第16節 星霜祭の罠と、追い詰められた令嬢 学園最大の行事「星霜祭」。追い詰められた麗華は、結衣を完全に追放するため、卑劣な罠を仕掛ける。
第4章 大夜会の決戦
第16節 星霜祭の罠と、追い詰められた令嬢 学園最大の行事「星霜祭」。追い詰められた麗華は、結衣を完全に追放するため、卑劣な罠を仕掛ける。
御影学園最大の社交イベント、「星霜祭」の夜がやってきた。
大講堂は無数のシャンデリアで照らされ、生徒たちは皆、家柄の威信をかけた絢爛豪華なドレスやタキシードに身を包んでいる。
しかし、その華やかな空気の裏で、西園寺麗華の心はどす黒い焦燥感で煮えくり返っていた。
「……どうして。どうして誰も、私の周りに来ないの?」
麗華が扇子を握りしめながら呟く。
いつもなら、彼女の周囲には取り巻きの令嬢たちが群がり、ご機嫌取りの賛辞を並べ立てているはずだった。
だが今夜、彼女たちの多くは遠巻きに麗華を見つめるだけで、近づいてこようとしない。
代わりに彼女たちの視線が向かっているのは、会場の隅、目立たない濃紺のドレスを着て静かに佇む白瀬結衣だった。
「あの泥棒猫……! 私の帝国を、こんな風にめちゃくちゃにして!」
麗華はギリッと歯を鳴らした。
図書室を中心にして、学園のヒエラルヒーは確実に崩れ始めていた。
「家柄」や「権力」よりも、「自分が心地よくいられること」を重んじる空気が蔓延している。
麗華にとって、それは自分の存在価値を根底から否定されることと同義だった。
「麗華様……準備は整いましたわ」
唯一残った側近の一人が、耳打ちをする。
麗華の唇に、残酷な笑みが浮かんだ。
「そう。……今夜で終わりよ。あの特待生が、どれだけ卑しく、御影学園にふさわしくない存在か。全校生徒の、いえ、来賓の皆様の前で、完膚なきまでに証明してあげるわ」
一方、当の結衣は、会場の隅で静かにグラスの水を飲んでいた。
華やかなパーティーは結衣にとって居心地の良いものではなかったが、生徒会の役員として、そして御影尊の「ダミー恋人」として出席は避けられなかった。
(……早く帰って、本の修復の続きがしたいです)
結衣の心は、すでに図書室のあの静かな空間へと飛んでいた。
他人からの評価や、煌びやかな世界の中心に立つことに、彼女は全く興味がなかった。
ただ、「自分軸の確立」を保ち、自分が好きなことをする。それだけが結衣の願いだった。
「……白瀬。退屈か?」
不意に、背後から声がした。
振り返ると、漆黒のタキシードを完璧に着こなした御影尊が立っていた。
「御影様。いえ、少し空気が重いなと感じていただけで……」
「無理もない。ここは欲望と見栄の展覧会だからな。だが、もう少しの辛抱だ。私と一緒にいれば、誰も手出しはできない」
尊は、結衣を庇うように彼女の隣に並び立った。
その時だった。
「——皆様! 少々、お耳を拝借願えますでしょうか!」
マイクを通した麗華の甲高い声が、大講堂に響き渡った。




