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プロローグ

――わずかに動く右腕で小型のマシンガンを携え、トリガーに人差し指をかけながら距離を詰めた。自分の思うがままに動く蒼の巨人を操り、同等の体格を誇る黒い人型のものに決定打を与えるためである。左腕は大破し残る右腕も動きがぎこちないなか、とる方法は特攻であった。相手より早くトリガーを先に引くことが必勝条件のこの状況下で黒い人型の敵は飛び道具を所持していないことが逆に焦りを生み出したのだ。


 敵の何も持っていないはずの右腕が上がった瞬間、自分の迂闊さに気付くことは死を意味した。ついに自分にも死の瞬間の訪れを予期し、目を閉じながらもトリガーを引くのを止めなかった。


――その刹那、傷一つ見えない純白の機体が流れるような線を描きながら移動し、それと同時に敵の右腕が落ち、自分の操る蒼の巨人の右手に握られているマシンガンが高らかに銃声を上げていた――黒いキャンパスに無数の風穴をデザインしたのである。


 一歩間違えれば自分が無数の風穴というデザインのためのキャンパスとなっていたことだろう。それほど極限の戦闘を強いられたのだ。しかしそれはこの蒼の機体の性能が劣っているわけでも、黒い人型の敵機の性能がこちらより高いというわけでもなく、自分自身の力不足が原因なのだろう。


 しかし、死ぬ訳にはいかなかった。生き延びるための理由がこの何週間かでいくつもできてしまったことで自分の強さと弱さが拡張し、楔のように自分自身に刻まれることだろう。


 数秒前とは同じ場所とは思えないほど静まり返ったこの緑生い茂る町は、以前自分が住んでいた町に良く似ていた。そして、瓦礫の山と無数にあがる硝煙は全く同じかたちで再び姿を現した。


 その悲惨な景色を生み出したのは他でもない、自分であることを十分に理解しながらも、一分一秒でも長く生き延びようとさせる理由。


 鉛のようにずしりとのし掛かる精神的なものたちを慣れてしまうほど強く、何事も投げ出すほど弱い人間の心は果たして、本当に強く、弱いものなのか、そもそも自分以外は心を持っているのか、もしも自分以外が持っていないものならば自分ごときが持っているはずがない。自分は心を持っているのだろうか。自分は存在しているのだろうか。


 もう半分以上沈んだ夕日が疲労を再認識させ、自分に前を見据えさせる。


 少し前のことが昔のように感じられる。住んでいた町や蒼の巨人との出会い、そして、大切なものを見つけたあのとき……


 少なくとも自分自身のなかでは始まっていた。



 自分でもわからないほど突然、ゆっくりと…………


 地球を守るのほど壮大なことではなく、自分を、自分自身を守るための戦いの幕が上がっていた。

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