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第8節 ゴミと見なされた家宝の真実  結衣が修復していた「古本」が、実は数億円の価値を持つ学園の至宝であることに尊が気づく。

第8節 ゴミと見なされた家宝の真実  結衣が修復していた「古本」が、実は数億円の価値を持つ学園の至宝であることに尊が気づく。


 ある夜、準備の合間に尊が図書室を訪れた。

 そこには、相変わらず黙々と本の修繕を続ける結衣の姿があった。


「白瀬、あまり根を詰めるな」

「あ、御影様。ありがとうございます。でも、この子が一番の癒やしですので」


 結衣が愛おしそうに撫でているのは、背表紙がボロボロに剥がれ、虫食いの跡が激しい一冊の古文書だった。

 麗華たちが「カビ臭いゴミ」と呼んで水をかけた、あの本だ。


「……その本は、そこまでして直す価値があるものなのか?」

「価値、ですか。私にとっては、この子が紡いできた時間そのものが価値なのですが……。資料として見るなら、これはこの学園の創立者が、海外の図書館から譲り受けた『中世の薬草学』の唯一の写本です」

「何……?」


 尊は目を見開いた。

 御影家の記録には、学園創立時に紛失したとされる「伝説の医学書」の記述がある。


「これ、実は少し特殊な製本がされていて……。表紙の裏に、別の羊皮紙が隠されていたんです。そこには、御影家の初代がこの学園を建てた本当の理由が記されていました。……あ、読んでしまって良かったでしょうか?」

「見せてくれ」


 尊が震える手でその文書を受け取る。

 そこには、歴史の教科書を塗り替えるような、御影一族のルーツと誇りが記されていた。

 もし結衣が「雑用」としてこの本を修復していなければ、水分で腐り、永遠に失われていたはずの記録だ。


「白瀬……君は。君がやっていることは、ただの雑用ではない。この学園の、いや、我が一族の『魂』を守っていたんだな」

「えっ、そうなんですか? 私はただ、この子が『まだ生きたい』って言っている気がしたので……」


 結衣は不思議そうに小首をかしげた。

 尊は確信した。この少女は、自分がどれほどの偉業を成し遂げているのか、全く自覚していないのだ。


「資産価値にするなら、数億円……いや、それ以上の代物だ。それを、君はたった一人で、誰に褒められることもなく……」

「褒められるために本を直すのは、少し違いますから。それに、この子が綺麗になると、私も『自分軸の確立』になれるんです」


 結衣の無欲な言葉に、尊は深い敗北感、そしてそれ以上の愛おしさを覚えた。

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