんのご高説が続く。
国名がエルドラードね。
情報ゲットです。
お持ち帰りされる気もないんだけど、どうしもんかな。




