鳴子は笑う、私は泣く
私には、誰かを愛せる自信が無い。
だって私は天然物じゃない。人工物だから。
『ハルは、私の何処が好きなの?』
こんな、私の。
「素直で、可愛い」
これには思わず赤面する。
「ん…あ、い?」
この声は、クラル。
私の頰は自然と緩む。
『よかった、起きたんだ』
クラルも優しく微笑み、上半身を起こした。
『クラルは、私のこと、好きなの?』
高鳴る胸の鼓動が今にも聞こえそうで。
「へ!?え、それは…どう言う」
『Loveのほう』
そうして動揺することは、予想していた。
私が真っ直ぐ見つめていると、観念したのか真っ赤になって俯いた。
「す、好き…だよ」
ああ、その言葉を聞きたかった。
嬉しい。嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい。
どうしようもなく嬉しい。
やっと気付いた。私はクラルが好きなんだ。愛おしくてたまらないんだ。
私は思わずクラルに抱き着いた。
そしてその耳元に、優しく囁く。
「ありがとう」
これだけは、自分の口で言おう。
筆談じゃなく、自分で。
「私もクラルが好きっ!」
クラルの後ろでは、ハルが淋しげに笑っていた。
「ハルも好きだよ。likeの意味で」
そう言うと、ハルは目を丸くしたが直ぐにまた笑った。
今度は淋しげじゃない。
この幸せを、鳴子は壊しに来るだろう。
私は、なんとしてでもそれを止めたい。
でも、クラルたちには迷惑を掛けたくない。だから私は、1人で鳴子に立ち向かう。
待っててね、クラル。
必ず止めてみせるから。
君だけは、殺させない。例え私が死んだとしても。
その夜、私は家を抜け出した。
ハルの部屋から、M1911というらしい軍用自動拳銃とククリナイフを拝借した。
そっと鳴子のアジトに忍び込む。
そこは、真っ白な廊下がただただ伸びていた。
監視カメラに細心の注意を払いながら、慎重に進んでいく。
おかしい。監視カメラはあるが、警備が薄すぎる。まるで、誘い込んでいるようだ。
しかしまあ、広い。
一本道だけど、ずっと進んでいるのに何もない。
疲れた。壁にもたれかかる。
そうだ、壁。壁に何かあるのかも。
そう思い至り、壁を調べていく。
トントン、と叩いていくと、一箇所だけ音が違う。
そこを、思いっきり蹴った。
ガコンッ
壁が外れた。
そこは部屋になっていた。
とても広く、横には同じ顔の少女が並んでいた。
恐らく彼女たちは、言霊少女プロジェクト。
奥────150㍍程先────には、白衣の鳴子が椅子に座っていた。
「ようこそ、私の研究所へ。来ると思っていたよ」
真っ赤な紅を引いた唇が、弧を描く。
ゾッとする位美しく、鳴子は微笑んだ。
眼鏡の奥の瞳はとても冷たく、私を見据えていた。
「No.1〜No.50、起動。言霊少女プロジェクト試作品愛莉緒を排除せよ」
無機質な声で、言霊少女たちに命令した。
頭痛なんか、もういい。
私は鳴子に話し掛ける。
「この世界を壊して、何の意味がある!?やめろ、鳴子!」
しかし鳴子は辞めない。
立ち向かってくる言霊少女たちを相手にする。
狙いを定めて、彼女らの急所、胸の中心を撃った。
それが急所だと分かるのは、私も同じだから。
全て命中する。
反動で腕が外れそうになるが、気にしていられない。
ある程度撃つと弾切れを起こした。
舌打ちしながら、ククリナイフで応戦。
彼女たちは素手で向かってきている。
それでも充分強いもので、私は苦戦する。
一斉に襲ってくるので、押し切られそうだ。
1人がナイフを持っていないほうの、私の手首を掴んだ。
しまった、と思ったが、遅い。
あっと言う間にナイフを奪われた。
私には徒手格闘の心得がない。
「ぐぁっ!」
思い切り、腹を蹴られた。
掴まれていた左手は、動かない。
倒れ込んだ私の足を踏み付けるのは、誰?
視界がぼやけている。
「ごめん、ね…クラル…私、もう無理だよ…」
足は既に変な方向に曲がっている。
遠ざかる意識の中で、私は鳴子の不敵な笑みを見た。
私、このまま殺されるのかな。
もういいや。もう、疲れた。
でもせめて、クラルとハルには生きてほしいな。
私を愛してくれた、二人。
情けないな、こんなにも愛おしい世界を、私1人で守れる訳ない。
ああ、涙が、溢れる。
生きたい。生きたいよ、クラル。
助けて。




