第4節 王者の休息と、透明な少女の衝撃 自分を特別視しない結衣に興味を持つ尊。二人の間に、静かな空気が流れ始める。
第4節 王者の休息と、透明な少女の衝撃 自分を特別視しない結衣に興味を持つ尊。二人の間に、静かな空気が流れ始める。
尊は、いつも自分を取り囲む「羨望」や「畏怖」の視線に疲れ果てていた。
誰を見ても、自分の背後にある「御影財閥」という権力を見ている。
あるいは、自分に取り入って地位を得ようとする下卑た欲望を見ている。
だが、目の前の少女はどうだ。
彼女の瞳には、打算も、恐怖も、あるいは熱烈な憧れもない。
ただ、湖の表面のように静かで、透き通っている。
「……驚かないのだな。私がここへ来ることを」
「図書室は誰にでも開かれた場所ですから。生徒会長がいらっしゃっても、不思議ではありません」
結衣は手元を動かしながら答えた。
尊は、彼女が修復している本に目を止めた。
「それは……」
「古い詩集です。少し汚れてしまったので、今、整えているところです」
尊は、結衣の指先の動きを注視した。
無駄のない、洗練された動き。
古い紙を扱うその手つきは、まるで壊れやすい命を救う医者のようにも見えた。
「……騒がしくない場所を探していた。ここは、いいな」
「どうぞ、お好きな席へ。奥の窓際が、一番風通しが良くて落ち着きますよ」
結衣はそう言うと、再び自分の作業に戻った。
尊を「王者」として持て囃すことも、特別扱いして媚びることもない。
ただ、そこにいる一人の人間として、等身大の気遣いを見せる。
尊は促されるままに奥の席に座り、椅子の背もたれに体を預けた。
いつも自分を縛り付けている重圧が、この少女のそばでは不思議と軽くなるのを感じた。
(……この女は、何なんだ)
自分を道具として見ない。自分を記号として見ない。
ただ、静かな時間だけを共有している。
尊にとって、それは生まれて初めての経験だった。
しばらくの間、図書室には紙が擦れる音と、結衣の穏やかな呼吸音だけが響いていた。
その心地よい沈黙を、尊自身が破った。
「……白瀬、と言ったか。君に、一つ提案がある」
結衣が顔を上げる。
尊の瞳には、これまでにない真剣な、そしてどこか切実な色が宿っていた。




