第11節 潜入する監視者と、図書室の静寂 麗華の命令で結衣を監視しに来た取り巻きの令嬢。しかし、結衣の静かな佇まいに毒気を抜かれていく。
第3章 崩壊するカーストと癒やしの聖域
第11節 潜入する監視者と、図書室の静寂 麗華の命令で結衣を監視しに来た取り巻きの令嬢。しかし、結衣の静かな佇まいに毒気を抜かれていく。
「……いたわ。あんなところで、また古臭い本なんていじって」
放課後の図書室。
西園寺麗華の最側近である令嬢、北条サユリは、書架の陰から結衣を睨みつけていた。
麗華からの命令は絶対だ。
『あの特待生が、御影様をどうやってたぶらかしているのか、弱みを握ってきなさい』
そう命じられて潜入したものの、結衣はただ黙々と、破れたページの修復作業を続けているだけだった。
(なんなのよ、あの落ち着きは……。見てるだけで調子が狂うわ)
サユリは、常に周囲の顔色を伺って生きてきた。
自分のバッグが最新作か、髪型に乱れはないか、麗華様の機嫌を損ねていないか。
この学園は、一瞬でも油断すれば奈落へ突き落とされる戦場だ。
それなのに、結衣の周りだけは、まるで時間の流れが止まっているかのように穏やかだった。
「……北条様? そんなところで立ち止まっていては、足が疲れてしまいますよ」
不意に、結衣が顔を上げた。
サユリは肩を跳ねさせた。
「な、なによ! 私はただ、調べ物に来ただけよ!」
「そうですか。それなら、あちらのソファがおすすめです。西日が柔らかくて、読書には最適ですから」
結衣は一切の皮肉もなく、ただ親切に席を勧めた。
サユリは毒気を抜かれたように、フラフラとそのソファへ歩いてしまった。
「お茶、飲みますか? 今日は良い茶葉が入ったんです」
「……べ、別に、いらないわよ。特待生が淹れるお茶なんて……」
言いかけたサユリの鼻を、ふわりと香ばしく、どこか懐かしい香りがくすぐった。
気がつけば、彼女の目の前には湯気の立つカップが置かれていた。
「『自分軸の確立』を助けてくれる、ハーブのブレンドです。一口だけでも、どうぞ」
結衣の微笑みは、学園の誰もが浮かべる「仮面の笑顔」とは全く違う、透明なものだった。




