告白
目の前の少女が、酷く怖い。
『私は、言霊少女プロジェクトNo.002。個体名称はニーナ』
言霊少女プロジェクト?
クラルの耳を押さえる手を、退かした。
それと同時に背後にいたハルも、耳から手を離した。
『何を命令された』
律儀に答えはしないだろうけど。
『宣戦布告』
それは、どういう事だ?
鳴子は、何を企んでいる?
『私たちは、貴女たちに、宣戦布告する』
ニーナは、そう書いた紙を残して去っていった。
「クラルっ!」
夥しい量の出血。荒い呼吸。
視点の定まっていない目。
血の気の引いた、真っ青な顔。
頭痛も忘れて、クラルに声をかける。
「死ぬなッ!死んだら私がお前を殺すからな!?生きて…」
クラルは、かすかに笑った。
「ゴフッ…死人、は…殺せ、ねえ…ゴフッ…だろ?」
血を吐きながら、私にそう言った。
「喋るなッ!」
「今、医師を呼んだから」
いつもの落ち着いたハルの声。
でも、少しだけ焦りが混じっていた。
クラルの携帯電話が鳴り響く。
そこに表示される鳴子の名前。
私は、その電話に出た。
『もしもしぃ?どうだった、私の最高傑作は!今日はNo.002を送ったけど、No.002と同等か、それ以上に強い個体が、まだまだ沢山いるよぉ?』
「何のつもりだ、鳴子ぉ!」
私は怒りをぶつけた。
しかし、鳴子はそんなのモノともしない。
『お、ニーナがクラルに何かした?』
「何かも何もっ」
『あれ、殺っちゃった?』
何の感情もないその軽い言葉。
「生きてるっ、けど」
顔の見えない鳴子が、ニヤリと笑った気がした。
『死にかけたんだぁ』
私は唇を噛み締めた。
「弾け飛べ、鳴子」
これで、終わる筈。なのに。
『いきなり物騒なこと言わないでよ、愛ちゃん?』
何故、こいつは死なない。
『私に言霊は効かないよ?それくらい、プログラムに組み込んでるからねぇ。あの時のは演技☆』
ここまで人を、殺したいと思うのは初めて。
「何を企んでる」
低く、尋ねる。
『世界を壊す。みぃんな、殺す』
思わず息を飲んだ。
『止めたければ、おいで。言霊少女プロジェクトが相手するよ』
そこで通話は途切れた。
『クラルは大丈夫?』
痛む頭を押さえながら、紙をハルに見せた。
そこには、知らない人もいた。
「初めまして。愛莉緒さん…でいいかな?僕は佐々木だ。一応医師だよ?」
そんなことを聴きたいんじゃない。
クラルの容態が知りたい。
「クラル、大丈夫」
良かった。
私は力が抜けてしまって、そこに座り込んだ。
心配したんだから。
死んじゃったら、どうしようかと思った。
視界がぼやけた。泣いてるんだ、私。
「愛ちゃん、クラルが好き?」
ハルが唐突にそんなことを聴く。
『それは、どういう意味?』
likeかloveか。
「異性として」
『そんな訳ない。確かにクラルは大事な存在だけど』
その紙を見たハルが、いきなり詰め寄ってくる。
「じゃあさ、俺がもらっても良いんだよね」
ちゅ、と。
唇に、一瞬だけ柔らかい物が押し当てられた。
思考が凍結して、キスされたと理解するのに時間を要した。
顔が熱くなる。
真っ赤な顔を見られたくなくて、私は顔を伏せた。
「そういう事は、僕のいない所でやって欲しいかな?」
佐々木さんが、苦笑する。
「取り敢えず治療は終わったよ。あとは目覚めるのを待ってあげればいい。あ、一週間は激しい運動をせずに安静に」
そう言い残して佐々木さんは帰った。
今ハルとは二人にして欲しく無いんだけど…
「俺は、愛莉緒が好き」
真っ直ぐに、私を見てそういった。
『ごめん。今すぐは返事、出来ない』
いきなり告白なんてされても、困る。
「クラルは、愛のこと好き、だよ」
ハルに告白された時には無かった、嬉しいという感情が出てきた。
私は誰が好きとか、無い。
だからこの感情は、きっと気紛れ。
そう思うことにした。




