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アルバート=シュヴァルツの誤算

 施設内のとある部屋。分厚い絨毯が敷き詰められ、真ん中には上等なソファーが、輝かんばかりに磨かれた机を挟んで両側に置かれている。隅には観葉植物が緑の葉を茂らせ、その部屋の奥には、どっしりと重そうな机が備え付けられている。


 そこにふんぞり返って腰掛ける一人の初老の男。アルバート=シュヴァルツである。彼こそ今回の黒幕、ジークと敵対している人物だ。彼は手元に置かれたCDロムを眺めながら、満足そうに口元を歪ませてにたりと笑った。


「ククク、これさえ手に入れば、全世界を私の足下にひざまづかせることができる。かつてあらゆる英雄が挑んでは到達できなかった千年王国を我が物とするのだ」


 アルバートはそう独り言を言った。しかし、苦虫を潰したようにすぐに顔をしかめる。


「しかし、研究者どもも下らんことを考えたものだ。策略を重ねてようやく手に入れたと思えば、重要なプログラムがぬけ落ちていて使えないとは。まぁ、どのみち近いうちに完成するのだがな」


 アルバートは再びにたりと笑う。まったく、独り言の多い男だ。一人で笑って、気味の悪いことこの上ない。


 しかし、その笑い顔もそこまでだった。突然、館内に非常ベルのけたたましい音が騒然と鳴り響く。突発的な出来事に、アルバートは顔色をなくして一瞬その場に凍りつく。


 が、すぐさま我に戻り、電話の内線ボタンを押して怒鳴るように通信する。


「おい、どうなってるんだ!説明しろ!」


『そ、それが……』


「一体何なんだ!はっきり言わんか!」


 アルバートに怒鳴られて、内線から聞こえる声の調子が怯えたように変わる。


『すいません、メインサーバーに何者かが侵入したようです!セキュリティーシステムのプログラムが書き換えられているのです!』


「なんだとぉっ!?逆探知はっ!?」


『はっ!それが、この施設内のパソコンからなのです!』


「なにぃ?まさか、あのアマ……!モニター室の連中は一体何をやってるんだっ!」


 口角泡をとばしながら、叫ぶアルバート。先ほどまでの温厚そうな口調からは考えられないほどの変わりようだ。応答している兵士がかわいそうになってくる。


『先ほどから呼び掛けているのですが、返答がないのです』


「なんだと……?すぐさまモニター室に直行しろ!俺も直ぐに向かう!」


 アルバートは通信を中断すると、机の引き出しから自動式拳銃オートマチックを取り出し、ズボンの右ポケットにねじ込んだ。椅子から立ち上がり、廊下へ出てモニター室へ急ぐ。自ら確かめに行くというのは、まがりなりにも元軍人であった頃の名残であろうか。


 五つの扉を過ぎた所が、目的のモニター室だった。しかし、その部屋の扉の前には先にたどり着いていた兵士が二人、足止めを食っていた。


「お前たち、そんなところで何をしているんだ。さっさと中に入らんか!」


 アルバートの声に、兵士が振り返って敬礼をする。


「申し訳ありません。モニター室の扉にロックが掛かっていて、私たちでは開けることができないのです。マスターキーならば可能だと思いますが……」


「何だと……。分かった、そこをどけ」


 アルバートは上着の内ポケットからカードキーを取り出すと、扉の横に設置されているカードリーダーに通した。電子音が鋭い音を立てて鳴り、扉が開く。


「な、これは……?」


 急いで中に入った三人は、室内の惨状に愕然とした。モニター室にいた七人の男が全員床の上に倒れているのだ。兵士が慌ててその元へ駆け寄る。わずかに残った刺激臭が、かすかに三人の鼻をついた。


「アルバート様、全員命に別状はありません。ただ、睡眠薬のようなもので眠らされているようです」


 兵士の一人が、仲間の体を起こしながらアルバートに報告する。しかし、アルバートの視線はすでに別の場所に釘付けになっていた。


「畜生っ!ジークのヤツ、まだ生きていたのかっ!

 命に別状がないなら、眠らされている奴に手を貸す必要などない。今すぐ総員、現場へ急行させろ!もう許さん。女ともども発見次第、皆殺しにしてしまえっ!」


「はっ!」


 二人の兵士が伝令のために、駆け出していく。アルバートは怒りに肩を震わせ、ゆっくりとモニター室を後にした。


 暗い室内で、薄ぼんやりと光るモニター。そこに残されていたのは、『ジーク参上!獲物は頂いた!』という大きな落書き。そして監視カメラの一つには、廊下を得意げに笑いながら疾走する、ジークとマクレガーの二人の姿が映されていた。

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