第15節 溶け出すヒエラルヒーと、王者の微笑み 学園全体の空気が変わり始め、尊は結衣の影響力を確信する。一方、孤立を深める麗華の影。
第15節 溶け出すヒエラルヒーと、王者の微笑み 学園全体の空気が変わり始め、尊は結衣の影響力を確信する。一方、孤立を深める麗華の影。
夕暮れの図書室に、御影尊が姿を現した。
彼は入り口で立ち止まり、室内の光景に驚きを隠せなかった。
そこには、かつては徒党を組んで他者を攻撃していたはずの令嬢たちが、穏やかな顔で読書に耽っている。
そしてその中心には、いつものように静かに本を直している結衣がいた。
「……白瀬」
「あ、御影様。お疲れ様です」
結衣が顔を上げると、周囲の令嬢たちが一斉に姿勢を正したが、以前のような媚びるような雰囲気はなかった。
彼女たちは、尊を「絶対的な権力者」としてではなく、「同じ場所を愛する一人」として、静かに会釈したのだ。
「驚いたな。この学園で、これほど穏やかな光景を見ることになるとは」
「皆さん、少しお疲れだっただけですよ。本には、心を『自分軸の確立』へ導く力がありますから」
尊は結衣の隣に歩み寄り、彼女の横顔を見つめた。
結衣は無自覚だが、彼女が作ったこの「空気」が、学園の強固な階級社会を内側から溶かし始めている。
「麗華が荒れているぞ。自分の手下たちが次々と図書室へ吸い込まれていくのを、魔法か何かだと言ってな」
「魔法なんて。私はただ、本をお貸ししているだけです」
結衣は困ったように笑った。
尊は、彼女の華奢な肩を、自分でも気づかないほど優しい目で見つめる。
「君は、自分が何をしているか本当に分かっていないのだな。……だが、それでいい。君が君のままでいることが、この学園にとって最大の救いだ」
尊は確信していた。
力でねじ伏せるのではない。ただ「執着を手放す」という結衣の生き方が、何よりも強く世界を変えていくことを。
一方、誰もいなくなった教室で、西園寺麗華は爪を噛んでいた。
「……白瀬結衣。あの女、絶対に許さない……。私の帝国を、あんなゴミ溜めのような図書室に変えられてたまるもんですか!」
学園最大の行事「星霜祭」が近づいていた。
麗華の心に宿ったどす黒い怨念が、結衣を陥れるための最後の罠を編み上げようとしていた。
だが結衣は、そんな嵐の予感さえも、「答えを決めない」穏やかさで受け流していくのだった。




