不思議な人
玖羅瑠が連れてきたアパート。
そのドアを開けたまま私は固まる。
何故なら、1人暮らしだと鳴子に聞いていたのに、少年がいたからだ。
部屋、間違えたんじゃ......
そんな淡い期待を込めて振り向けば、玖羅瑠が平然と立っていた。
「どうした?早く入れ」
期待はあっけなく壊される。
つまり、どういうこと?
その辺の事情は後でじっくり聴くとしよう。
少年は奥のリビングで寛いでいたので、そぉっと入る。
しかし、何かにつまづいて転んでしまう。
それはそれは大きな音が鳴った。
床を見ればもので溢れていた。
うわぁ。
「その子が浜井の作品?」
「そうだ」
作品。そうだ、私は人間では無くモノなんだ。
理解していても、他人の口からそれを言われるのは辛い。
少年は振り返る。
深海色の髪に緑に輝く瞳。
華奢な身体と整った顔立ちのため、少女に見えなくもない。
「おれ、ハロルド。ハルって呼んで」
私は急いで神とペンを持つ。
『私、愛莉緒。言霊使い』
「だから喋らないんだ」
ハルは無表情にゆっくりとした口調で話す。
あ、そうだ。
『1人暮らしって鳴子に聞いてた』
「浜井に内緒で暮らしてんだから、浜井が知らなくて当たり前だ」
『何故秘密?』
秘密にする理由なんて、なさそうなのに。
「ハルは殺し屋。俺はその殺し屋から標的を守る狩人。立場が真逆なんだ」
今さらっととんでもないこと言ったぞ。
殺し屋、だと!?
よくみれば床のものは全部武器っ!!
ナイフやら拳銃やら日本刀やらが床にばら撒かれている。
拳銃、安全装置ついてるよね?
「言霊か。殺し屋にならない?」
「やらせるかっ!!」
ハルからまさかの殺し屋勧誘。
玖羅瑠が断ってなくても断ってたよ!?
......多分。
「くら、そんなに愛ちゃんが大事だったんだ」
くらとは玖羅瑠のことだろう。
愛ちゃんは私、か。
「そーゆーのじゃない!誰がこんな人工天才.....」
私は人間になりたいのかも知れない。
人工天才と言われただけで、涙を零すなんて。
「くらが女の子泣かした」
「元と言えばハルが原因だ。悪かったって、泣くなよ…」
私は涙を拭った。
『私、何故泣いたの?』
人間になりたかったから?
違う。私はなりたいなんて思ってない。
「くらに恋愛対象として見られてないから?」
「機械扱いしたから?」
解せない。わからない。
というか玖羅瑠は泣いているわけもわからないのに謝ってたのか。
ハルの言うとおりであれば、私は玖羅瑠が好きということになるのでは?
ああ、頭が爆発しそうだ。考えすぎて。
「泣き止んだか?」
私は頷く。
ハルは相変わらずの無表情で私の頬を、指の背で撫でた。
何を考えているか、わからない行動。
「笑顔の方が可愛いと思うよ、泣き顔より」
そのハルの一言で、私の顔は赤く染まる。
「何やってんだ、ハル」
玖羅瑠が少しそっぽを向いて聞く。
「妬きもち」
「はぁっ!?」
私はそんな光景に微笑んでしまう。
「ふふっ」
2人とも私の顔を見て固まる。
私はきょとんとする。
だって顔に朱が差している。
玖羅瑠は俯いた。
「笑顔、やっぱり可愛い」
「愛、そんな顔で笑うんだな」
そういえば、初めて笑った。
『笑うの、初めて』
私はそう書いて見せる。
「じゃあおれら、一番目に笑顔みたんだ」
ハルはそう言って、私の頬を撫でたりつねったりして弄ぶ。
考えのわからない、不思議な人だ。




