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言霊少女  作者: 奈魅弧
9/11

告白

目の前の少女が、酷く怖い。

『私は、言霊少女プロジェクトNo.002。個体名称はニーナ』

言霊少女プロジェクト?

クラルの耳を押さえる手を、退かした。

それと同時に背後にいたハルも、耳から手を離した。

『何を命令された』

律儀に答えはしないだろうけど。

『宣戦布告』

それは、どういう事だ?

鳴子は、何を企んでいる?

『私たちは、貴女たちに、宣戦布告する』

ニーナは、そう書いた紙を残して去っていった。

「クラルっ!」

夥しい量の出血。荒い呼吸。

視点の定まっていない目。

血の気の引いた、真っ青な顔。

頭痛も忘れて、クラルに声をかける。

「死ぬなッ!死んだら私がお前を殺すからな!?生きて…」

クラルは、かすかに笑った。

「ゴフッ…死人、は…殺せ、ねえ…ゴフッ…だろ?」

血を吐きながら、私にそう言った。

「喋るなッ!」

「今、医師を呼んだから」

いつもの落ち着いたハルの声。

でも、少しだけ焦りが混じっていた。

クラルの携帯電話が鳴り響く。

そこに表示される鳴子の名前。

私は、その電話に出た。

『もしもしぃ?どうだった、私の最高傑作は!今日はNo.002を送ったけど、No.002と同等か、それ以上に強い個体が、まだまだ沢山いるよぉ?』

「何のつもりだ、鳴子ぉ!」

私は怒りをぶつけた。

しかし、鳴子はそんなのモノともしない。

『お、ニーナがクラルに何かした?』

「何かも何もっ」

『あれ、殺っちゃった?』

何の感情もないその軽い言葉。

「生きてるっ、けど」

顔の見えない鳴子が、ニヤリと笑った気がした。

『死にかけたんだぁ』

私は唇を噛み締めた。

「弾け飛べ、鳴子」

これで、終わる筈。なのに。

『いきなり物騒なこと言わないでよ、愛ちゃん?』

何故、こいつは死なない。

『私に言霊は効かないよ?それくらい、プログラムに組み込んでるからねぇ。あの時のは演技☆』

ここまで人を、殺したいと思うのは初めて。

「何を企んでる」

低く、尋ねる。

『世界を壊す。みぃんな、殺す』

思わず息を飲んだ。

『止めたければ、おいで。言霊少女プロジェクトが相手するよ』

そこで通話は途切れた。

『クラルは大丈夫?』

痛む頭を押さえながら、紙をハルに見せた。

そこには、知らない人もいた。

「初めまして。愛莉緒さん…でいいかな?僕は佐々木だ。一応医師だよ?」

そんなことを聴きたいんじゃない。

クラルの容態が知りたい。

「クラル、大丈夫」

良かった。

私は力が抜けてしまって、そこに座り込んだ。

心配したんだから。

死んじゃったら、どうしようかと思った。

視界がぼやけた。泣いてるんだ、私。

「愛ちゃん、クラルが好き?」

ハルが唐突にそんなことを聴く。

『それは、どういう意味?』

likeかloveか。

「異性として」

『そんな訳ない。確かにクラルは大事な存在だけど』

その紙を見たハルが、いきなり詰め寄ってくる。

「じゃあさ、俺がもらっても良いんだよね」

ちゅ、と。

唇に、一瞬だけ柔らかい物が押し当てられた。

思考が凍結(フリーズ)して、キスされたと理解するのに時間を要した。

顔が熱くなる。

真っ赤な顔を見られたくなくて、私は顔を伏せた。

「そういう事は、僕のいない所でやって欲しいかな?」

佐々木さんが、苦笑する。

「取り敢えず治療は終わったよ。あとは目覚めるのを待ってあげればいい。あ、一週間は激しい運動をせずに安静に」

そう言い残して佐々木さんは帰った。

今ハルとは二人にして欲しく無いんだけど…

「俺は、愛莉緒が好き」

真っ直ぐに、私を見てそういった。

『ごめん。今すぐは返事、出来ない』

いきなり告白なんてされても、困る。

「クラルは、愛のこと好き、だよ」

ハルに告白された時には無かった、嬉しいという感情が出てきた。

私は誰が好きとか、無い。

だからこの感情は、きっと気紛れ。

そう思うことにした。

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