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プロローグ

 ジリリリリリリ…………………


 深夜の美術館に警報装置のベルが鳴り響く。警戒していた多数の警察官が一気に色めき立つ。


「侵入者だ!予告通りヤツが来たぞ!今度こそ取り逃がすな!」


 けたたましい音を立てて防火壁が次々と閉まってゆき、侵入者の脱走を妨げようとする。1枚3トンもするという鉄の板だ。どうやったって人間の力で持ち上がる訳がない。


「スミス警部、全館封鎖完了いたしました。ネズミ1匹逃げでるすき間もありません」


 1人の警官が大柄な男に報告する。スミスと呼ばれた男はその報告にうなずいた。


「うむ、ご苦労だった。しかし相手はあのクソ野郎だ。ゆめゆめ油断するなよ」


「はっ、了解しました。失礼します」


 警官は敬礼をして、スミスから離れて行こうとした。


「ちょっとまて。」


 突然スミスに呼び止められて、警官はわずかながらびくっと反応した。いつの間にか、スミスの片手は警官の右肩の上にのせられている。


「おいおい、どこに行こうと言うんだ?そっちにはお前は行ってはいけないはずだぜ……?

 久しぶりだな、ジーク」


「い、いったい何の事でしょうか?ジークと言われても私にはさっぱり……わ、悪い冗談はよしてくださいよ、まったくぅ。ははは……」


 スミスに肩をつかまれたまま、警官はじりじりと後退する。顔は笑っているが、その笑い声は明らかにかすれていた。


「ふん、往生際が悪いぞ、ジーク。なるほど、上手く化けたもんだが俺に通用するものか。盗人には盗人の臭いってもんがあるんだよ。

 さて、今日こそ年貢の納め時ってやつだ。観念かんねんしやがれっ!」


 甲高い金属音とともに、ジークの両手に手錠がかけられた。


「あっちゃぁ……。ばれとったんか。今回の変装は上手いこといったから、スミスのおっさんからかって行こ思とったんやけど……

 それにしてもクソ野郎とは心外やなぁ。俺とおっさんとの仲やのに……」


 手錠をかけられたのにも関わらず、ジークは相変わらずひょうひょうとしている。


「ぐふふ……。ジーク、もう終わりだ。おとなしく逮捕されろ」


「悪い、スミスのおっさん。今日はかまってやれる時間はあいにくないんや。俺にも都合ってもんがあるさかいな」


 ジークはしゅたっと右手を挙げると、さっそうと走っていった。いつの間にか手錠は外れていた。


「ぐぬぬ……、ジーク!いつの間に手錠を外しやがった!?

 今日こそは逃がさんっ!まてぇっ!?どわぁっ!」


 ジークを追って走りだそうとしたスミス警部はいきなりもんどりうって倒れた。いつの間にか、両足首にジークにかけていたはずの手錠がかかっている。


「じゃあな、スミスのおっさん!」


「まてえっ!!ジークッ!!」


 後ろでうなっているスミスをしり目に、ジークは廊下を走った。走りながら、ジークは顔に手をかけてマスクをぎ取った。前方に、黒ずくめの女性が立っている。背中に少し大きめの四角い荷物を背負っていた。


「悪い、待たせたなレイ」


「まったくよ、捕まったんじゃないかって心配したんだから。ま、あなたに限ってそんなことはないでしょうけどね」


 ジークが声をかけたその女性は、切れ長の目に流れるような黒髪を持つ美女だった。ジークはそれに苦笑いで答えた。


「スミスのおっさんとゴタゴタしとってな。まぁ細かいことは後回しや。盗るもんは盗ったか?」


「モチロン♪」


 ジークがおとりになった隙にレイがしっかり働いていたようだ。


「そーか、ほな脱出や。レイ、しっかりついてこいよ」


 ジークは窓ガラスを突き破って外に飛び出した。ガラスの破片がライトに照らされ、キラキラと光り輝く。ちなみに言っておくと、ここは5階である。その後にレイと呼ばれた女性も続く。2人は空中で小型ハンググライダーを背中に展開させると、宙を滑空した。


 照明に下から照らされて、2人の影が夜空に黒く浮かび上がる。後ろを振り向くと、スミス警部が手を振り上げて何かを叫んでいる。


「じゃあな!!『ルノールの泉』はもらっていくでぇ!!」


大勢の警官たちを尻目に、2人の影はあっという間に夜空のかなたに消えていった。

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