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妹可愛さに家を出た  作者: 赤雪トナ
帰郷
15/19

帰ってきて早々に色々

 王都での用事は終わり、さっさと帰ったかというとそうでもない。レアが姫様に捕まり、さらに四日王都に逗留することになった。

 レアが城に行っている間、俺は特にこれといった用事はなく、アンゼたちと一緒に過ごしていた。

 王都での冒険者の仕事はどんなものがあるか興味があり仲介屋に足を運んだり、カルホたちが会いに来たといったことくらいか変わったことといえば。

 城に行って王に会ったこと以上の出来事はなく、無事に家に帰ってきた。


「賊が屋敷に入った?」

「はい」


 レアの確認にガーウェンが頷いている。

 王都から帰ってきてすぐにガーウェンから留守中の報告を受けている。

 ガーウェンに任せていた仕事のことや周辺地域のことを聞いた後、賊の侵入について話しが出た。


「誰か怪我をしたり、盗まれたりしたの?」

「警備をしていた者一名が軽症を負った以外に被害はありません」

「よかった。賊はどうなりました?」

「四人で侵入しようとし、三人を捕まえ、一人は逃がしてしまいました」

 

 公爵家に侵入とか実力のある奴かよほどの馬鹿なんだろうなぁ。


「その三人は?」

「情報を吐かせる際に行ったことが原因で死にました」


 情報を吐いたってことは馬鹿の方なのかね? 一流なら情報吐かずに死ぬか、偽の情報を吐くってイメージが。

 いや拷問受ける前、捕まった時点で自決するか? 身元がわかるような物や雇い人に繋がるような物は持ち歩かないだろうし。


「……そうですか。死体は埋葬してあげてください」


 少しだけ迷う様子を見せガーウェンは頷いた。ガーウェン的には犯罪者は森か川にでも捨てられて当然って考えのかもしれないな。レアになにも言われなかったら三つの死体が人知れず処理されてたのか。


「得た情報からどうしてここに侵入したのか、誰が指示したのか、わかりましたか?」

「コッソクスの指示だと」

「コッソクス?」


 思わず声が漏れ出た。どこに行ったかわからないあいつの名前がここで出るとは思わなかった。


「なにを企んでいるんだろ?」

「狙いは奥様殺害だったようです」

「母上!? コッソクスって母上に恨み持ってたか?」

「恨みどころかお母様とコッソクスに面識が会ったかどうかも怪しいです。公爵家の仕事にあまり関わりはありませんから」


 それでなんで母上を? 母上に聞けばなんらかのヒントくらいは分かるか? いや聞くわけにはいかないだろうな。母上は荒事には縁がないから、不安与えるだけだ。レアならそれとなく聞きだせるかもしれないが。


「母上に心当たりあるか聞いてみた?」

「いえ、不安を与えることは避けたく思いまして、当主様が帰ってくるまで狙いが奥様ということは伏せておきました」


 俺と似たような考えか。


「当主様どうしますか? お聞きになられますか?」

「今後似たようなことがあるかもしれないので聞くことにします。不安を与えないようにという点ではガーウェンと同意見ですから、直接尋ねるようなことはしませんが。

 ほかに得られた情報はありますか? コッソクスの居場所を知っていたりは?」


 ガーウェンは首を横に振った。


「得られたのは侵入目的と高額の報酬に釣られて依頼を受けたということのみです。

 一応依頼人のことも聞いてみたのですが、顔のほとんどを隠され見えなかったと」


 依頼を受けた場所近くにコッソクスが潜伏してる可能性は低いんだろうなぁ。灯台下暗しといった可能性もあるんだろうが。


「打つ手なしですか」

「一つあります。確証はないので私とディノール様で調べたいのですが、よろしいでしょうか?」

「兄上と? ……急ぎの仕事はありませんからかまいません。

 兄上もそれでいいですか?」

「いいよ」


 俺の仕事能力を知っているガーウェンの誘いだ、居て邪魔になるようなことはないのだろう。


「では明日にでも動きましょうディノール様」

「わかった」


 今日はこのままここで仕事だ。

 俺がやることはレアやガーウェンの手伝いじゃなく、学校計画の見直しだけど。

 王に提出したのは全体図で、前身となる試作学級の細かい部分はまだまだ荒い。いくつか駄目出しも受けたし。俺の考えていた学校像は自身が通っていたところと同じ民中心で、社会を動かす動力も民中心となるように指導する感覚だった。でもこの国を動かしているのは貴族だ。そこのとこの違いに注意していないと学校で学んでも社会不適合者が生まれるだけだ。国が荒れているなら貴族に立ち向かおうとする民中心の考え方でも問題はないんだろうけど、今は問題なく治められている。ならば民主の考え方は邪魔でしかないと指摘されて気づいた。

 そう言ったズレに注意しつつ見直していくのだ。


 仕事を終え、アンゼのところへ向かう途中でミシュに会う。

 休憩を終えて部屋に戻る途中だったらしい。


「ミシュは賊が入ったこと聞いた?」

「はい、聞きましたよ。使用人の方たちには説明はありませんでしたが、私は屋敷の守りに関係してますので一応説明受けました」

「あ、そうか魔法でも守ってたんだっけ」


 となるとそれらを越えた賊ってそれなりにできる奴らなのか?


「屋敷を守るために使ってる魔法ってどんなやつなんだ?」

「種類ですか? 高品質の媒介を使った魂術で、警報と対外魔法障壁と対外物理障壁と屋内侵入阻止の四つです。

 警報は夜間に正規の出入り口以外を通った者がいる場合、当主の部屋と兵舎で音が鳴るようになっています。

 二つの障壁は塀に沿って発動するようになっていて、魂術クラスの攻撃魔法でも三発までなら余裕で耐えられるようになっています。

 屋内侵入阻止は屋敷の壁に沿って障壁を張ります。

 前述の障壁と後述の障壁は種類が違うもので、前述のものは通り抜けることが可能で、後述のものは攻撃を通すようになっています」

「その両方を兼ね備えた障壁ってある?」


 この問いにミシュは頷く。


「なにものも通さないといわれる絶対障壁があります。ですがこれの効果範囲は精々縦横二メートルなのです。媒介を使っても一般家屋を覆えるほどには広がりませんし、効果時間も三分程度が限界です」

「欠点のない完璧な防御はさすがに無理なのか」

「現時点ではそうですね。いずれ作られるかもしれませんが。もし作られたとしても使用は容易ではなさそうですね」

「すっごい先のことなんだろうなぁ」


 十年二十年じゃ作られそうにないな。百年いや五百年後くらいにはできてそうだ。まあ、そんな先まで生きてないから確かめようもないけど。


「そういや魔法っていえば、セイルマンから出された課題はどんな感じ?」

「とりあえず完成はさせました。でも見直す点ばかりでお爺様に提出はまだまだできません。

 使ってみた感じ、無理矢理発動させてる感じがしているんですよ」

「一回使ってるとこ見てみたいな」

「いいですよ。部屋に行きましょう」


 アンゼに会いに行くことから変更し、ミシュの魔法開発に付き合う。

 ミシュが作ったのは掃除竜巻だ。ミシュが使っているところを見て、魔法を教えてもらい、自分でも使ってみた。ミシュの言った通り、スムーズに使えているとは言えなかった。

 魔力消費も多めだし、竜巻を移動させる時もワンテンポ遅れた。持続時間ももう少し長い方が便利だろう。

 二人してあーだこーだと調整していき、あっという間に一時間が経過する。

 その間ミシュは仕事を少しも進めておらず、そのことを思い出し改良はここまでとなった。


 アンゼを探して歩き出すと、今度はシャイネに会った。

 どこかに出かけていたのか私服姿で、手提げバッグを持っている。


「外に出てた?」

「はい。布地と糸を買いに」

「服とか作るため?」

「いえ、刺繍用にですよ」

「刺繍? シャイネって刺繍してたっけ?」


 付き合い十年以上になるけど聞いたことないな。


「ディノール様が屋敷を出た後に始めたことですからね。暇な時にのんびりとやっているんですよ。ディノール様が帰ってきてからは、暇は多くありませんでしたから、見かけることはなくて知らなくて無理もありません」


 俺とかアンゼの世話で時間を削ったってことかぁ。頼りすぎなのかな。


「もっと自由な時間ができるように、自分たちのことは自分たちでやろうか?」

「気を使わずとも大丈夫ですよ。お二方の世話は楽しんでおりますから。それに世話が私の仕事なのです、仕事をなくされると困ります」


 微笑んで言われた。表情のどこにも陰りとかないし、本当のことなんだろう。エスパーじゃないんで、心の内まではわからないけど。

 そんな俺の表情を読んだのか、本当ですよと親愛を込めた笑みを浮かべた。

 俺も嬉しさから表情が笑みに変わる。


「ありがとう」

「どういたしまして」


 これでいつか、すべては演技だったのさゲハハハー、とか言われたらすっごいへこむな。

 そんなしょうもないことを考えつつ、アンゼを探すため別れる。

 その後アンゼは見つかった。わかりにくい場所で遊んでいたということはなく、母上と一緒にいた。

 植えた種の成長具合を見たり、王都や行き帰りの道中であったことを話して過ごしていたらしい。

 王都でのことはそうでもないけど、行き帰りにあったことは話すようなことないんじゃないかなと思ったけど、子供特有の観点で色々なことを発見していたようで、一生懸命にそれらを説明する姿は愛らしかったと母上から聞いた。


 夕食後いつものように鍛錬のため庭に向かう途中で、槍を持ったルドに会った。王都への護衛に同行してなかったから約二週間ぶりくらいかな。


「や」

「ディノール様? お帰りなさいませ。

 こんな時間になにを?」

「鍛錬をしようと思って」


 剣を持ち上げて見せる。


「ルドも鍛錬? もしくはその帰り?」

「私は見回りです、臨時のですが」

「そうなのか」

「賊の侵入があったので、警備強化のため人数が増やされたのですよ」

「賊か、話に聞いたけど。お金もらえるからって、警備のしっかりとした公爵家に入るなんて馬鹿としかいえないよな?」

「そうですね、と頷きたいところですが、大金もらえるならなんでもするという人々はやはりいるものですよ」


 冒険者なんてしてたからそういう人種がいるのは知ってるけど、でもさすがにここに入るのはどうかと思う。

 なんでもするってことで思い出したけど、お金にがめつかったシスターさん元気かな。

 コンビを組んだ際、養う家族がいるんだって依頼料を少しでも多く持っていこうと粘り強い交渉してきたのは思い出深い。俺も旅の資金に困りたくないからなんとか言い返したけど、それでも4:6になったからなぁ。腕が良かったのが救いだった。あれで足手まといだったら詐欺でしかない。


「ディノール様はいつもここで鍛錬されているので?」

「うん。時々レアも混ざるよ」

「話をしたかったり、魔法に関して聞きたいことがあればここにくればいいんですね」

「歓迎するよ。せっかく再会した友達だしね」

「ありがと」


 友達としての礼なんだろう、敬語ではなかった。

 その後は根源魔力の扱いに関して少し話し、ルドは警備に戻っていった。

 


 翌日、朝食後ガーウェンに誘われて屋敷から出る。昨日言っていた賊に関しての仕事で、街に出る必要があるのだという。

 馬車での移動は目立つので避けるといって、頭を下げてきたガーウェンに気にしないように言い、二人で街中を歩く。こうしてガーウェンと街を歩くのは初めてだ。屋敷から徒歩十五分ほどで目的地近くについた。


「ここって歓楽街だっけか」

「はい」


 ここらは夕方から夜が稼ぎ時だから、今はわりと静かだ。閉まっている店もちらほら見える。

 他所の街だと酒場に行ったことがあるけど、この街では初めてだったりする。そこまで酒を飲む方じゃないからなぁ。娼館は他所でもここでも行ったことはない。一度くらいは行きたかったけど、公爵家の種がどこかで芽吹くと問題になるのはわかっていた。それにアンゼの世話で行く暇なかったんだよな。


「こんなところになんの用事が?」

「ついてくればわかりますよ。外で口に出すことでもありませんし」


 歩き出したガーウェンの横を歩く。

 朝帰りの冒険者、仕事を終え家に帰るホステス、酒や料理を届ける配達人、掃除人などとすれ違いながら静かな歓楽街を進む。


「ここが目的地です」


 ガーウェンが足を止め指し示す建物は、老舗って雰囲気を感じさせるところだった。

 扉や窓が締め切ってはいないが、扉のすぐ横にクローズの縦看板が立っている。


「ここはこの街ができた頃からある酒場なのですよ。人気もトップクラスですね」

「そして裏社会のトップでもあるって感じなのかな?」


 ガーウェンが頷いた。ゲームとか漫画とかで見た設定を思い出して言ってみたら正解だったか。


「おおっぴらに言うことではありませんので」


 と言って人差し指を口に持っていく。秘密ってことか。

 頷き返すと、ガーウェンは店に入る。

 扉の開く音で作業をしていた店員が顔を上げる。


「まだ開いてないので……ってあなたですか」


 ガーウェンと顔見知りらしいな。何度も来たことあるのなら当然か。


「オーナーはいらっしゃいますか?」

「はい。そっちの人も一緒に連れて行くので?」

「ええ、今日来たのはオーナーへの顔見せも兼ねてますから」


 頷いた店員の先導で店の奥へと入る。

 オーナーの部屋に行くのかなと思ったら、なぜか酒蔵に連れて来られた。内心首を傾げていると、店員が棚の一つをスライドさせた。そこに影になっていて分かりづらかったが、下りの階段があった。

 店員が明かりの魔法を使い下っていく。その後を追い十五段下った先に黒く染められた木製の扉があった。扉を開くと、明かりが向こうから漏れてくる。


「ゼッフェル様、ガーウェン様がいらっしゃいました」

「ガーウェン殿か、来ると思っていたよ。入ってもらえ」

「はい」


 中へ、と勧めて俺たちが入ると店員は扉を閉めて去っていく。

 部屋の中には四十半ばくらいの男がいる。白髪交じりの短髪をオールバックにして、無精ひげを生やした渋い男だ。大きめの机に書類や水差しなどが載っている。


「久しいな?」

「ああ」

「まあ、そこに座れ。あんたも」


 俺にも視線を向けてソファーを勧める。ゼッフェル自身も机から移動し、向かい合う形で座る。


「今日来たのは屋敷への侵入の件だろう?」

「それとこちらの方をお前に会わせるためでもある」

「あんたがそういう言い方をするってことは、先代当主の息子か。たしか名はディノールだったか」

「それで合ってるよ。初めまして、ゼッフェルさんでいいんだよな?」


 頷きを返してくる。


「ゼッフェル・シュトルケルン。ここ虹の花亭のオーナーだ」

「そしてこの街の裏の代表者でもあります。あと一年で交代するかもしれませんが」

 

 どうして交代するのか聞くと隠すことでもないのか、それとも俺に知っておいて貰いたいのか、ガーウェンは説明してくれた。

 ずっと同じ人物をトップに置いていると、どうしても判断に偏りが出てきたり、気に入った人への贔屓などが出てくる。特定の集団にのみ利益がいくことを防ぐため、三年に一度裏の有力者が集まりトップを決める会議を開く。

 かもしれないと断定しなかったのは、会議で続投が認められることもあるかららしい。代表の時期に公正な判断を出していれば認められることが多いらしい。公正でいても代表になりたい者が反対意見を出すこともあるので、確実ではない。

 

「ガーウェンから見てゼッフェルさんは続投すると思う?」

「そうですね……七割ほどで続投と見ますね。就任してから大したミスはしていないようですから」

「三割分はどうして引かれたんだ?」

「私も彼らの全てを知っているわけではないということと、強烈なカリスマを持っているわけではないという理由ですね」

「本人を前にしてカリスマがないとは、よく言う」


 自分もそう思っているのか苦笑を浮かべ、肩を竦めている。


「俺のことはもういいだろう。次はそっちの番だ。

 俺の知っている長男坊の情報とは受ける感じが違うんだがどうしてだ?」

「ちなみにそっちの知ってる俺のことって?」


 以前俺が演じていたこととそう変わりない説明を受けた。

 

「ガーウェン、俺の事情って言っていいのかな?」

「構わないでしょう。まあ、口止めする必要はありますが」


 ガーウェンがゼッフェルに視線を向け、ゼッフェルは頷く。了承したってことなんだろう。

 演じていたことと、どうしてそんなことをしたのか説明していく。

 これを聞いてゼッフェルは微妙な顔になった。


「どうかした?」

「権力が欲しい俺としては、あんたがやっていることは共感できないことだと思ったんだよ」

「俺が後を継いだら公爵家にとってマイナスだと思うんだけど。俺個人にその結果が降りかかるなら自業自得って思える。でも俺がミスったら領民にまで被害が行くから、俺より上手く動かせる人がいるなら身を退くのはありじゃないか?」

「あんた一人で公爵家を動かすわけでもなし、優秀な者が身近にいるなら協力してもらえばいいだけだろう?」

「そうするとレアが動きにくいと思わない? レアの能力を十分に生かすには公爵の地位に着くのが一番だと思う」

「まあ、それはそうだろうが」


 頷きつつもまだ納得していない表情だ。


「共感できない部分はほかにもある。

 俺は力ある者はそれなりの責任を負うと考えている。力ってのは戦う能力の高い者だけを示してるんじゃなくて、権力財力とかもな。

 お前はその責任を放り出している。お前はその力のおかげで助けられたことがあるはずだ。幼い頃からの生活で安全に裕福な暮らしをしていただろう? 庶民と比較するまでもないそんな生活を」

「確かにしてきた」

「ならば受けてきたものを返すべきだ」


 それはまあわかってる。


「でも俺が公爵家にいることでレアの負担になる可能性があるだろう?

 利益を追求する者は、レアよりも俺の方が相手取るには容易いと考え傀儡にしようと策を巡らすかもしれない。

 公爵家で揉め事があれば、それは街の運営に悪影響を及ぼすことになる」

「それは周囲の者が防ぐだろうし、自身がそうなりたくないと考えていれば致命的なことは起こりえないはずだ」

「俺は優秀ではないんだ。知らないうちに致命的な失敗しそうなんだよ。だから公爵家の弱点にならないために出たんだ」

「先代やガーウェンならば弱点を囮に使いそうなんだがな。実際、小さいお前を囮に使ったことがあるように。

 今の当主にお前を使いこなせないと思っているのか? ならば矛盾するだろう? 当主は誰よりも優秀なのだと言ったのはお前だ」


 反論できねぇ。

 今でもレアは誰よりも優秀だと思っている。王に会った時もレアを初めて見た時ほどの衝撃はなかった。

 そんなレアが俺を使い切れないとは思えないし、俺を利用しようとする者たちから守りきれないとも思えない。

 だけど俺は外に出た。レアの邪魔にならないようにといった思い以外に、責任など放り出してファンタジー世界を満喫したかったという思いもあったから。

 自分勝手と言われてしまえばなにも言えない。


「それくらいにしておいてください。

 これは公爵家の問題であまり外部から突かれたくはありませんので」

「そりゃそうだな。言いたいことは言ったし、さっさと次の用件に入るか」


 あまり真正面から言われることない、駄目というか目を逸らしている部分を指摘されると堪える。

 レアのためと言いつつ、それを言い訳の理由にしてるなんて、妹好きとしては失格だろうし。

 これから挽回していけばいいのかもしれないが、また出て行こうと考えてる時点でやっぱり無責任なんだよね。

 せめてレアに相応しい婿が現れてくれれば、大手を振って出て行けそうな気もする。

 そんな奴が現れたらとりあえず一発殴るが。父さんの分も合わせて二発になるかもしれない。

 相応しいってのはハードルが高いかもしれないな。相応しくない駄目人間でもレアがこの人と決めれば駄目だとは言えないんだろうなぁ俺。


「用件である侵入に関してだが、俺は無関係だ。ほかの奴らにも聞いてみたが俺と同じように無関係だと言っている。

 それが本当かはわからないが、俺は信じられると考えている。先日あった集まりでの様子を見るに現状で公爵家に不満を持っている者はいないし、下手打てば自身も組織も滅びる。

 まあ、少なくとも賊どもはこの街の人間ではないはずだ。さすがにこの街の人間が公爵家に入ろうとは思わないだろう」

「おそらくそうではないかと思っていましたが、これで確定と見ていいのでしょうね。

 他所の街の情報は得ていますか?」

「いんや、情報が欲しいならあと三日は待ってもらいたい」

「とりあえず賊たちの似顔絵を渡しておきます。あれば役立つでしょう?」

「助かる」

「あと頼んでいたコッソクスの情報はなにかありますか」

「そっちも進展はないな。これだけ目撃証言が集まらないってことは、行動は部下や雇ったごろつきに任せて、自分は隠れてまったく表に出ず指示出すだけなんだろうな」


 変装して外に出ることすらしていないのかもね。そんなことしたらたちまち見つかるってのはわかりきってることだしするはずないか。下克上とか母上殺害とかしようとする人がそんな凡ミスするとは思えないしね。

 必要な情報をもらった俺たちは早々に店から出る。

 その帰り道で、ふと疑問に思ったことをガーウェンに聞く。


「顔見せって俺じゃなくてレアがしておいた方がよかったんじゃ?」


 その方がつてとかコネとか得られると思うんだけど。


「先代と話し合い、当主には関わらせないと決めました」

「……どうして?」

「お嬢様は優秀ですし、きっと裏の方々との付き合いも上手くこなすでしょう。それは先代もわかっておられました。

 裏の方々と付き合いを持てば、少なからず影響を受けます。それはいい影響とは呼べません。

 お嬢様は明るい場所でより一層輝くお方。暗闇と関わりを持ち、輝きを鈍らせることはもったいないと私と先代は判断しました。

 だから公爵家の暗い部分は私たち部下が受け持つことにしたのです」


 ようは綺麗なままでいてもらいたいってことなのかな? 領主に暗い影がなければ領民も安心するだろうし。


「レアは公爵家がああいった人たちとの付き合いがあることを知らない?」

「いえ、知ってはいます。報告してますから。

 当主が自身の家のことで知らないことがあるというのは駄目ですからね」

「レアは納得してんの?」

「先代の遺言みたいなものですから、今のところは」

 

 遺言かぁ、それなら従うか。

 俺が連れていかれたのは汚れてると判断されたからか? なんてそうじゃないのはわかってる。サポートを明言したからだろう。俺の能力じゃ上手く渡り合えそうにないのはガーウェンも知ってるし、本当にいつかのための顔見せと考えてよさそうだ。

 

「俺もあまり関わりは持ちたくないなぁ」

「それがいいでしょう。私たちも積極的に関わっているわけではありませんから」

「なんというかああいった存在をなくしていこうとは思わなかったの?」

「なくすのは危険だとわかっていますし、なくしたところで別の者たちがまた集まってくるだけです。

 あの者たちが原因で、殺人強盗麻薬関連の事件が起こるのはわかっています。私たち街の治安を守る者たちとしては見逃せない者たちです。しかしあの者たちが下っ端を御していることで、事件が抑えられてもいるのです。いなければ荒くれ者たちが好き勝手暴れて、うちの兵たちだけでは収拾つかないといったことになるでしょう。

 そういったことになるなら、多少の便宜を図り暴走しないようにする方がよほどましだと思いませんか?」

「納得はできる」


 毒をもって毒を制すってこと? ちょっと違うかな?


「公爵家に認められたって勘違いする人が出てくる可能性ある?」

「いるかもしれませんが、周りに諭されるのではないのしょうか? それでも勘違いし続けて好き勝手やれば、私たちやほかの者によって罰せられるかと」


 出る杭は打たれる。今度は合ってるかも?

 多少のことは見逃すけど、全部許すほど甘くはないか。それが原因で領地が荒れれば王から厳重注意がくるだろうし、王と裏とはいえ街の一住民じゃあ、どっちが優先されるかは決まりきってる。

 

「今まで罰せられた奴っている?」

「私の知るかぎりではいませんね。ゼッフェルたちから報告がきてないだけかもしれませんが」

「いた可能性はある?」

「昔のことも合わせたら、あると考えていいでしょう」


 レアが当主のうちはそういった奴が出てこないといいな。

 平穏無事に日々が過ぎれば、それだけレアも穏やかに暮らせるんだし。

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[気になる点] >「賊が屋敷に入った?」 賊から見た感じっぽいので「屋敷に賊が…」のほうが良いのでは? [一言] 遅ればせながらツボにはまり、一気読み中です。
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