表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

作戦会議

 七階のスカイ・レストランの一角に、三人の女性の姿があった。平日の午後三時を過ぎたころということもあり、彼女達の周りには少し離れた所にビジネスマンスタイルの男性が一人で座っているくらいだ。


 彼女達は額を突き合わせて、何やら熱心に話し込んでいる。どこからどう見ても女性にしか見えない三人組。しかし、何を隠そう彼女達は──いや、彼女達と彼と言うべきだろう──読者様のご察しの通りジークとレイ、そして今回の依頼人であるジャネット=アクセルロッドなのだ。


 レイは周りに人がいないのを確認すると、主にジャネットに向かって──元々、計画の発案者はジークなのだから、ランに向かっての説明は要らないだろう──説明を始めた。


「とりあえず、タイムリミットは明日だから作戦の決行は今日よ。予告状は昨日のうちに私が直接届けておいたわ。下見はランちゃんと一緒にここにくる前に済ませておいたの。

 それにしても……」


 レイは眉をひそめて、ジャネットにささやく。


「この国の軍部って、孤立してるの?予告状送りつけたのに警察なんか一人も見かけなかったわよ?ま、もっとも私達がなめられてるだけかもしれないけどね」


 レイが少し自嘲気味に微笑む。ジャネットが慌てて答えた。


「い、いえっ、そんな事ありませんよ!お二人の名声はよくお聞きしましたし、だからこそ私もお二人に依頼したんです。ただ……」


 ジャネットが声を落とす。


「ただ、軍部が警察を呼ばない理由はわかります。我が国の軍部は、レイさんのご察しの通り、他の政府機関から完全に孤立しているんです。国家をまとめる存在の大統領ですら、軍部の内部情報を完全には把握し切れておらず、独立した機関になっているのです。

 特に、国内の治安を守る警察、軍部の兵器について意見を出す研究者とは激しく対立をしているのです」


「そうだったの……」


 レイはぼそりと呟く。ジークは先ほどから黙って笑っているままだが、握り締めた拳が白くなっている事を考えると、腹の中は煮えくり返っているのだろう。彼は独裁政権をつかさどるような政治家が大嫌いなのだ。


「それでも、軍部の上役にも現状について反対意見を持っている方もいらっしゃいますので、トップさえ警察に引き渡せば、軍部の独立性は多少なりとも改善されるはずだと思います」


 ジャネットの言葉で、三人の間に沈黙が流れる。最初に口を開いたのはジークだった。もちろん、女の子の口調だが。


「そんな事、今うじうじ考えてたって仕方ないじゃない。それよりも今夜の事の方が何倍も大事よ?今日失敗したら、もうチャンスは無いんだから」


 レイもコクリとうなずく。


「そうそう。まずは機密文書を取り返すことが先決よ。

 それで、まずは作戦についてなんだけど……。実際に内部に踏み込むのは、ランちゃんと内部情報に詳しいジャネットちゃんでお願いね。私は外部で待機して、二人を誘導するわ」


 ジークも、なんだかんだ言って結局は作戦を考えているのだ。だからこそ、レイも安心してコンビを組んでいられる。


「大切なのは、絶対に無理しないこと。ランちゃんはともかく、ジャネットちゃんは絶対に顔を見られちゃいけないんだから、ダメだと思ったら直ぐに助けを呼ぶこと。これだけは絶対に守ってね。

 あと、ランちゃんが個人的に助っ人を一人頼んだらしいから、そのあたり知っといてね。あぁ、大丈夫よ。私も知ってる仲だもの」


 ジャネットが怪訝けげんそうな顔つきでチラリと見たので、レイは慌てて一言付け足す。それを聞いて、ジャネットは安心したようにうなずいた。


「さてと、大まかな説明はこれでおしまい。後はランちゃんの指示があると思うから、その場その場で従って頂戴ね」


「はい!」


 ジャネットは意気込みを感じさせる声で返事をする。


「さて、せっかくこんなレストランに入ったんだから、何か食べていきましょうか?」


 レイの提案に、ジークが目を輝かせる。女の子のふりをしていても、食欲だけは誤魔化ごまかせないようだ。


「はいはい!エリさんっ!えーと、私コレとコレとコレね!」


 メニューを開いて指し示したのは、どれも主食級の物ばかり。レイは早くも胸焼けを感じた。


「ジャネットちゃんは何にする?遠慮しないでね」


「あ、じゃぁスパゲティセットを……。お昼まだでしたんで」


「そう。じゃ、私はケーキセットにしようかしら。あのー、すいませーん!」


 ウェイターがアタフタと飛んでくる。彼は美女三人の視線を一身に受け、耳の後ろまで赤くなっていた。その中の一人は男だということも知らずに……。


 何はともあれ、三人は少しばかり遅い昼食(?)をとったのであった。なぉ、ジークの食べっぷりは、そのレストランのウェイターの間で、しばらく伝説となったらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ