11話
世界樹の力を実感してから、2ヵ月が過ぎた。
癒しの力を感じた僕は、回復要因になれた。
いざという時には、みんなを治してあげる事ができる。
戦闘訓練は今もみんな続けているけど、もともとのスペックが高いらしく。
今では僕にはどういう動きをしてるか、まったくわからない。
2ヵ月前のドーガとポチの動きもちゃんと見れてなかったけど。
エデンもみんなの協力のおかげで、かなり形になった。
意外だったのは、
あの怖い見た目の元熊のバグベアに養蜂を手伝ってもらったら収穫率が上がった事だった。
熊と言えば“はちみつ”と安直な考えが成功したと言える。
バグベア恐るべし。
それ以外にはシルフたちに空を飛んでもらい偵察をおこなっている。
まずは近くの街や村などを調べてもらってる。
もちろん、岩山の周りの森もだ。
だんだんと、魔族、人間、エルフ、ドワーフ、獣人たちはこの森を踏破してきているようで、
エデンに近づいてきている。
300年たった今でも、この大陸の覇権を握ろうという野心は消えていないようだ。
人間の国とかもう絶対、世代交代してるはず。
諦めて欲しい。
そして、この森に入って来ないでください。
僕がそう思っていてもエデンとしては、動いて行かないといけない。
妖精を誘拐してる人間と魔族の人たちには、何とか対処をしなければならない。
エルフ、ドワーフの2種族は、以前も報告にあったけど無理やりではなく、説得して連れ帰ってるらしいので問題はないと思う。
行った先で幸せになってればいいけど。
獣人は妖精には声をかけているようだが、今だついて行った妖精の話はきかないので、こちらも問題ないと思われる。
エデンの民も1チーム5名で組んで森に出かけてる。
どの国にも見つからないように、気配を感じたり、見かけたらすぐ撤退するように言い含めてある。
これは野外訓練も含めているからだ。
そして2ヵ月たった今日から行動を開始する。
まずは、妖精誘拐を企む人間と魔族を追い払う。
攻撃を仕掛ける前に必ず警告をすように伝えている。
さて、僕も行こうかと思ってたのに、みんなに反対された。
「危ないからダメ!」って
僕は子供か!
確かに、戦闘力皆無ですけど、多少は訓練したんだ。
結局、許可が下りず。
僕はお留守番。
初日の今日はクロ、シロの2人を隊長とした2チームと、他4チーム。
合計30名が行動してる。
さて、どんな報告が来るのかな。
森の中には6チームがそれぞれ巡回をしている。
人間と魔族以外の場合は極力戦闘は避けるようにとの指示がでてる。
僕は気配を殺して、ゆっくりと前に進んでいる。
エデンの中で見回りと称し、ミントに意味なくエデンの銭湯を作るように指示をだし。
外につながる洞窟を警備してるみんなに労いの言葉をかけ、差し入れを渡し隙をみて抜け出した。
神谷幸仁、気分はまだ17歳(現実となった今では337歳)のちょっとした冒険が今始まるのだ。
ちょっと散歩したら、すぐに帰ります。
ばれたら絶対怒られる。
だから、ほんのちょっとだけ。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐
俺の名前はクロ!
主の一番のペットで、今日も主に抱きついて、マタタビをもらったんだ。
夜寝る前に楽しむつもりだ。
今は、主の命令で森の中を散歩?…じゃなかった。
悪い奴がいないか見て回ってるんだ。
何でも人間と魔族が妖精を愉快にしてるやつらがいるらしいんだ。
「クロ様、愉快ではなく、誘拐です。それとさっきからダダ漏れです」
こいつは、土の精霊ノームで、名前は………。
なんだっけ?
「なんだよ、うっせーなー。愉快でも誘拐でもとりあえず、それっぽい奴をやっつけたらいんだろ?」
「愉快と誘拐は全然違いますし、まず最初は警告をするんです。いきなり攻撃しちゃいけません。それと、僕の名前はカークです。いい加減覚えてくださいよ」
カークはとにかく、うるさい。
何かにつけて文句を垂れる。
あれが、違うだの。
こっちはどうのと。
少しは俺をを見習えっつうの!
「だから、ダダ漏れです。隠す気ないでしょ?」
「おい!」
クロのその一言で空気ががらりと変わった。
クロたちは視線を低くして、気配を殺し近づく。
視線の先には3人の魔族がいた。
前衛らしき魔族2人。
両手剣を背中に担いだ男と、両刃の斧を持った男。
後衛とみられる魔族の手には森の中で扱うためか、ショートボウが握られていた。
クロは自分の隊をみる。
ノーム、羊人、バグベア、オーク。
自分を入れて前衛が3人、魔術を使う後衛が2人。
数的には有利だが、初めての戦闘になる可能性が高い。
後衛の羊人には合図を出すまで隠れていてもらい、まずは4人で相対することは決める。
クロは彼らに声をかける。
近くもなく、遠くもなく、自分が行動しやすい位置で。
「よう!おまえらここで何してる?」
声をかけられた魔族3人は、声のする方に目をやりすぐさま戦闘態勢に入った。
彼らは驚愕した。
自分たちが気が付かないうちに、
ここまで接近された事に、
クロたちのメンツの異様さに。
「貴様ら何者だ!」
前衛の両手剣を持った男が声を剣先を向けながら吠える。
「あ゛っ!!。聞いてんのはこっちだろうが、取りあえず帰れ!二度とくんな!クズども」
その言葉に魔族は逆上し、ノームのカークは額に手を付き顔を横に振る。
最初に動いたのはクロだった。
たった一歩の跳躍、その跳躍の間にクロは、腰に差してあった、ダガーを右手で逆手にもつ。
次の瞬間には両手剣を正中心に構えていた魔族の剣の下にいた。
軽いものでも持ち上げるようにクロの左手は両手剣の柄の下をすくいあげる。
同時に自信の曲げていた膝を伸ばす。
魔族が握っていた剣は、強制的に上へ、上段に構えさせられる。
魔族の男が、目を見開く間に、クロが右手で逆手に持ったダガーが男の喉を深く切りつけ、右足を軸にそのまま男を後衛の弓を構えた魔族の方へ、回し蹴りで飛ばす。
クロはその回転を殺さずその流れの中で、右手のダガーを器用に手のひらで回転させ順手に持ち直し、両刃の斧を構えていた魔族に投げる。
ダガーは寸分の狂いなく男の左目に吸い込まれるように深く刺ささりそのまま男は後ろに倒れ動かなくなった。
後衛の魔族は何が起きたか、理解できなかった。
ただ仲間を一瞬で奪った猫の獣人が近づいてきて、自分も死ぬのだと思った。
「おい、最後の警告だ、二度とくんな」
ただ一人、生かされた魔族は己が武器もその場にすて、腰を抜かしながらも頷くとその場を逃げ出していった。
カークは呆然としていた。
それは目の前で行われた戦闘に対してはではなく、いきなり戦闘に踏み切ったクロに対してである。
「って、なんで、勝手に動いてんですか!」
「俺が警告したのに、あいつらがやる気だったのが悪い」
「いいですか!ユキ様には『追い返せ』って命令されたのです。殺せとは言われてないでしょう!」
「一人は、ちゃんと返しただろ!」
「最初にもっと話をして、情報を聞き出してから返すのです!あぁ、ユキ様にどう報告しものか。グラン様にも暴走しないように、言われてたのに」
そこまで言われ、クロも事の次第を理解したのか、顔が青くなる。
「えっと、怒られるかな?」
「確実になにか言われますよ!というか僕は、グラン様にも怒られる」
カークは、はぁ、とため息を吐きながら考える。
どうしようかと。
「クロ様、俺達も戦いたかった」
と他のエデンの戦士たちも愚痴のようにこぼす。
その発言を聞いてまた、カークはため息をついていた。
「もう、帰りたい」
カークが呟いた一言は誰にも聞かれなかった。




