第25節 本と命の流れが続く場所 がんばらないまま愛を手に入れた結衣。彼女の周りには、今日も静かで豊かな時間が流れている。
第25節 本と命の流れが続く場所 がんばらないまま愛を手に入れた結衣。彼女の周りには、今日も静かで豊かな時間が流れている。
「……えっ」
結衣は目を丸くした。
尊は膝枕をされたまま、真っ直ぐに結衣の瞳を見上げていた。
その目には、王者としての冷酷さは微塵もなく、ただ一人の男としての熱烈な愛情だけが宿っている。
「君は、私を『権力の象徴』ではなく、一人の人間として見てくれた。君が直した本のように、私のすり減った心も、君が修復してくれたんだ。……愛している、結衣」
まっすぐな告白。
結衣の頬が、みるみると熱を持って染まっていく。
「心の自由」境地を手に入れたはずなのに、心臓の鼓動だけは、どうしようもなく跳ね回っていた。
「……私、本ばかり読んでいて、気の利いたことは言えませんよ?」
「構わない」
「それに、これからも放課後は、ずっとここで本の修復をしますからね?」
「俺も、ずっとこの特等席で君を見ている」
尊の迷いのない言葉に、結衣はふふっ、と小さく笑い声を漏らした。
「……読書の邪魔をしないなら、溺愛されてあげてもいいですよ」
その答えに、尊は満足そうに微笑み、結衣の手を取って、その指先にそっと口付けを落とした。
がんばらないまま、他人の評価に振り回されることなく、ただひたすらに自分の好きな「本」に向き合い続けた少女。
彼女は無自覚のまま、絶対的な権力者を救い、学園の歪んだ階級社会を崩壊させ、最高のヒーローからの愛を手に入れた。
窓の外では、夕日が黄金色に輝いている。
図書室の棚には、結衣が修復した本たちが、静かに呼吸をするように並んでいる。
過去から現在、そして未来へ。
「エネルギーの循環」のように、本に込められた想いは絶えることなく続いていく。
「さあ、明日はどの本を綺麗にしましょうか」
結衣の穏やかな声が、誰でも自分に戻れるオアシスに、優しく溶けていった。




