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太平洋戦争の時代に戻った俺、真空管から日本を立て直します  作者: Diamond ruler


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第20話 届くべき情報が、届いていない

20話まで読んでいただきありがとうございます。

しかもちょうど1日でここまで来たので、少しだけ区切りっぽく前書きを入れてみます。


この作品は、超兵器で一気に戦局を変える話ではなく、

「壊れ方」「崩れ方」「伝わり方」を一つずつ整えていく話として書いています。


派手さはまだ少ないですが、

工場、試験場、現場の声が少しずつ繋がってきたので、ここからは“機械そのもの”だけではなく、

その先にある報告や指揮の流れにも踏み込んでいきます。


引き続き楽しんでもらえたらうれしいです。

現場補記欄を加えた確認票が回り始めてから、返ってくる紙の表情が変わった。


前は、故障か正常か。

不安定か安定か。

その程度の言葉しか乗っていなかった。


だが今は違う。


揺れは減ったが報告までが遅い

反応を見ても、上へ通すまでに確認が重なる

装置よりも、判断を仰ぐ時間が長い

機械は前よりましだが、使い方が追いついていない


そういう種類の書き込みが、ぽつぽつと混ざり始めていた。


榊は工場の打合せ机で、その束を一枚ずつめくっていた。

紙質は悪い。字も荒い。

だが前よりずっと、“何が問題なのか”が見える。


森本が横から覗き込む。


「今度は何だ」


「機械じゃないです」


榊は短く答えた。


「機械の先です」


久世が腕を組んだまま言う。


「分かるように言え」


榊は手元の一枚を差し出した。


「これです。『反応あり。だが上へ回す判断に時間がかかった』」


森本が顔をしかめる。


「何だそりゃ」


「つまり、機械は見た。でもそのあとが遅い」


久世も紙を受け取り、別の行を読む。


「『表示は見えたが、見張りと電探員の認識が揃わず再確認となる』……」


真田が低く言った。


「装置の問題じゃないな」


「はい」


榊は頷いた。


「少なくとも、装置だけの問題じゃない」


そこへ、頭の奥であの“声”が静かに響く。


――《主信号が改善しても、伝達系統の遅延が残れば全体性能は頭打ちになります》――

――《出力ではなく、系統全体の応答速度の問題です》――


(機械のS/Nを良くしても、人間側が詰まってたら意味がない、ってことだな)


――《概ねその理解で問題ありません》――


榊は小さく息を吐いた。


たしかにそうだ。

今までやってきたのは、見えるようにすること、崩れにくくすること、戻しやすくすることだった。

だが、見えたあとに届かなければ意味がない。


それは通信でも同じだった。

どれだけ無線機が前より静かになっても、報告の順番や判断の躊躇で詰まれば、結局“届かない命令”に戻る。


「……結局、同じか」


榊が呟くと、久世が聞き返した。


「何がだ」


「主信号は良くなってる。でも途中の雑音が多い」


森本が首をかしげる。


「またその話か」


「今度は機械じゃなくて、人の流れの方です」


久世が少しだけ目を細めた。


「続けろ」


榊は返ってきた補記欄の紙を何枚か並べた。


一枚は通信。

一枚は電探。

一枚は搬送後の設置確認。


別々の紙なのに、似た言葉が並ぶ。


確認を重ねた

上へ回す判断が遅れた

誰が決めるか曖昧だった

見えたが通らなかった


「機械の不調じゃなくても、結果としては同じです」


榊は言った。


「見えたのに届かない。拾えたのに通らない。なら、それも“負け筋”です」


真田が苦い顔になる。


「そこまでこちらで面倒を見るのか」


「見ないと、せっかくの改善が半分死にます」


「設計や整備の範囲を超えてる」


「そうですね」


榊は認めた。


「でも、現場から返ってきた紙にそう書いてある以上、見なかったことにはできない」


久世はしばらく黙っていたが、やがて低く言う。


「工場の手を離れた後の話だぞ」


「分かってます」


「ならどうする」


その問いに、榊は少しだけ考えた。


正面から「指揮系統を直しましょう」と言っても通るはずがない。

それは機械の改善どころではない。

軍の縄張りそのものだ。


だが、全部を直せなくても、少しだけ“通りやすくする”方法はあるかもしれない。


――《人間系統への直接介入は高抵抗が予想されます》――

――《ただし、報告様式の標準化は比較的低抵抗です》――


(そこか)


榊は机の上の紙へ視線を落とした。


報告が遅い。

判断が曖昧。

認識が揃わない。


それならまず触れるべきは、人間の性格ではなく報告の型だ。


「報告の順番を揃えます」


葛城の声ではなく、久世が先に聞き返した。


「報告?」


「はい。何を見たか、どう書くか、どこまで確認したら上げるか。それを最低限だけ揃える」


森本が腕を組む。


「また紙か」


「また紙です」


榊は苦笑した。


「でも今度は確認票じゃなく、報告票に近い」


真田が渋い顔のまま言う。


「現場が書くのか」


「全部じゃなくていいです。電探なら“見えた位置”“揺れの有無”“再確認したか”“報告済みか”。無線なら“受信確認”“一次切り分け済みか”“上申必要か”」


久世が唸る。


「つまり、“どこまでやれば上に回していいか”を見えるようにするわけか」


「そうです」


榊ははっきり頷いた。


「今はたぶん、現場が慎重になりすぎてる。見えたけど自信がない。だからもう一回確認する。もう一人にも見せる。そうしてるうちに時間が消える」


森本がぼそりと言う。


「誰だって責任は取りたくないからな」


それは、戦時中でも現代でも同じなのだろう。


誤報は怖い。

責任も怖い。

だから人は確認を重ねる。

だが、その確認が遅れを生む。

そして遅れた情報は、しばしば無意味になる。


「なら、誤報を減らすんじゃなくて“上げる基準”を揃える方が先か」


真田の言葉に、榊は少し驚いた。

だがすぐに頷く。


「はい。完璧な判断を求めるより、“ここまで見たら上げる”を決めた方が早い」


「責任の所在がはっきりするからか」


「それもあります」


榊は答えた。


「あと、見る側も読みやすくなる。何を確認して、何がまだ曖昧なのかが揃っていれば、上も判断しやすい」


そこで、打合せ机の向こうから若い工員が言った。


「それって、機械の確認票と同じですね」


全員の目が向く。

工員は少しだけ身を縮めたが、続けた。


「どこまで見れば次へ行っていいか、決めるんでしょう」


榊は思わず小さく笑った。


「そうです。まったく同じです」


工場の確認票も、試験場の観察欄も、結局は“次に進んでいい条件”を揃えるための紙だった。

なら、報告も同じだ。


見えた。

確認した。

ここまでやった。

だから上げる。


その型があれば、少なくとも“何となく迷う時間”は減る。


――《装置と組織で構造が類似しています》――

――《主信号、雑音、判定基準、伝達遅延》――


(ほんとに、全部同じだな)


榊は心の中でそう返した。


電探の影。

無線の雑音。

工場のばらつき。

前線の報告遅れ。

全部、主信号を濁らせる“余計なもの”だ。


なら、やることも同じだ。


足すより、消す。

強くするより、通りやすくする。

そして、迷わないように揃える。


そのとき、工場の入口から伝令が走り込んできた。


「久世主任!」


「何だ」


「試験場からです。葛城中尉より急ぎで、南方から追加報告あり。電探の反応そのものより、見張りと報告の連携に問題ありと」


榊は息を止めた。


来た。

ついに機械の外へ、はっきりと問題が出てきた。


久世が紙を受け取り、ざっと目を通して榊へ渡す。


短い文面だった。


装置側改善の効果はあり。

ただし現場では、電探員・見張り・報告先の判断基準が揃わず、反応の扱いに遅延あり。

機材改善に加え、報告要領の簡略化が急務と認む。


榊はその文を見つめたまま、静かに息を吐いた。


もう疑いようがない。

ここから先は、機械だけの話では済まない。


「行きます」


榊がそう言うと、久世は即座に頷いた。


「行け」


真田も珍しく迷わなかった。


「これは試験場だけに任せる話じゃないな」


森本が肩を鳴らす。


「お前、また面倒なとこへ行くぞ」


「いつものことです」


そう返しながら、榊は紙を畳んで胸へ入れた。


届くべき情報が、届いていない。

それが今、機械の改善の先でようやくはっきりした。


なら次は、その詰まりを減らす。

報告の型を揃え、判断の迷いを減らし、通るべきものが通るようにする。


超兵器ではない。

だが、それでいい。


戦争を負けへ運ぶのは、たいてい派手な一撃ではなく、

こういう“届かない”“通らない”“迷う”の積み重ねなのだと、榊はもう知っていた。

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