第22節 図書室の平穏と、心の奥に残る小さな刺 誰でも自分に戻れるオアシスとなった図書室。しかし結衣の心には「契約」という嘘への負い目があった。
第22節 図書室の平穏と、心の奥に残る小さな刺 誰でも自分に戻れるオアシスとなった図書室。しかし結衣の心には「契約」という嘘への負い目があった。
放課後の図書室。
そこは今や、学園で最も人気のある場所となっていた。
しかし、騒がしいわけではない。
図書室を訪れる生徒たちは皆、この静謐な空間のルールを守り、静かに思い思いの本を開いている。
誰とも比べられず、ただ自分と向き合える場所。
ここは完全に、学園という砂漠の中に現れたオアシスだった。
「……よし、このページも綺麗に繋がった」
カウンターの奥で、結衣は古い植物図鑑の修復を終え、ほっと息を吐いた。
西日が差し込む特等席には、いつものように御影尊が座り、静かに洋書を読んでいる。
(……平和だなあ)
結衣は、尊のために淹れたハーブティーをトレイに乗せ、彼の席へと歩み寄った。
「御影様、お茶が入りましたよ」
「ああ、ありがとう。……白瀬、前にも言ったが、二人きりの時は『尊』でいい」
「そう言われましても……慣れませんから。保留、ということで」
結衣が「答えを決めない/保留する」という態度で微笑むと、尊は苦笑してティーカップを受け取った。
二人きりの、穏やかな時間。
だが、結衣の胸の奥には、ほんの小さな「刺」のようなものが残っていた。
(……私たち、まだ『ダミー恋人』の契約中なんだよね)
学園の階級制度が崩壊し、尊を政略結婚の道具にしようとする動きも、今やすっかり鳴りを潜めている。
つまり、尊が結衣を「盾」にする理由は、もうどこにもないのだ。
(契約は、いつ終わるんだろう……。終わったら、もうこうしてお茶を淹れることもなくなるのかな)
その想像をした瞬間、結衣の胸がキュッと締め付けられた。
嘘の関係を続けていることへの負い目と、関係が終わることへの恐怖。
それが、結衣が抱える「最後のわだかまり」だった。




