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妹可愛さに家を出た  作者: 赤雪トナ
家出前
3/19

ファンタジーといえばこれ

 九才になった。

 勉強は難しくなってきたし、社交界にも何度も行った。相変わらず、屋敷を抜け出してもいる。

 演技もこなれた感がある。屋敷内での評判は微妙なものになっている。昔の素直な若様が懐かしいと良く聞くようになった。礼を言わなくなったりしてるからね。

 狙い通りだ。このまま皆が騙されてくれるといいな。


「若様、なに朝から悪い顔なさっているのですか?」

「あ、おはようシャイネ」

「はい、おはようございます」

「皆、上手く騙されてくれてるなと笑いがこみ上げてきたんだ。

 この調子で、皆を馬鹿にした態度でいこうと決意を新たにしていたところ」

「今は私しかいないんですから、演技しなくていいでしょうに」


 この言葉からわかるように、シャイネに演技通じなかった。伊達に何年も俺の世話してるわけじゃないね。

 協力者がいた方がやりやすいよねと思いなおして、シャイネにも協力してもらうことにした。こんな我侭言ったとかほかの使用人に話してもらってる。

 演技がばれた時にどうしてそのようなことをするのか聞かれたから、全部ではないけど理由を話した。話していない部分は、将来家を出るというところ。そこまで話すと反対されるかもしれない。


「外で誰が聞いてるか分からないから」

「跡継ぎの部屋を盗聴しようと思う人は、そうそういないと思います」


 だろうけど念には念を入れてね。

 着替えなどの準備を済ませて、食堂に向かう。

 父さんたちが揃って俺を待っている。八才を過ぎた頃から食堂に来るのは最後になっている。これは時間にルーズと思わせるため。こういったちょっとしたことから、駄目人間だと思わせる努力をしないとね。


「おはようございます」


 それぞれに挨拶を返してくる。

 食事が始まるわけだが、ここは普通に過ごす。以前は食事に文句を言ってみたんだ。そしたら両親が少し笑いつつ怒った後、料理人や料理の材料を代えようかと相談始めた。あまり我侭言う方じゃなかったんで、怒れたのが嬉しかったみたいだ。

 実際は美味しかったんで、たまたま気に入らなかっただけと言い訳して、変更はしないでもらった。以来料理に関しては我侭言わなくなったよ。お気に入りと言ってもいいのに、代えられたら困るの自分だし。


 食事を終えて、自室に戻る。レアも習い事や勉強が始まりだしそちらに時間を取られ、遊んでと言って来ることは少なくなった。友と呼べる子が屋敷に出入りしていることも大きい。相手されないと、これはこれで寂しくある。脳内ハードディスクから以前のレアの様子を引っ張り出し、寂しさを紛らわせていたりする今日この頃。


 勉強の時間が始まる。こっちは特に小細工しなくてもいい。なぜなら普通に苦戦しているからだ。数学方面はなんら問題ないんだけど、地理歴史や文学知識や礼儀作法などがめんどいめんどい。前世じゃどっちかっていうと理系だったからな俺。


 午前の勉強を終えて、昼食を食べ、食休みを終えて、午後からは剣や乗馬の訓練が始まる。

 乗馬に関しても小細工はしていない。ほどほどに腕を上げていっている。ただ馬の世話をある程度するように言われ、渋々といった感じの演技で行っている程度だ。時々こっそりと世話しているので、馬に嫌われてはいないはず。乗ることを嫌がられていないし。


 剣の方は基礎は終えた。今は型の繰り返しと模擬戦が中心だ。

 模擬戦の相手は家庭教師だけではなく、兵たちとも行う。

 初めて戦った時、わざと勝たせるように言われてるんだろうなと思ってた。けどそれは間違いだとわかった。手は抜いていたけど、それは俺を長く戦わせるためだけだった。ある程度戦ったら、あっさりと手から剣を弾き飛ばされ。剣を喉元に突きつけられたのには本当に驚いた。その後も変わらず、ずっと負け続け。少しは手加減しろよと言いたくなった。

 父さんが手を抜く必要はないと事前に言ってたらしい。技量が上の者に勝って、つけあがらないようにという考えだとか。

 まあおかげで、負けが悔しくて訓練をさぼるという演技を行いやすかった。すでに何度かさぼってるので、これで根性なしだと思われただろう。

 たださぼるとその分こっそり自主錬しなくちゃいけなくて、場所を探すのに苦労する。自室での訓練はちょっと無理が出てきだしたのだ。あと一人だと、どこが悪いのか指摘してくれる人がいなくて効率が悪い。どうにかしないとなぁ。

 

 訓練が終わり、屋敷内を歩いている。いつもは本を読んだりして適当に時間を潰してるんだけど、今日は目的がある。

 ホルクトーケ家付きの魔法使いに、魔法を教えてもらいに行くのだ。剣の練習が一段落ついたから、今度は魔法を覚えたいと思っている。父さんには許可をもらっているので、断られるってことはないはず。

 魔法使いに与えられた部屋の前に到着した。扉にはセイルマンと刻まれた銀のプレートが張り付いている。

 ノックをして、返事を待たずに入る。


「若様? 何用ですかな」

「魔法を覚えたい。というわけで教えろ」

 

 礼儀知らずな言い様に、セイルマンの表情に苦いものが浮かんで消えた。近くにいた女の子も驚いている。よし、第一印象悪くなった……ってこれだと断られるかも?

 女の子はセイルマンの孫で、俺より三才上。レアの年の離れた友達でもある。ウェーブのかかった赤毛を背中まで伸ばしている。垂れ目がちで、柔らかい印象を受ける。大きくなったらおっとり美人になりそうな可愛い子だ。


「教えるのはかまいませんが、まずは座学からになりますよ?

 それに当主からの許可も必要です」

「それはもうもらってある」


 断られなくてよかった。心の中でほっと溜息を吐いた。


「そうですか……ミシュ、本を読んで自習していなさい」

「うん」


 ミシュはセイルマンから渡された本を持って、部屋隅にあるソファーに座って本を読み始めた。


「では若様はミシュが座っていた椅子に座ってくだされ」


 俺が座って、セイルマンは話は始める。


「若様は魔法についてどれくらい理解していますかな?」

「魔法という存在があるとしか。

 だから初歩から教えてもらえるとありがたい」

「わかりました。変に知識を持っていないのは、こちらとしても助かります。

 さて若様は魔法と一言で言い表しましたが、魔法には三種類ありましてな。氣術、魂術、霊術の三つですな。

 これらに聞き覚えはありますかな?」


 確かないはずだ。思い出してみようとしても、思い出せないし。

 首を横に振った俺を見て、セイルマンはそうですかと一つ頷いた。


「氣術は自身の魔力と体外の力を混ぜて使います。

 魔力に関して少し話すことがありますが、それは魂術と一緒に話すことにします。

 使い方は混ぜた魔力で術言語と呼ばれる文字を描くことで、効果が発揮されるというものです。

 このように」


 セイルマンが空中に文字を描くと、光る球体が現れその場に浮かぶ。それは十秒と持たずに消えた。


「今のは明りの魔法ですな。

 氣術は三つの魔法の中で、一番多く使われております。一番扱いやすいということです。ですが三つの魔法の中で、一番効果が低いのも氣術です。

 氣術についてはこれくらいですな」


 セイルマンが俺がついてこれているのを確認し、次へと進む。


「次は魂術です。

 ですが魂術のことを話す前に、魔力のことを話すとしましょう。

 魔力にも二種類あるのですよ。基本魔力と根源魔力の二つ。一般的に魔力と言うと、普通は基本魔力の方をさしております。

 氣術は基本魔力を、魂術は根源魔力を使うのです」

「霊術は?」

「霊術も基本魔力を使いますが、使う量は少ないのであまり気にしなくていいのです。

 まあ、ほかに必要なものがありますが」


 なんだろね。霊術の説明時に話してくれるか。


「話を続けますよ。

 えっとどこまで話して……ああ、魂術は根源魔力と体力を混ぜて使います。

 かかる負担は氣術をはるかに超え、一日に二度使えば疲れ果ててしまいます。三度使えば死に至ると言われていますし、実際死人も出ていますな」

「怖いな」

「ええ、使用には注意が必要です。

 一日に一度、安全に使うにはこう考えた方がよろしかと。

 ですが大きな負担がかかるだけの価値はあります。効果の大きさは三術の中で一番、発動にかかる時間も一番ですが」

「かかる時間はどれくらい?」

「最低でも一時間は。最大で一日の準備を必要とすることも」

「戦闘には不向きだ」

「不向きとは言いませんが、きちんと予定立てて使う必要がありますね」


 戦略戦術と組み合わせると、大きな効果を発揮しそうだ。

 魂術の説明はここまでらしく、セイルマンは一端口を閉じた。

 おさらいのように考え、少し疑問が湧いた。根源魔力を使って氣術を使ったらどうなるのかと。

 聞いてみると、使用は可能だとセイルマンは頷いた。


「ですが非効率ですし、危険もあります。

 根源魔力をもっとも効率よく使えるように考え生み出されたのが、魂術ですからね。根源魔力を氣術に使っても必ず無駄になる魔力が発生しますし、制御を失って暴発することもあります」

「それでも万が一の時の手札にはなるか」

「ええ、否定はしません」


 ほかに疑問はとセイルマンが目で問いかけてきて、俺は首を横に振る。


「最後に霊術ですな。

 これは使う魔力が少なく、効果も氣術を上回り、発動も三術の中で最も早い」

「かなり使い勝手が良さ気だね?」

「そうですね、ここまでの説明ならば。

 しかし使うには条件が二つあり、この二つが難物となっております。この条件のせいで使い手は三術の中で一番少ない」


 よほどの条件なんだろうな。どんな条件なんだろうか。


「一つ目は精霊を探し出し、契約を結ぶこと」

「……もしかして精霊の数が少ないから、使い手も少ないってこと?」

「精霊の数自体は少なくないですな。契約してくれる精霊は少ないですが。

 二つ目の条件は霊石を用意すること。

 霊石と少しの魔力を用いて、契約した精霊の力を行使するのが霊術です。

 さてこの霊石ですが、一つで一般家庭の生活費三日分の値段となっております。

 つまり霊術を使いすぎると、自身の懐が寂しいことになるのですよ。

 精霊がみつからない、お金がかかりすぎる。この二つの理由が使い手を減らしている原因ですな」

「ずいぶんと分かりやすい理由だぁ。特に二つ目」


 想像していた条件とは違いすぎたけど。てっきり命を賭けた条件があるものかと。まさかお金が理由になっているとは。


「おや? わかりますか」

「そりゃお金がなくちゃ、できることはかぎられてくるしね」

「その年でお金の必要性を理解できているのですか。

 私など小さいころは、お金がどこから来て、どれほど大事なのか理解しておりませんでしたな」


 怪しまれた? で、でもこの年ならある程度のことはわかっていてもおかしくはないと思う。

 実際九才の頃ってどうだったっけな?

 ……うん! 思い出せないな。ここは言い訳して誤魔化しておこう。


「勉強でそういうことも習っているから」


 こういうのが一番だと思う。屋敷抜け出して買い物に行ったとか言うわけにもいかないし。


「そうですか」


 これは怪しまれてはないかな?

 どうなんだろうか? じっと表情を窺うとさらに怪しまれるだろうから、判断難しい。

 

「話を戻しましょう。

 とりあえず、三つの系統についての大雑把な説明はこれくらいですな。

 これから私が若様に教える魔法、どれを教えると思われますか?」

「どれって氣術だろう?」


 霊術は論外、魂術も最初に習うにしては難易度が高いだろうから。

 対して氣術は広く使用されている。ということはほかの二つよりも習得が容易いということ。


「そのとおり。

 ですからここからの座学は氣術が中心となります」

「わかった」

「まずはそうですね、魔法を使う方法を順序だてて説明しましょうか。わからないところがあっても、とりあえず黙って聞いていてください。いいですね?」


 頷くのを見て、セイルマンは説明を始める。

 

「始めに外の力を取り込みます。次にその力と自身の魔力を混ぜます。それを指先に集めます。その指で術言語を描きます。

 そうするとこのように」


 セイルマンはまた明りの魔法を使って実演する。

 術言語ってのを描くことできれば、魔力を集めるのは必ずしも指じゃなくてもよさげだな。まあ、一番楽に描けるのが指なんだろうけど。


「氣術を使う前にすべきことは、自身の魔力を感じ取る、外の力を取り込む方法を習得する、術言語を覚える。

 この三つです。

 今日は自身の魔力を感じ取るところまでやって終わりとしましょう」


 そう言ってセイルマンは棚から燭台のような物を取ってくる。

 ロウソクの代わりに立方体の無色水晶らしき鉱石が立っている。


「これは魔力量を調べる道具です。

 調べ方は簡単。このように触ると光ります。輝きの強さで魔力量がわります。色は気にしなくてよろしいですよ。

 あとこれで分かるのは基本魔力のみです。といっても根源魔力は誰も同じようなものですが」


 セイルマンが人差し指で水晶の根元に触ると、水晶は暗緑色の光に染まる。輝きは強い方だと思う。


「では若様、触ってみてください」


 ちょっとどきどきするな。

 人差し指で水晶にちょんと触ると、水晶はコバルトブルーの弱弱しい光を放つ。その時に、頭から指先へと何かが動く感触があった。


「これは……」


 これはで止めないでもらいたい。


「若様」

「なに?」

「魔法使うのは止めにしませんか?」

「……そこまで才能ないか?」

「魔力量が一般人以下ですからなぁ。使える魔法に限りがあり、魔法をメインで使うのは厳しいでしょう」

「数値で表すとどれくらいなんだ? 一般人が百として」


 少しだけ考え込んだセイルマン。


「……一般人が百としますと、魔法使用を専門職にする者の最低限が百五十。一流と呼ばれる者で三百。

 若様は五十を超えるくらいでしょうな」

 

 少なっ!? 半分って。魔法がなかった世界から来たせいか?


「少ないな」

「ええ。この量だと中級クラスの魔法を一回使えば魔力はほぼ空になります。上級は根源魔力を使わぬかぎり使用不可。

 救いがあるとすれば、魔力量と魔法を使うセンスは比例していないということですか。

 どうされますか? 魔法を習得しますか?」


 答えは決まってる。家を出た後はあちこちと行ってみたい。その時危険は絶対あるだろう。その対策に取れる手は一つでも多い方がいい。

 というわけで魔法習得は必須だ。

 俺が頷くとセイルマンは溜息一つ吐く。

 

「わかりました。

 ですが私は一度止めるか聞きましたからね? 習得が上手く進まなくとも罰を与えるようなことは勘弁願いますよ」


 駄目息子としてはここで駄々こねないといけなさそうなんだけど、それやると独学で習得しないといけなくなりそうだ。

 なので頷いた。


「では今日最後の話をしましょう」

「その前に魔力について聞きたい」

「なにかわからないことでも?」

「魔力量って増やせないのか? 体力は走れば増やすことが可能だろう? 同じように魔力も増やす訓練とかあるんじゃないかと」


 俺の問いにセイルマンは首を横に振る。

 ないのか。


「魔力量は成長によってのみ増えていきます。増加は大抵十才で止まります。

 そこから増えたという話は、私は聞いたことありませぬ」

「成長末期で爆発的に増えたりとかは」

「それも聞いたことありませぬ」


 成長打ち止め決定かぁ。


「話を遮って悪かった。続けてくれ」

「最後は魔力を感じ取ることです。と言いましても、恐らくすでに感じ取っているはず。

 先ほど、測定器を触った時になにか動く感触がありませんでしたか?」

「あった。頭から指に向かってたな」

「ほう」


 セイルマンは感心したような声を出す。


「そこまではっきりとわかったのでしたら、今日中にでも自力で魔力感知できそうですな。

 感知の仕方は簡単。先ほど感じたものを、自身の中で動かせればいいのです。

 何度か測定器を触って感覚を覚えるといいでしょう。

 魔力を扱えるようになると、触れずとも測定器を反応させることができますよ」


 このようにとセイルマンが測定器を指差すと、暗緑の光が点る。指先から体内の魔力を飛ばして、測定器を反応させたのだという。

 アドバイスに従い、何度も測定器をつつく。そのたびに頭から指先へと魔力が流れ、蒼光が点滅する。

 なんとなく感覚を理解し、指を少し離して魔力を指に集める。

 頭から指へ。何度もイメージしていくうちに、ズルリと動かした感触がして、明りが点る。さっきまでは魔力が測定器に勝手に引き寄せられていた。でも今のは自分で動かしたという感触がした。

 試しに今まで近づけていた反対の指で、測定器を反応させみる。今度も魔力を動かす感触がして、測定器が反応した。


「できたようですな。中々早い。

 その感触を掴むのに、数日かける者もいるのですよ」

「なんとなくわかる。今まで使ったことのない感覚を動かすんだから、苦労しそうだ。慣れれば簡単にできるようになるんだろうけど」


 ようは自転車と同じ。乗れるまで時間がかかるけど、一度乗り方を覚えたらそうそう忘れはしない。

 簡単に乗ることができる者もいれば、何日も時間をかける者もいる。そういった類いの感覚だろう。


「感覚の習得はこれで終わりです。そして今日の勉強も終わりです。

 次はいつこちらにいらっしゃいますか?」

「明日」


 俺の即答にセイルマンは呆気に取られたような表情となった。


「明日ですか」

「都合が悪いのか? ならば明後日に変更するが」

「毎日学ぶつもりですかな?」

「そのつもりだが?」


 こちとら時間は余っている。これから毎日でも来るつもりだ。

 セイルマンの表情は少々困り気味だ.


「私にもやりたいことがありますし、孫にも教えたいので毎日時間を取ることは厳しいのですが」

「そうか……ならばどれくらい時間を取れる?」


 子供でなんの成果も上げていないとはいえ、貴族の頼みを断れるって何気にセイルマンって度胸あんな。

 スケジュール調整しているセイルマンは十分近く考え込む。やがて閉じていた目を開く。


「……今日と同じくらいの時間を四日に一回、これでどうですか」


 少ないな。でもここでごねて断られて困るのはこっちだし、頷いておこう。

 頷いた俺を見たセイルマンは棚から一冊の本を取り出し、俺の前に置く。薄い本で百ページもなさそうだ。


「これを次回までに読んで置いてください。

 全部に目を通す必要はありません。半分の手前くらいまで読めば充分です」

「わかった」


 それくらいならのんびり呼んでも大丈夫だ。

 本を自室に持ち帰り、早速読んでいく。そのまま一時間経ち、指定されたページは読み終えた。先を読んでも構わないだろうと思ったので、次の勉強日までには読み終わり、もう一度最初から読むこともできた。

 内容は習ったことをさらに詳しく説明していた。


 例えば術言語には基本言語キーと呼ばれる六つの単語がある.それは地火風水という四元素に、空間と意識という二つを加えたもの。この基本言語キーの上下前後左右に別の単語を付け加えたりすることで、様々な効果の魔法を発動させる。

 基本言語キーそれぞれに、派生言語キーと呼ばれるものがあり、それは基本言語キー自体に文字を付け加えるという形で存在している。

 水の派生言語キーの一つには氷があり、地には木や闇がある。

 一番多くの派生言語キーがあるのは地で、少ないのは風らしい。

 基本言語キーや派生言語キーは現在あるもので全てではなく、まだまだ探されている。新たな言語キーをみつけた者が歴史に名を残すことは間違いない。


 ほかにも魂術には,大魂術という禁術指定されているものや、王家などに伝わる秘奥術といったものがあるらしいと書いてある。

 大魂術が禁術指定されているのは、命を使って魔法を発動させるから。命を賭ける分、効果は大きいらしく、人一人で大悪魔を撃退したという記録も残っているらしい。

 秘奥術の例としてうちの国の王家の封印術やナリネット湖水国の対瘴気壁のことも載っていた。


 あとは霊術に関してか.

 精霊には四種類あり、俺はゲームや漫画などから地火風水の四つだと思っていた。けれども違っていて、水風は予想通りで、残る二つが熱と無属性だと書いてあった。

 もう一種類いるのではとも書かれているが、確証はないようで四種類のまま説明は続いた。

 霊術の負担のかからない方法も書いてあった。それは精霊の真名を知ることらしい。それだけなのだが、真名を知るのは本当に難しいようで、長時間かけても努力が実ることはないことを覚悟するように書いてあった。


 借りた本は入門書の一歩手前らしく、これを読み終わったからと言って簡単な魔法が使えるようになるというものではなかった。

 前述した内容以外には、どのような魔法があるか、過去にいた有名な魔法使いの話などが載っていた。

 逸話集としてもそれなりに面白い本だった。


 次の勉強日、セイルマンは術言語や精霊について話す気だったようで、すでに本を全部読んだと知ると軽く復習してから、体外魔力吸収の練習と簡単な魔法の実演を行った。その後は術言語辞典を広げての座学となった。

 勉強していて驚いたのが、治癒魔法というのは高等な部類に入るということ。血止めといった応急措置は比較的簡単だけれども、傷を治療するというのは,対象が小さな傷であれ、魂術を用いないと無理だった。

 ゲームとは違うんだなと驚いた。死者蘇生など夢のまた夢だ。いつか復活できるようにと保存の魂術が作られたらしいが、蘇生の研究成果はでず保存された遺体は保管されたままだそうな。時間を操作できる大魂術はあるらしいのに、蘇生術がないのはなんともおかしな気分だ。どちらも同じくらい高等な魔法だと思うのに、片方だけ実現しているんだものなぁ。

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