ヴァルキリア
今回は2話でのヴァルキリアの話を少し詳しく書いたものです。
視点はヴァルキリアです。
いつ書くかで迷っていたのですが、夢の話が中心なので今でもいいかな、と思いました。
『不浄の子』『悪魔の目』物心つくころから私は自分がそう呼ばれていることを知っていた。私は、屋根のない外で足に鎖を繋がれていた。
他の子は屋根のある家で温かい料理を食べているのに。なんで?
私の食べるものは、1日1度のパンだった。それだけでも、私にはご馳走だ。もらえない日もあるのだから。
村の子供たちは私には決して近づかない。食事を持ってくるのは決まって子供だった。その目は何か汚いものを見るような細く鋭く、冷たいものだった。
他の子供はお母さんとお父さんがいるのに、なぜ?
私はずっと1人だ。遠い記憶の中に微かにお母さんの背中が見える。ただ、それだけだ。私はここから動くこともままならない。ただ、私にも心を許せる相手がいた。それは、熊のマーシャ。ぬいぐるみだ。片腕は壊れ、中の綿が溢れ出ていた。それでも、ずっと私のそばに居てくれた大切な家族だ。
ある日、私の周りには大人の男の人が集まっていた。
「悪魔め」
そう言って私は蹴られた。それを合図にあらゆるところから足や拳が飛んでくる。
痛い。痛い。痛い。
私は死んでしまうのでしょうか?私は悪い子なのでしょうか?この目がいけないのでしょうか?
私は、紅い目をしているそうだ。水溜りに映る自分の目を見たこともある。この穢れた目のせいで…。
それから毎日、私は痛めつけられ続けた。
痛い。雨が降ると傷口がしみる。
なんで私はこんな目に遭うの?もう、涙すら私の目からは流れない。
ある日、何時ものように痛めつけられていると、異変は起こった。
1人の旅人のような男の人が現れた。
「おい、なにをしているんだ?」
「あ?なんだてめぇ」
私を殴っていた1人が答える。
「人を探しているんだが、この辺りに紅い目をした少女がいるとか」
え?今、なんて言った?紅い目って言った?それは、私のこと?
「だったらなんだってんだ?」
「その子に合わせてくれないか?」
「は?そいつならここにいるぜ」
そう言うと男は私の首をつかんで持ち上げた。首がしまって苦しい。
「おい」
旅人のような男の人の声が変わった。最初は優しそうな声だったが、今は違う。どこか重く、恐ろしい。
私の首をつかんでいた男の腕が、男の体から切断される。
「は?」
男もなにが起こったかわからないようだ。私をつかんでいた腕がボトリと地面に落ちる。私は苦しさから解放された。
「は?え?なんで?」
男からは血が吹き出している。私にも血がかかってしまう。生暖かく、ドロリとしている。変な臭いも立ち込めている。男は倒れた。
「てめぇ、なにしやがった!」
私を殴っていた男の1人が叫んだ。
旅人のような男の人は少しずつ私に近づいてくる。
「おい!」
それだけ言うと男の腕も切断されていた。
「は?」
先ほどの男同様、血を吹き出している。ショックのあまりか、その男も倒れた。
「は?やべえって。おい!」
私を殴っていた男の1人が家々の方に走っていく。他の人もそれに続いた。
旅人のような男の人は、倒れていた男たちに向かって何かをした。すると、男たちから溢れていた血は止まっていた。
「「「うおおおおおおお」」」
向こうから剣やら斧やらを持った男らが走ってくる。さっき逃げて行った男らが通報したようだ。
旅人のような男の人はどこからか剣を取り出した。
近付く人を容赦無く斬りつけてゆく。赤い鮮血が飛び散る。私は、その光景に高揚感を感じた。
あの男たちが、私を殴っていた男たちがやられていく。
それは、神の裁きだとでも言うように。
火を纏ったナイフが私のすぐ横をすり抜けてゆく。
そのナイフを投げた男に、旅人のような男の人はどこからか火の矢を取り出して放った。
そうして、旅人のような男の人以外、誰も立っていなかった。
「僕はマルクス。さて、君の名前は?」
マルクスと名乗る男は、優しく微笑みながら言った。
早く言わなきゃ、殴られてしまう。いつも、そうだったから。
「う、う…。私は…名前も…ありません」
私には名前がなかった。大抵は『悪魔』などと呼ばれていただけだ。
「君は綺麗な瞳をしている」
突然、彼は言った。なにを言っているのか?私の目が綺麗?そんなことあるはずがない。だって、わたしの目は悪魔の目だから。
私は咄嗟に目を手で覆い隠す。
「ははっ。隠さなくていいんだ。僕は君のその瞳をもっと見ていたいんだ」
彼は私の頭を撫でる。
「君の瞳は、夕日のようだ」
ガシャン!
突然、高い音が響く。私は驚いて見る。すると、私をここに縛り付けていた鎖が切断されていた。
彼が私を持ち上げる。そして、私に布をかけてくれた。それは、少し暖かかった。
「これ、君の大切なものだろう?」
彼はマーシャを拾い上げる。
マーシャ。私はなぜだか目が熱くなる。
「うん…」
涙がこぼれた。
しばらく歩いていると、彼は言った。
「君に名前をつけてあげよう」
「綺麗な名前がいいよね。じゃあ、君の名前は…ヴァルキリア!ヴァルキリアだ」
そうして、私の顔を覗き込んで笑った。