すべての終わり
「スミス警部。全員、大怪我を負ってはいるものの、命に別状はない模様です」
「分かった、ご苦労だった。それにしても……、一体これはどういうことなんだ?」
部下から報告を受けて、おおがらな警部、スミスがぼやいた。
──警察にかかってきた、一本の匿名の電話。
──今すぐ、政府軍総本部に行ってみぃな。おもろいもんが見れんで──
独特の訛のある話し方。変声機で声を変えていたからはっきりとは断言できないが、おそらくジークだろうとスミスは推測した。仮にジークならば、嘘の情報を警察にもらすわけがない。追う者と追われる者、両者の間には不思議な関係が生まれていた。
総員をかき集めて急行した彼らは、目前に広がる予想以上の光景に、ただただ息をのむばかりだった。
いまだに火薬の匂いの立ちこめる中に、自分たちの血液で真っ赤になった兵士、およそ四十人あまりが、そこら中でうめき声を上げていたのだ。
驚くべきはその肩の銃創だ。
派手な出血と激痛の割に、誰一人として致命傷を負ってはいないのだ。確かに銃弾はあやまたず肩関節を撃ち砕き、その腕を機能させなくしてはいる。しかし、動脈も神経すらも傷つけることなく、弾丸は肩を貫通しているのだ。正確無比な狙いと、絶妙な射出角度。さらに緻密な知識が揃って、初めてなせる業。まさに神業と言える。
とりあえず救急車を手配し、彼らは施設の奥へと入っていく。そして、ある一つの部屋の扉が開いているのに気づき、その中を覗き込んだ。
そこにアルバートはいた。彼は椅子に座らされていた。右肩を撃ち抜かれ、血を流しながら、力なく机の上に倒れ伏している。その頭のすぐ横には、例のカセットテープが、何度も何度も同じセリフを繰り返し続けていた。
警官の一人が急いでアルバートのそばに駆けつける。
「スミス警部、まだ命はあります。ただ眠らされているだけのようです」
警官がスミスに報告する。なるほど、たしかに額には麻酔弾のようなものが突き刺さったままになっていた。
「よし、分かった。先に手錠をかけておけ。逃げられてはかなわん。その後で、ほかの者と同様に救急車に乗せていけ」
「はい」
スミスは、カセットテープを手に持ちながら、にやりと笑った。そして、ぼそりとつぶやく。
「まったく、ジークも味なことをやってくれるもんだな」