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夢の話のそのあとに  作者: 漆原ともみ
序章
2/5

ヴァルキリア

今回は2話でのヴァルキリアの話を少し詳しく書いたものです。


視点はヴァルキリアです。

いつ書くかで迷っていたのですが、夢の話が中心なので今でもいいかな、と思いました。


『不浄の子』『悪魔の目』物心つくころから私は自分がそう呼ばれていることを知っていた。私は、屋根のない外で足に鎖を繋がれていた。

他の子は屋根のある家で温かい料理を食べているのに。なんで?


私の食べるものは、1日1度のパンだった。それだけでも、私にはご馳走だ。もらえない日もあるのだから。


村の子供たちは私には決して近づかない。食事を持ってくるのは決まって子供だった。その目は何か汚いものを見るような細く鋭く、冷たいものだった。


他の子供はお母さんとお父さんがいるのに、なぜ?


私はずっと1人だ。遠い記憶の中に微かにお母さんの背中が見える。ただ、それだけだ。私はここから動くこともままならない。ただ、私にも心を許せる相手がいた。それは、熊のマーシャ。ぬいぐるみだ。片腕は壊れ、中の綿が溢れ出ていた。それでも、ずっと私のそばに居てくれた大切な家族だ。


ある日、私の周りには大人の男の人が集まっていた。


「悪魔め」


そう言って私は蹴られた。それを合図にあらゆるところから足や拳が飛んでくる。

痛い。痛い。痛い。

私は死んでしまうのでしょうか?私は悪い子なのでしょうか?この目がいけないのでしょうか?


私は、紅い目をしているそうだ。水溜りに映る自分の目を見たこともある。この穢れた目のせいで…。


それから毎日、私は痛めつけられ続けた。


痛い。雨が降ると傷口がしみる。


なんで私はこんな目に遭うの?もう、涙すら私の目からは流れない。


ある日、何時ものように痛めつけられていると、異変は起こった。


1人の旅人のような男の人が現れた。


「おい、なにをしているんだ?」


「あ?なんだてめぇ」


私を殴っていた1人が答える。


「人を探しているんだが、この辺りに紅い目をした少女がいるとか」


え?今、なんて言った?紅い目って言った?それは、私のこと?


「だったらなんだってんだ?」


「その子に合わせてくれないか?」


「は?そいつならここにいるぜ」


そう言うと男は私の首をつかんで持ち上げた。首がしまって苦しい。


「おい」


旅人のような男の人の声が変わった。最初は優しそうな声だったが、今は違う。どこか重く、恐ろしい。


私の首をつかんでいた男の腕が、男の体から切断される。


「は?」


男もなにが起こったかわからないようだ。私をつかんでいた腕がボトリと地面に落ちる。私は苦しさから解放された。


「は?え?なんで?」


男からは血が吹き出している。私にも血がかかってしまう。生暖かく、ドロリとしている。変な臭いも立ち込めている。男は倒れた。


「てめぇ、なにしやがった!」


私を殴っていた男の1人が叫んだ。

旅人のような男の人は少しずつ私に近づいてくる。


「おい!」


それだけ言うと男の腕も切断されていた。


「は?」


先ほどの男同様、血を吹き出している。ショックのあまりか、その男も倒れた。


「は?やべえって。おい!」


私を殴っていた男の1人が家々の方に走っていく。他の人もそれに続いた。


旅人のような男の人は、倒れていた男たちに向かって何かをした。すると、男たちから溢れていた血は止まっていた。


「「「うおおおおおおお」」」


向こうから剣やら斧やらを持った男らが走ってくる。さっき逃げて行った男らが通報したようだ。


旅人のような男の人はどこからか剣を取り出した。

近付く人を容赦無く斬りつけてゆく。赤い鮮血が飛び散る。私は、その光景に高揚感を感じた。

あの男たちが、私を殴っていた男たちがやられていく。

それは、神の裁きだとでも言うように。


火を纏ったナイフが私のすぐ横をすり抜けてゆく。

そのナイフを投げた男に、旅人のような男の人はどこからか火の矢を取り出して放った。


そうして、旅人のような男の人以外、誰も立っていなかった。


「僕はマルクス。さて、君の名前は?」


マルクスと名乗る男は、優しく微笑みながら言った。

早く言わなきゃ、殴られてしまう。いつも、そうだったから。


「う、う…。私は…名前も…ありません」


私には名前がなかった。大抵は『悪魔』などと呼ばれていただけだ。


「君は綺麗な瞳をしている」


突然、彼は言った。なにを言っているのか?私の目が綺麗?そんなことあるはずがない。だって、わたしの目は悪魔の目だから。

私は咄嗟に目を手で覆い隠す。


「ははっ。隠さなくていいんだ。僕は君のその瞳をもっと見ていたいんだ」


彼は私の頭を撫でる。


「君の瞳は、夕日のようだ」


ガシャン!


突然、高い音が響く。私は驚いて見る。すると、私をここに縛り付けていた鎖が切断されていた。


彼が私を持ち上げる。そして、私に布をかけてくれた。それは、少し暖かかった。


「これ、君の大切なものだろう?」


彼はマーシャを拾い上げる。

マーシャ。私はなぜだか目が熱くなる。


「うん…」


涙がこぼれた。



しばらく歩いていると、彼は言った。


「君に名前をつけてあげよう」


「綺麗な名前がいいよね。じゃあ、君の名前は…ヴァルキリア!ヴァルキリアだ」


そうして、私の顔を覗き込んで笑った。
























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