かぶっている子はいね~か~
秋田県では大晦日になまはげが「悪い子はいね~か~」といって民家をまわる。
この地域では、なまはげを模して泌尿器科医や小児科医が変装して民家をまわる。
彼らは小中高生の包茎状況を検査し、時には手術してまわっている。
突然民家をまわるのではなく、秋になると医師会が各家庭に文書で案内をしている。
衛生面や発育面で悪影響を及ぼす可能性もある包茎を早期に発見し、必要であれば治療することを目的とした医療活動である。対象となるのは小学校5年生~高校3年生までの男児である。
文書案内は勿論本人宛ではなく、保護者宛である。高校生くらいになれば本人の意思も確認して回答することが多いが、小学生くらいでは大半が保護者の一存で回答している。回答内容は「1.自宅を訪問して包皮検査を行って良いかどうか」「2.医師が必要と判断した場合には包皮切除に合意するかどうか」の2点である。1に合意する家庭が約8割、2に合意する家庭は約6割といったところだ。ちなみに包皮を切除する場合も医療費は無料となっている。ここは市町村から補助が出るからだ。謝礼は不要だが、慣例として酒などの貢ぎ物を捧げることになっている。
大晦日の夜、変装した医師達は手分けして事前に許可を得た民家を訪問する。そして「かぶっている子はいね~か」と叫びながら対象の男児を捕まえ、助手の男性がズボンとパンツを下げて下半身を裸にする。この時点で既に皮がめくれている場合は「立派じゃ」と褒め称え、ご褒美をおいて帰って行く。中高生の中には毎年大晦日になると変装した医師がやってくることを知っていて不自然に見栄剥きしている生徒もいる。むいた状態をキープできるのであればとがめられないが、不自然にむきあげているだけの場合などはすぐに見つかり、戻されて診察が始まる。パンツを脱いで皮に被ったままのペニスがあらわになると、「かぶっている子を見つけたぞ、今からむくぞ」と宣言され、診察がはじまる。
医師は包皮の長さや余り具合、包皮口の広さなどを慎重に診察し、年齢を考慮して治療の要否を決める。小学生で治療対象になるのは5%以下であるが、高校生になると20%程度になる。治療しない場合には「しっかり洗えよ」「また確認に来るからな」「毎日訓練しろよ」「あと少しでむけそうだぞ」など医学的なアドバイスがなされる。訪問には合意するか治療に合意しない家庭の場合もこのような対応となる。
真性包茎の場合、包皮狭窄が強い場合、皮が長すぎる場合には治療が選択される。この習慣の最大の特徴はその場で治療が行われることである。診察の結果、治療が決まると手際よく消毒がされ、麻酔の注射が打たれ、そのままハンドメスで包皮の先端が切り落とされ、即座に縫合を行う。そして「これをしっかりと塗ると傷が早くなおるぞ」といって傷薬を渡し、変装した医師達は去って行く。
この風習がはじまってから、ほとんどの高校生が卒業までにズルムケとなっている。特別に何かの病気の予防になるわけではないが、発育面でも衛生面でもそれなりに効果があると考えられている。