表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/25

第10節 図書室の変質と、静かに広がる救済  結衣の不思議な落ち着きに惹かれ、図書室を訪れる生徒が増え始める。階級社会の壁が、少しずつ溶け出す。

第10節 図書室の変質と、静かに広がる救済  結衣の不思議な落ち着きに惹かれ、図書室を訪れる生徒が増え始める。階級社会の壁が、少しずつ溶け出す。


 晩餐会の準備を通じて、結衣の実力を認める生徒が少しずつ増え始めていた。

 そして何より、今の結衣が放つ「何者にも動じない空気」に惹かれる人々が現れたのだ。


「あの……白瀬さん。ここ、座ってもいいかしら」


 ある日、麗華の取り巻きの一人である令嬢が、おずおずと図書室にやってきた。

 彼女の目は、少し腫れている。


「もちろんです。お好きな席へどうぞ。……お疲れのようですね。カモミールの香りのしおりを作ったのですが、使いませんか?」

「……え?」


 結衣は、彼女の心の奥にある「痩せなければならない」「完璧でなければならない」という強迫観念を、そっと見抜いていた。

 

「これを本に挟んでおくだけで、少しだけ呼吸が楽になりますよ。本も、呼吸をしているんです。人間と同じで、あまり無理をさせると傷んでしまいますから」


 結衣の何気ない言葉に、令嬢の目から涙がこぼれた。


「私……ずっと、麗華様に嫌われないように、親に失望されないようにって……。でも、ここに来ると、自分が何者でもなくていいような気がして」

「ここは、誰でも自分に戻れる場所ですから」


 結衣は、彼女に一冊の詩集を差し出した。

 それは、失意の中にあったかつての文豪が、ただ「今そこにある自然」だけを讃えた美しい本だった。


 一人、また一人と。

 ギスギスしたカースト制度の中で息苦しさを感じていた令嬢たちが、結衣のいる図書室に「避難」しにくるようになる。


 そこでは、親の総資産も、ブランド物のバッグも関係ない。

 ただ静かに本を読み、結衣が淹れるお茶を飲み、「心の自由」時間を共有する。


 図書室は、もはや「寄生虫の掃き溜め」ではなかった。

 そこは、学園という過酷な階級社会の中に現れた、唯一の「オアシス」へと変貌しつつあった。


 そして、その中心にいる結衣は、相変わらず無自覚のまま、ボロボロになった本を丁寧に修復し続けている。

 彼女の手によって、本だけでなく、傷ついた生徒たちの心までもが、少しずつ「再生」されていることに気づかぬまま——。


 その様子を、扉の陰から見つめる尊の瞳には、強い独占欲と、深い尊敬が混ざり合っていた。


「……白瀬。君は本当に、私が手放したくない宝物だ」


 カーストの崩壊は、もはや誰にも止められない速度で始まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ