第12節 鏡の中の偽物と、差し出された救いの本 容姿や地位のプレッシャーに苦しむサユリ。結衣は彼女の心を見抜き、寄り添うような本をそっと渡す。
第12節 鏡の中の偽物と、差し出された救いの本 容姿や地位のプレッシャーに苦しむサユリ。結衣は彼女の心を見抜き、寄り添うような本をそっと渡す。
一口、そのお茶を飲んだ瞬間。
サユリの目から、不意に涙がこぼれそうになった。
「……何よ、これ。変な薬でも入れたの?」
「いいえ。ただ、北条様がとても頑張っていらっしゃるのが見えたので」
結衣は作業の手を止めずに、静かに語りかける。
「この学園では、みんな『何か』になろうとして必死です。美しくなければいけない、高貴でなければいけない。でも、それは鏡の中に映る幻を追いかけているようなもの。本当の自分は、今、ここにしかいないのに」
サユリは言葉を失った。
毎朝、鏡の前で一時間かけてメイクをし、ウエストを無理に絞り、理想の「令嬢」を演じる毎日。
少しでも太れば、麗華から冷たい視線を浴びせられる。
家柄に相応しい相手と婚約しなければ、親から見捨てられる。
そんな「生の苦しみ」に、彼女は窒息しかけていたのだ。
「……あんたに、私の何がわかるっていうのよ」
「わかりません。でも、本なら知っているかもしれませんよ」
結衣は立ち上がり、書架から一冊の薄い本を取り出した。
それは、有名な古典ではなく、名もなき旅人が書き残したスケッチ入りの日記のような本だった。
「これを読むと、少し楽になりますよ。ここには、自分を飾らずに世界を愛した人の言葉が詰まっています。……『理想郷』を夢見るよりも、今この瞬間、美味しいお茶を飲んでいる自分を肯定してあげてください」
サユリはその本を受け取った。
指先に触れる紙の感触が、不思議と温かい。
「……麗華様には、内緒よ。私がこんな本を読んでるなんて知られたら……」
「もちろんです。ここは図書室ですから。何を読んで、何を感じるかは、あなたの自由です」
結衣の「心の自由」ような穏やかな空気が、サユリの強張った心をゆっくりと溶かしていった。




