表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太平洋戦争の時代に戻った俺、真空管から日本を立て直します  作者: Diamond ruler


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/51

幕間 見える影と、まだ信じきれない目

夜の海は、昼よりも広かった。


見えているはずのものが見えず、見えないはずのものが急に近く感じる。

甲板の上に立つ水兵見習いの秋庭二等水兵は、そういう夜の海が嫌いだった。


「また見てるのか」


背後から声を掛けられ、秋庭は振り返る。

電探室付きの下士官、根岸兵曹だった。

年はまだ若いが、配属は秋庭より二年早い。

その二年が、この世界では妙に大きい。


「ええ」


秋庭は素直に答えた。


「今日はさっきから変な揺れが少ない気がして」


根岸は眉をひそめる。


「揺れ?」


「前は、何もないのに尾が残る感じ、あったじゃないですか」


根岸はしばらく黙ってから、電探室の中を覗いた。

薄暗い室内では、装置の表示と真空管の灯りだけが頼りなく光っている。

相変わらず無骨な機械だ。

だが秋庭の言うことも分からなくはなかった。


「……まあ、前よりは静かかもしれん」


「ですよね?」


秋庭は少しだけ嬉しそうな顔をした。


「前は、何か出ても“本物か?”って一回迷いましたけど、今は少し見分けやすい気がして」


根岸は腕を組む。


「気のせいかもしれんぞ」


「かもしれません。でも、前よりマシです」


その言い方に、根岸は小さく鼻を鳴らした。


若い。

だが嫌いではないと思った。

こういう連中が現場にいるから、機械が少し良くなるだけでも違いに気づく。


「新型ってほどでもないんでしょう?」


秋庭が聞く。


「さあな」


「でも中、ちょっと変わったって聞きました」


「誰から」


「整備の人からです。配置がどうとか、確認の仕方が変わったとか」


根岸は表示部を見たまま答える。


「そういう話はある」


「やっぱり」


「ただな」


根岸はそこで、少しだけ声を低くした。


「前より見やすいからって、機械を信じすぎるな」


秋庭はすぐに背筋を伸ばした。


「はい」


「影が減ったのと、全部正しいのは別だ。夜は夜だ。海は海だ。最後に頼るのは目と耳と報告だ」


「はい」


「……だが」


根岸は少しだけ間を置いた。


「前より迷わなくていいなら、それは悪くない」


秋庭はその一言に、思わず笑いそうになった。

兵曹がこういう言い方をする時は、たいていかなり認めている。


「兵曹もそう思いますか」


「少しな」


「じゃあやっぱり変わってるんだ」


根岸は肩をすくめた。


「知らん。だが、前より余計な尾が少ないなら、こっちはその分だけ本物を見るのが楽になる」


電探室の中で、表示が静かに揺れた。

何かがいるわけではない。

だが何もない時の静かさが、以前より少しだけ静かになった気がする。


秋庭はその光を見つめたまま、ぽつりと言う。


「こういうのって、誰が直してるんですかね」


根岸は短く答えた。


「知らん」


「試験場の人ですかね」


「かもしれん」


「工場かも」


「かもしれん」


秋庭は笑った。


「兵曹、さっきからそればっかりですね」


「現場の人間は、動けばそれでいいんだ」


根岸は表示部から目を離さずに言った。


「誰が直したかより、前より迷わなくて済むかの方が大きい」


それは、たしかにそうだった。


夜の海で、何かが見えるかもしれない時。

その一瞬に迷いが一つ減るだけで、十分に価値がある。


秋庭は小さく息を吸い、表示へ目を戻した。


新型というほどではない。

魔法みたいに全部見えるわけでもない。

だが、前より少しだけ余計なものが静かになっている。


それだけで、この暗い海は少しだけマシに思えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ